第14話 腐れ縁
町庁を出て、ギルドに戻った私はとりあえず仕事場の片付けをすることにした。スカウトを受けようが断ろうが、どのみちすぐに私はここを明け渡さなければならないからだ。
だが荷物は少なく、片付け自体は30分もあればすぐに終わった。
残った時間、私は広くなった自室で最後のひとときを過ごしていたのだが、
「おっすー、シオン大変だってねー?」
「なんだファウスか」
「扱い雑じゃない!?」
ファウスは、ここの受付の主任である。
私とファウスは学生時代からの腐れ縁であり、立場は違えど互いに冗談を言い合う私の数少ない親友と言える存在である。
立場で言えば私がファウスのひとつ上の課長レベルの役職で、年齢で言えばファウスが私の1つ年上ということで職場の内外問わずお互いタメ口である。
丁度いいタイミングだったので、私はファウスに意見を求めることにした。
「……そっかー、ギルド長か無職……うーん、思った以上に凄いことになってるねぇ……」
「思った以上って……知ってたのか?」
「うん、まぁリューバくんとウールちゃんから、シオンがキレたことまでは聞いてたから」
やはり、漏れるとしたらその2人からか……というより、
「2人といつの間に知り合ったんだ!?」
「昨日だよ。なんかお金がないらしくて道端で倒れてたから泊めてあげたの」
いや初対面の人を家に泊めるファウスも大概だが、道端で寝るって……あの2人の一文無しの設定こだわりすぎだろ……
「しっかし、ギルドへの愛があれば大丈夫って言われてもなぁー」
「ギルドへの愛……モチベーションという点で言うなら、それも1つではあるかもしれないわね」
「ファウスはそういうモチベーションか何かはあるのか?」
ファウスは少し考えて、
「うーん、なんというか……ここの冒険者も職員もみんな家族みたいなものだから、みんなが幸せになるように働くこと、とかかな」
すんなりと回答するファウスに、改めて答えられなかった自分との差を感じてしまう。
だからこそ尚更私にギルド長の提案が来たのかが謎である。
「さてはシオン、『なんで自分がギルド長に……』とか悩んでるなー?」
こんな風に私を見ただけで図星をつくことができるファウスの方が適任じゃないのか?
「いやだって実際そうじゃないか? 適任なら他にいただろうに……なんかクビになりかけの奴を適当に据えたい気がするのだが……」
だがファウスは納得していないらしく、
「それはないんじゃない? 私もシオンがいいと思うし。それに、そんな適当な事をする人が30年も町長を続けられる?」
「それはそうだけど……いやだって……」
確かにそれほどすごい人に指名されたのは光栄ではあるのだが、なんというか胡散臭さというものが感じられるような気がしなくもないような……
そんな私に見かねたのか、気づけばファウスは目の前で仁王立ちをしていた。
「……もーうっ! やる気はどこに行ったのやる気は! 3年前くらいに『私がこのギルドを変えてやるー!』とか言ってたくせに!」
そんな恥ずかしい事を言っていたのか3年前の私!? 確かあの頃は職員になって間もない頃……まあ言っててもおかしくはないが……
「……っていやいや、そんなセリフ言ってたか?」
「言いました! 一言一句私が覚えてる! 今こそギルドを変えるチャンスなんじゃないの!?」
「時効だ時効! それに、ギルド長になったからってそんな簡単に変われる訳じゃないし」
そう言うと、ファウスは打って変わって落ち着いた様子で、
「じゃあ逆に聞くけど、もし断ったとして1年間ニートやってて楽しいの?」
「それは……」
返す言葉が思い浮かばなかった。
ギルド長もそうだが、断ったとしても先が見えないのは同じだ。
何も断ることだけがいいわけではない、ファウスの伝えたかったことはそういうことなのだろう。
「……なんかすまない、弱腰過ぎた」
「別にシオンがどうしようが私は応援するけど、後悔はして欲しくないから」
そう言って向けてきた微笑み顔に、少し安心する。ファウスに相談したのは何だかんだ良かったのかもしれない。
「そういえばこれ、そこに落ちてたよ」
「ん? ……あぁ、すまない」
手渡されたのは、Dランクの冒険者バッジだった。
「思ったんだけど、冒険者をやり直すっていうのはどう?」
「それは絶対にない」
そう言うと、ファウスは少し笑って部屋を出ていった。
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