第15話 テスト本番

「みなさんご存じの通り、今日は中間テストがあります。午前に実技、午後に筆記──実技試験では自分の番以外の時間は練習をしても、筆記試験の勉強をしてもいいですよ……まあこのクラスは最初なので練習の時間などないんですけどね。さあみなさん、練習場に出ましょう」

 ジュアン先生がいつもと変わらない調子で朝のホームルームをする。目の隈あるため不健康そうに見えるジュアン先生だけど、おそらく今はこのクラスで一番元気だろう。それほどまでに周りの生徒──私たちの顔色が悪すぎるのだ。

 顔が強張っていたり、手が震えていたり、顔が青ざめていたり……誰が見ても明らかなくらい皆緊張している。普段は常に余裕のあるシルヴィだっていつも顔に浮かべている笑みがそこにはない。

 かく言う私も緊張していないわけではない。学園のテストというものは人生で初めてだし、これに向けて私も頑張ってきた。もちろん自分のテストの心配もあるけど、シルヴィの魔術がどうなったかも心配だ。

 いくら元の魔術は使い慣れたものとはいえ、改変後の魔術を練習する時間は一週間もなかった。今日までに制御できるようになっているだろうか。

 もし制御しきれずに彼女のテストが散々な結果になってしまったら私のせいだ。毎日熱心に練習していたシルヴィに合わせる顔がない。どうか上手くいってほしいと私には願うことしかできないけど、頑張ってほしい。




 クラスメイトと審査員である先生しかいない練習場に着くと、テスト本番がいよいよ来るんだと感じて緊張が高まる。もう朝の柔らかな陽射しさえ緊張する私を嘲笑っているような気さえする。

「次、カノンさん。所定の位置に」

「……はい」

 パスカル殿下の魔術を見てからいつもの土弾を使うか、テスト週間中に改変した土弾を使うか決めようと思っていた私は失念していた──出席番号順にテストは実施されることを。私の今の苗字はエインズワース──綴りの都合上、パスカル殿下よりも先に順番が回ってくる。

(どうしよう。後がつっかえてるからすぐに決めなくちゃ。)

 安定を求めるなら以前から使っている方。慣れているから滅多に外さないし、テスト週間中に術式を弄っていなければパスカル殿下よりも速度は勝っているので一位も取れるだろう。

(でも……)

 せっかく頑張って術式を変えてそれを使いこなせるようになったのだ。成果を披露したい──魔術であっと驚かせたいという魔術師の性が私に改変した方を使えと唆す。

 それに以前の術式を私が使った後に殿下が術式を変えていたら、殿下が首席で私が次席ということもあり得る。塔の魔術師としてそんな結果は塔のみんなに報告できない。ここはリスクを承知で改変後の術式を使うしかない。

「それでは魔術を使ってください」

「はい。土よ……」

 多少時間がかかってもいい、練習よりも丁寧に詠唱をしながら術式を組み上げる。

「弾となりて……飛べ!」

 詠唱が終わった瞬間にヒュンという心地良い音が私の耳に届き、発射した弾は吸い込まれるように的の中央に当たる。カンという短くて鋭い音が他にガラガラの練習場に響く。

(よし……!)

 内心で跳び上がりたいほどの喜びを嚙み締めながら、心を落ち着けてありがとうございましたと短く教師陣に挨拶をし、クラスメイトが集まっているところへと向かう。

「次、シルヴィさん」

「はい」

 順番の回ってきたシルヴィがさっきまで私のいた位置へと歩を進める。近づいてくる彼女に「頑張って」と声を掛けようと思ったけどかえってプレッシャーになるかもしれないと躊躇していると、すれ違う直前シルヴィがフッと笑みを浮かべる。

「見てて」

 すれ違いざまの小さな呟きを聞いて振り返ると、シルヴィはすたすたと歩いていき魔術を撃つ位置へと立っていた。

 テストは一発勝負──ドキドキしながらシルヴィを見ていると、自信に満ちた詠唱gア聞こえてくる。

「──飛べ!」

 魔術発動とともに土の弾が生成され、一直線に的に向かい──弾は的のど真ん中を捉えた。速度はちょうど最初の授業のパスカル殿下と同じくらい。

 よかった、と安堵すると同時に感心する。シルヴィは一週間で私の渡した術式を制御しきってみせた。一度も飛ばしたことのない速さで弾を飛ばし、それを制御する──きっと大変なことのはずなのに。

 それを当たり前のように──さも付け焼刃などではないように本番で成功させる胆力も、成功できるレベルにまで引き上げる技量も持ち合わせている。きっとシルヴィはすごい魔術師になる、なんとなくそんな気がした。




 後日、テストの結果が廊下に貼り出された。土属性の一位は私、二位はパスカル殿下で、シルヴィは四位につけていた。他の生徒の中で大きな張り紙を見上げるシルヴィはとても満足げだった。

 私はというと、他のクラスの様子が分からずにハラハラしていたのが、塔のみんなに報告できそうだとホッとした。

 それにしても、一週間という短い期間しか練習しなかったもののシルヴィの土弾は少なくともうちのクラスでは群を抜いて速かった。彼女を押さえて三位を取った人は、いったいどんな人なんだろう。

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