太陽燦々、石碑どこっ!?

黒本聖南

 カンカン照りに咲く花よ、黄金だけに留まらず。

 白に黒、赤に紺。

 主に女性達の手の中で、花は咲き誇る。

 空いた片手で汗を拭いながら、きっと雨が降る日を、今は遠き冬の日を、心の底で待っているのだ。


◆◆◆


 改札の向こう、日傘を差しながら忙しなく通り過ぎていく人々をぼんやり眺めながら、ふと、少し前に読ませてもらった小説の冒頭を思い出す。

 確か、主人公も今の僕みたいに、誰かを待っていたんだよね。

「おーい」

 誰かの呼び声に視線を向ければ、改札を抜けて真っ直ぐ僕の元へ駆け寄る少年が目に入った。

「あ、大将おおまさ君」

 待ち人の一人、大将 灰青かいせい君。

 紺色のワイシャツに白い短パンと、涼しげな格好だ。

 正直僕もワイシャツにしようか迷ったけれど、裾が長めの青いティーシャツにしたんだよね。下は黒い短パンだけど、白にしていたら恥ずかしいことになってたな、持っていないからいらない心配だけど。

「悪い鷹夜、待った?」

「そんなに待ってないよ、大丈夫」

 ほんの五分くらいだしね。

「それなら良かった。じゃあ、行こう」

「え?」

 当たり前のようにホームに行けるエスカレーターへと乗り込もうとしたから、慌てて大将君の手を掴んだ。

「ま、待ってよ大将君。まだ音豆ねずさんが来てないよ」

 今日は僕と大将君、それに音豆さんと三人でのお出掛けのはず。

 というか、このお出掛けのメインは音豆さんのはずだ。

「あー……スマホ、見てないのか?」

 スマホ?

 そういえば家を出てから、何となく見てなかったけど、何かあるのか。

 ポケットに仕舞っていたスマホを取り出すと、丁度画面には音豆さんの名前と共にメッセージが表示されている。

『ごめんなさい』

 詳しく内容を見ていくと、昨日からおばさんの体調が悪く、病院に連れていかないとだから、今日は僕らと出掛けられないらしい。

 大丈夫かな、おばさん。

 音豆さんとは幼馴染みで、おばさんとも何度も顔を合わせたことがある。そんな時、あまり身体が丈夫でないという話を、本人や別の大人から聞いたことがあるけど、心配だな。

『気にしないで。ちなみに、何か欲しい物とかある? お見舞いがてら買ってこようか?』

 メッセージを送ったら、すぐに返事がきた。

『必要な物は揃ってるから大丈夫。それより、大将君にも伝えたけど──ケンちゃんには写真を撮ってきてほしいの』


 本日のお出掛けの目的。

 音豆さんの小説に必要な写真を撮ってくること。


 音豆さんは中学生の頃から文芸部に入って小説をいくつか書いているんだけど、作品の表紙に僕の写真を使ってくれている。

 僕の祖父ことじっちゃんが写真好きな人で、その血を受け継いだ僕も暇さえあれば写真を撮ってるような人間だった。

 他の人は美術部や漫研の人に表紙を頼んでいるのに、音豆さんだけはずっと、高校生になった今も、僕に表紙を頼んでくれる。

 所詮は下手の横好きだけど、自分の特技を頼られるのは嬉しい。

 全力で応えないと。

 任せてと送って、大将君と向き合う。

「ごめんね、行こっか」

「だな。──いざゆかん、三鷹へと!」

 昔々、じっちゃんとも行った場所。

 昨日、行ってくるよって言ったら、一緒に行くってうるさかったな……。

 じっちゃんの分も撮らなきゃだ。

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