(自称)勇者と始めるギルド経営
ナスの覚醒
第1話 勇者来たれり
「じゃあ、俺達の後はまかせたぞ」
「ふざけるな……! お前達がいなくなったらこのギルドはっ……!」
絶望
その2文字が今の状況を説明するのに最も都合が良かった。
遠ざかる逞しき冒険者達の背中、私――シオンはギルドを出ていく彼らを玄関で見届けることしかできなかった。
「もう終わりだ……」
私の勤める冒険者ギルド――ラウラスは滅亡の危機に瀕していた。
過去にも他ギルドの増加による冒険者数の減少、それに伴い依頼数も減少、財政難など様々な困難が降りかかってきた。
だが、ラウラスには看板であるAランク冒険者が5人いた。5人のおかげでギルドもある程度の地位を保つことができ、最低限収入も安定していた。その5人が生命線であり、唯一の誇りであった。
しかし、事態は急変した。
5人の続けざまの活躍により求められる年俸は年々高くなっていく一方、財政は圧迫され続けていた。
そしてついに、払える資金が底を尽きた。
それと同時に「誠意は金だ」と言わんばかりに5人全員が移籍、移籍先はよりによって、しのぎを削るライバルであるミルヴァムという超大規模ギルドであった。
1人ならまだしも、全員の移籍となればこれが致命傷となり得る。ついにラウラスには何も残らなかった。
「馬鹿野郎っ……!」
私は膝をついたまま一点を見つめて、地面を拳で叩いていた。
涙も出ない、かと言って乾いた笑いも起こらない。
だが実際、私の知らない所でラウラスの腐敗化は手の付けられない所まで進んでいた。それは、もはや私だけでどうにかできる問題ではなかった。
『もう限界です、後は頼みます』
責任を逃れるためにこの手紙を残し、ギルド長も失踪した。
しかし、頭の中を駆け巡るのはやりきれない悔しさと虚しさであった。もっと私にも何かできたはずだ。
私はもう一度、思い切り床に拳を打ちつけた。
そんな私の肩を、誰かが優しく叩いた。
振り向くと、そこには1人の青年がいる。
「落ち込むな。まだ何とかなる」
コウズケ=リューバ。Fランク冒険者である。
リューバの無責任なその言葉に、私はついカッとなってしまった。
「よくそんなことが言えるな……お前だって仕事を失うかもしれないんだぞ」
なんせ彼は昨日突如ギルドに現れた、冒険者2日目のド新人である。
だが、リューバは笑った。そうだ、昨日から思っていたのだが、この人は少しおかしい。
「こんなの、復讐モノだとよくある話じゃないか」
「……は?」
意味不明な言動、そして謎にいつも高いテンション。
それが今の私には、ヤケに癪に障った。
「……Fランク冒険者が、何言ってるんだよ」
私は思わずそう吐き捨てた。
冒険者ギルドの職員たるものが、ランクで人を判断してはいけない。それは私が一番よく分かっていた。
言ってから、その過ちに気づいた。だがそれはしっかりリューバに聞こえていたようで、リューバはその言葉を聞いて……舌打ちをした。
「Fランク冒険者ァ!? いや、まあそうだけど――それにしてもそれは違うだろっ!」
「今のは言いすぎた。ごめ……」
「ワタシは、『勇者』と言ってるだろうがぁっ!」
リューバはそう言い放った。冗談を言っているとするならばこういう時はニヤけた顔をしているのだが、リューバは真顔だった。まるで自分が本当に『勇者』だと思い込んでいるようなのだ。
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