第3章 七不思議編

第16話 七不思議

 テストが終わり、クラスや学園中に漂っていた緊張感も元通りになった。テスト週間中のぴりついた空気などなかったかのように、皆和気あいあいと話している。

リリアーヌ先輩やアンドレ先輩も二年、三年の首席をキープしたらしく、私のいる固有魔術研究会は土属性の全首席が揃ったために「首席研究会」と呼ばれるようになったとシルヴィづてに聞いた。

 しばらくはこれといった行事もないし、のんびりと新しい魔術を探求できると思っていると、何やら不穏な噂が出回っているらしいとシルヴィが口にする。

「カノンは知ってる? この学園の七不思議」

「……七不思議?」

 七不思議──そのまま考えると七つの不思議ってことなのかな。不思議ってなんのことだろう。

「そ。昔流行らなかった? 学校でトイレの個室にお化けがいて引きずり込まれるとか、誰もいない廊下から足音がするとか、そういう学校で起こる怖い話を七個まとめたやつ」

「わ、私のところでは流行らなかった、かな」

 私には塔に来るより前の記憶がない。それを土聖であることを隠して説明するのは面倒なので、シルヴィには悪いけど適当に誤魔化す。

「そっか。私の学校では結構流行ってさ──って言っても私が七歳とかそこらでよく覚えてないし、私自身は信じてなかったけどね」

「その七不思議がこの学園にもあるってこと?」

「あたしもさっき知ったんだけどね、そのうちのひとつを違うクラスの人が実際に見たんだって。夜、誰もいない練習場で人魂が出るってやつ」

「人魂……」

 たぶん遅くまで残っていた生徒が炎属性の魔術でも使っていたのだろう。きっと暗闇の中、生徒の姿が見えずにそう勘違いしただけ──不思議でもなんでもない気がする。

「残っていた生徒が魔術の練習をしていたのを見間違えただけ──今カノンそう思ったでしょ」

「う、うん」

「あたしも当然そう思ったんだけど、後から調べたらもうその時間には他の生徒は全員帰ってて警備員さんもそれを確認したんだって」

「警備は万全なはずだし不審者が入ったって可能性も薄いよね……」

「そうねぇ、だから本当に七不思議だと騒がれてるってわけ」

 何の不思議もないじゃないかと最初は思ったけど、これは意外と謎が深いのかもしれない。

「噂を教えてくれた子はテスト前に追い詰められすぎて死んだ生徒の魂が人魂になって練習場を彷徨っているとかなんとか──って言ってた」

「それはちょっと怖いかも……」

「うんうん怖いよね。でもあたし、正体が分からないから怖いんだと思うんだよね。だからさ──二人で解明しちゃおうよ、人魂の正体」

「え……」

「校舎は鍵を閉められちゃうから人魂が出た時間まで外で待ちかまえるの。ただ、その時間はちょっと暗いから帰りが不安なんだよね。あたしは寮だからいいとして、カノンが馬車で帰れればいいんだけど……」

 シルヴィがどうしようかと腕を組みながら唸っていると、私の背後から声がする。

「その話、俺も一枚噛ませてもらおうか」

「ちょ、ちょっと殿下……」

 立っていたのはパスカル殿下といつも殿下についている二人。

「俺も人魂の正体が知りたいんだ。馬車は俺が手配してカノンを送ってくからさ。なあ、混ぜてくれよ」

「で、殿下が参加したいとおっしゃるのであればいいですけど……いいんですか? 馬車まで手配していただいて」

 シルヴィもまさか殿下が参加するのは想定外だったようで、動揺しているのが分かる。

「ああ。今日は迎えが定刻通り来るから明日になってしまうが、それでもいいか?」

「もちろんです。カノンも明日でいいよね?」

「は、はい」

 明日は特にこれといった予定は入ってないから大丈夫なはずだ。

「じゃあ決まりだ。明日、研究会が終わったらこの教室に集合な」

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