2-28 ティエスちゃんは訓練する(ダイジェスト)④

4.緊急出動スクランブル


「いやぁ、今日の魔物は強敵でしたね」


「またミノタウロスでしたなぁ」


 選抜隊のみんなとだべりながら帰路についてるティエスちゃんだ。今朝がた魔物の出現報告があり、実地に勝る経験なしということで当番の第2小隊に譲ってもらい選抜隊で出動。ボブゴブリンの群れって話だったんだが、現場に到着してみるとボブゴブリンの群れに加えてミノタウロスがおまけについてきた。

 ちなみにややこしいんだが、ゴブリンは人類勢力でボブゴブリンは魔物である。まあ昔のしがらみの名残やね。見た目がゴブリンをデカくしたような感じなのよ。んで命名当時は人間から見ればゴブリンなんて魔物と大差なかったわけで、そういう名前になったと。

 なお森域統合府はボブゴブリンの呼称変更を強く訴えている。じゃあお何か? おめーらトロールのことボブヒューマンっていうんか!? てなもんである。が、今のところ王国も帝国も改めるつもりはないようだ。両大国、基本的に森域のこと舐め腐ってるからね。それくらいの国力差がある。パワーバランスってヤツだ。仕方ないね。火種が燻って小火になってももみ消せるが?? みたいな態度である。矢面に立つのは俺らなんだよなぁ。


「しっかし、魔王が活性化してるってハナシ、5年くらい前から言われてるっスけど討伐まだやんないんスかね?」


 ハンスがふと思い出したように言う。今回はミノタウロス相手にワンパンされなかったのでずいぶん余裕があるようだ。

 ちなみに魔王というのは魔物の親玉である。というか順序が逆だな。

 この世界には前世まえの常識の埒外にいるような怪獣が蔓延っているが、それも大きく2種類に分けられる。「魔物」と「モンスター」だ。

 どちらもデカくてヤバい生き物なのだが、モンスターはあくまでこの世界の常識と生態系の中で順当に進化してきた「系統樹を辿れる」生物なのに対して、「魔物」ってのは魔王から発生するぽっと出の疑似生命だ。だから魔王は魔物の親玉っていうよりは親だな。魔物に生殖機能もないし、ものを食べる必要もない。有機物質で出来たマシーンみたいなもんだ。

 魔王は存在する限り魔物を生み出し、魔物は他の生命体に対して敵対的な行動をとる。普通に害悪なんだよな。人類種の天敵って感じ。

 なお魔王はどんな姿をしているかというと、木である。樹木。魔王城の玉座に踏ん反り返ってフハハとかしない。森の奥そこでひっそり生えながら魔物をポコポコ生産する、言ってしまえばプラントだな。やけにシステマチックである。里木……いや野木かな。あんな感じ。魔王の死骸は標本化されて王都の博物館に展示してあったが、まあなんというか、黒くて節くれだった木だった。


「いまのところ、中央でもそういう話は出てないそうよ。実家の弟からの手紙だから、情報の精度は甘いし古いでしょうけど。中隊長、あなた例の後輩君から何か聞いてないの?」


 ニアがこちらに水を向けてきた。相手がただの木だといっても、周りは生み出された魔物でうじゃうじゃだ。討伐にはそれなりのリスクがあるし、いざ討伐するとなれば大規模な討伐隊が組まれる。そうなれば自然と王都周りはざわつくし、情報部なんかも活発に動くだろう。

 というかこいつ普通に実家の弟と文通してんのか。ふてぇやつだなしってたけど。

 俺はふてくされるように答えた。


「なーんも。あいつ、ベッドの中じゃ口もかてーからな」


 ついでにそれなりにテクニシャンだ。


「"も"ってなによ"も"って」


「おいおい作戦行動中だぞ。気になるお年頃なのはわかるがよ、シモの話はプライベートの時にしな」


「あんたが振ったんでしょーが!?」


「ニア小隊長、おさえて、おさえて」


 武器を振り上げたニアの強化外骨格を、ハナッパシラ君の強化外骨格が羽交い絞めにして宥めた。おいおいあとで始末書な。


「フム、ま、そのための我々でもあるのだろうな。いざ魔王討伐となれば、確実に森域に派兵することになる」


「でしょうなあ。技術協力の件も考えれば、挨拶周りには実に都合がいいタイミングであります」


「はー。外交ってヤツっスか」


 その横で、トーマスと副官が中身のある話をしていた。ハンスもふんふんとうなづいている。なんでわかるかって? 強化外骨格の頭部ユニットが動いてるからだよ。気を抜くとどうでもいい動作を拾っちゃうんだよな。こらこら、基地に還るまでがスクランブルだぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る