4-19 ティエスちゃんはインターミッション
「まずは順調な第一回戦突破、お慶び申し上げますわ」
「うん、卿がここで躓くとは思っていなかったがね。ああも奇麗に決めてくれれば、文句のつけようもあるまい。ご苦労だったね」
「まさに瞬殺でしたもんね~。ほんと、荒事にかけては右に出る者がいませんねー」
「……小官としては、お三方が何で一緒に茶ァシバいてるのかってことにツッコミを入れたいところなんですがね。あと、お褒め頂き光栄です」
半笑いで梅昆布茶をすするティエスちゃんだ。現在「天の間」の茶室でティータイム中。面子はリリィ姫、ハラグロイゼ卿、ミッティ、そして俺である。あ、一応エルヴィン少年もいるか。無心で茶菓子の羊羹を突っついている。まあ気持ちはわかる。
いやほんと、今日の試合スケジュールが終わったから姫護衛してホテルに戻ったら、なんかしれっと二人がいて茶あ飲んでんだもの。そういうサプライズはいらんのですって!
ちなみにリリィ姫の側仕え筆頭のライカ君などは露骨に警戒の目を二人に向けている。そうだよね、急に他国の要人が押しかけてきても迷惑だよね。まぁ俺もバッチリ警戒されているけども。
「さて、楽しくお茶会だけしていたいのもやまやまなんだけどね。そろそろ仕事の話をしようか。よろしいね、リリィ姫?」
「ええ。お願いしますわ、ハラグロイゼ様」
そういうコトになった。ちなみにリリィ姫とハラグロイゼ卿だと、ハラグロイゼ卿のほうが立場は上だ。外交使節のトップやってるような人だからな。ミッティは……どうなんだろうな。とりあえず軍属医官のままなら俺と同じくらいの立場だけど。エライゾ領主家の姫となると若干ミッティのほうが立場は上になるかもしれん。
まあ、それは今は関係ないか。ハラグロイゼ卿がことりとお膳に茶碗を置くと、一息ついてから話し出した。
「まず、ティエス卿に立ち合いの依頼が山ほど来ている」
「全部断っていただきたい」
「うむ、そうしよう。そんな時間もないからね」
立ち合いなんて言ってるがまあ果し合いである。俺も現場行って看板立てて指さしてる写真撮るくらいならしてやらなくもないが、いちいち死合ってやるほど暇ではない。そういうのは戦争にでもなったときにしなさいね。
森域の連中は野蛮人なので脳筋が多い。武人といえばかっこつくが、たぶんそんな立派なもんではないと思う。とにかくそんなんだから強い奴を見るとつい腕試ししたくなっちゃうんだ! となる。天性の強者であるティエスちゃんとしては迷惑千万この上ない話だ。やれやれ。
ハラグロイゼ卿もあっさりしたもので、彼自身ばからしい話だと思っているのだろう。これからする話のためのとっかかり、ジャブみたいなものだ。
「では次だが、例の襲撃者……オティカの目撃情報があった」
「目撃情報……? 民間からということですか?」
軍が見つけたんなら目撃情報なんて言い方はしないだろう。ハラグロイゼ卿が頷く。
「それも複数件だね。だが、場所はどれも同一だ」
「それは……?」
「――中央市場、でしょう?」
答えたのはハラグロイゼ卿……ではなく、リリィ姫だった。疑問符こそついてはいたが、それはずいぶんと確信めいた言葉だった。後ろでライカ君がもにゃっとした顔をしている。こりゃ、ライカ君も訳知りみたいだな。ハラグロイゼ卿もうなずく。
「いかにも。姫からの情報通り、統合軍は市場を捜索してませんでしたから。案外すんなりでしたよ」
「うわでた」
「その反応はあんまりでしょう。頼れる後輩が来ましたよ、先輩」
さっきまで影も形もなかった
「それで、こいつまで来てるってことは、今日打って出ると?」
「うん。今からティエス卿には、リリィ姫の伴として中央市場に行ってもらいたい。名目上は、視察ということになっている。そうだね?」
「はい、手続きはすべてこちらで」
なんというか、肝の座った姫様である。これ、今からあんたを囮にして敵を釣り出しますって言ってんだけどね。理解したうえでこれなんだから、まったく恐ろしいもんである。
ま、腹が決まってんなら話は早い。さて、そんじゃひと狩り、いきますか!
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