第12話 クエスト(ウール編)
ウールは、ある家の前に来ていた。
手に持った依頼書に書かれた地図と、その家を照らし合わせて位置を確認する。
「すみませーん、冒険者ギルドです!」
「ん? 依頼なんか出していないなぁ……」
「えっ、でもこの紙に……これ!」
その時、ウールは地図を逆に見ていることに気づいた。
「すみません、冒険者ギルドです。依頼主の方のお宅ですかー?」
気を取り直してもう1回。ウールは今度こそ、その依頼書を念入りに見た上でその家の前に立っていた。
しばらくすると奥の方から足音が聞こえてきて、ひとりの女性が顔を出した。
「はいー……あれ? 見ない顔だねー、新人さん?」
昔からこの街は冒険者ギルドと密接に関わり合ってきた。住民に何かあったら冒険者が駆けつけ、ギルドに何かあったら住民が力を合わせて協力するという相互依存の関係である。なので、少し長く住んでいる人だとある程度冒険者の顔と名前は覚えているのだ。
「はい、今日Fランク冒険者になったラウレッタと申します……気軽にウールと呼んでもらえれば嬉しいです」
「ウールちゃんね、これからよろしく!」
「はい、よろしくお願いします」
ウールがそう言って小さく頭を下げると、その目線の先に見えたのは小さい女の子だ。
だが、その女の子の表情はどこかおかしく、目元は赤く腫れて、度々鼻をすすって、目に涙を浮かべていた。リューバに度々泣きつくウールには分かる。これは散々泣いた後の顔だ。
「どうしたのかな?」
ウールは目線を女の子に合わせてそう言うと、優しく微笑んだ。
すると少女はいっせいに泣き出し、母親の足にしがみついた。
「こらこら……実は愛犬が逃げちゃって、それで依頼を出したんです」
「あらあら、だからこんなに泣いているんですね」
「はい。今日の早朝にいないことに気づいて、それからすぐに依頼書を出しました。遠くに行っていなければいいけど……」
早朝に気づいたということは、逃げ出したのは昨晩から朝ということが考えられる。それくらいの時間なら、そう遠くには行っていないはずだ、とウールは予想した。
「大丈夫、このウールに任せてください! 日が暮れるまでには必ず見つけましょう」
「本当によろしくね。私たちも近くを探してみるから、ウールちゃんには外回りをお願いしようかしら」
「了解です!」
今こうして説明を受けていた時間でも愛犬はどんどん遠くへ逃げているかもしれない。なので説明は手短に終了した。早速クエストスタートである。
***
とりあえず街の端に来た。立ち回りとしては、円状の街に沿って歩いていき、どんどん内側に入っていくという感じだ。
それにしても随分と閑散とした住宅街だ。ギルドの状況から分かるように、この街にはそれほど人が多くないのだろう。
でもそのおかげで遠慮なく愛犬探しをできる。それに、口うるさい白着の青年に嫌気を覚えることもない。
「さっさと見つけてアイツをぎゃふんと言わせてやるんだから……!」
そして周りを念入りに調べながら歩いていく。家と家の間、樽の後ろ、積まれた荷物の物陰など、どんな小さな隙間でもどんどん探していく。小動物はどんな隙間でも入り込んでいくのだ。
ウールは視力が良かった。どれくらいかというと、ギルドのクエストボードの位置からカウンターでシオンが依頼書に書いている文字が正確に見えるほどだ。
「わん、わん、わん……どこですかー、出てきてくださーい!」
呼びかけたりもしてみる。もしかしたら返事が帰ってくるかもしれない。
その調子で、しばらく歩いた。
約1周経過、最外殻なので1周するのに中々時間がかかった。
変化としては、人がぼちぼち出てきたということくらいだ。犬はまだ見つかっていない。
「……まあいいでしょう。探し方はこのままで、もう1周頑張りましょうか」
約2周経過、距離は減ったがこれもまた時間がかかった。犬はいない。
この頃になると人の声も聞こえ始めてきて、犬を探すのにも若干外からの目を気にするようになってきた。
なので他の人から変に見られないように、色々と工夫しながら歩いていると効率が落ちたのだ。
「中々いませんね……隈無く探しているはずなのですが、どこに隠れたのでしょうか」
そんなことを呟きながら、家の隙間、樽の後ろ、etc……などを見つつ歩いていく。
ちなみに、そんな遅すぎる足取りの時点で他の人からは変な目で見られているのを本人は気づいていない。
約3周経過、見つからない。この頃から、ウルスはあることに気づき始めた。
「はぁ、はぁ……これ……リューバの方が……楽して……ないですかっ……」
場所がある程度分かっていて、動かない植物に比べ、ペットはどこに逃げたのか分からない。それに、ずっと静かに座っている訳でもない。
見た目だけで判断してしまったのだ。街中を駆け回るペット探しと街の外を奔走する植物探し、移動範囲を見れば植物探しの遥かに広いかもしれないが、実質的に歩く距離はこちらの方がハードかもしれない。
それに気づいた瞬間、ウールは苛立ちや後悔、反骨心に近い何とも言えない感情に感情に苛まれ始めた。
「――っと、いけないいけない。考えすぎですね。いってもまだ午前中、たんまり時間は残っています。そうです、モフモフのワンちゃんが待っているのです」
だが、ここはモフモフのワンちゃんの想像をすることで怒りを鎮める。こんなところで怒り散らしていてもなんの利益にもならない。
それに、今こうして地団駄を踏んでいる時でもリューバはきっと遠方へ歩いているのだろう。リューバがクエストを終えた時、何も成果がなければせっかく譲ってくれた意味がない。なんせ、それだと今後の女神としての威厳の維持に支障が出かねない。
そこでウールは頭を使うことにした。
犬探しから随分と時間が経った今、かなりマンネリ化してきたのと同時に、街の中心に近いからか、ウールはそこら辺にいる人の数が増えてきたことにふと気づいたのだ。
「すみません、今日にワンちゃんとか見ませんでした?」
そう、聞き込みをすることによって視野を広げようと考えたのである。
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