2-2 ティエスちゃんは紹介する①
「傾注! 野郎ども元気してたようだな、長らく留守を守ってくれたこと、まずは感謝する! 俺がお前らに感謝するなんてよっぽどのことだ! 滅多にないレアケースに遭遇できてよかったなお前ら! 感謝しろ!」
『サー・イエスサー!』
うーんこの空気、久々に娑婆に戻ってきたって感じでうれしくなっちゃうティエスちゃんだ。現在
「無事のお帰り、うれしく思います中隊長殿! こちら、たまっていたひと月分の仕事であります!」
「うん、結局お前一回も持ってこなかったよなあ仕事! とんだ買い被りだった! 腕立て100回!」
「サーイエッサー!」
わざわざ
ものの30秒足らずで腕立てを終えた副官は汗ひとつかいていない。こうもけろっとされてたら罰則の意味もないような気がするが、いわゆる様式美だ。ま、これくらいでないと王国で軍人はやっていけないんだわ。よく見とけよ少年。
「さて、今日は俺の復隊記念ぱーちーとしゃれこみたいところだがそうもいかん。いくつか伝達事項があるが……まず初めに、貴様らとこれから一緒にお勉強する転校生を紹介します」
俺がそういうと、総勢百数名からなるむくけつき男ども(たまに女たち)がざわざわとどよめき始める。
「転校生? マジ?」
「えー、男の子かな? かっこいい子だといいなぁ」
「ちょっと俺キンチョーしてきた」
「俺は美人に賭けるね」
etc.
おおむねこんな感じである。ノリがよろしくて大変結構。隣に控えるエルヴィン君はドン引きを通り越して困惑している。慣れろ。
「よし、茶番はここまで。エルヴィン従士だ。便宜上の階級は分隊長相当だが、かまうことはない。存分にかわいがってやれ。エルヴィン、自己紹介だ」
「えぇっ!?」
この流れで? みたいな顔をするエルヴィン少年だが、甘えんじゃない。この流れでぶっこめなかったら一生ナメられんぞ。というのを視線に込めてやったら、どうも察したらしい。
渋々決心したような顔で一歩踏み出したエルヴィン少年は、うつむいた状態からキっと顔を上げ、顎を引き、手を腰の後ろで組んで足を肩幅に開き、気持ち胸をそらせた姿勢で"アイサツ"をキメた。
「エルヴィンですッ! 今日からティエス卿付きの従士としてお世話になりますッ! まだ何にもわかんねーガキですが、精いっぱい働き、学び、楽しむつもりです! "センパイ"がたにおかれましては、ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いしますッッ!!」
言い終わると同時に、エルヴィン少年はガバッと頭を下げた。手を指先までピシッと伸ばして体に張り付け、腰を90度近く曲げた姿はまごうことなきOJIGIである。OJIGIはこの国でも最敬礼の一つとして知られる立派な礼だ。弱冠10歳の少年のアイサツにしては(少々でたらめな敬語表現があったにせよ)できすぎているほどのそれに、俺はやりおるわ、と思った。この少年、やりおるわ。
「上出来だ。とりあえずは及第点をくれてやる。おまえら! そういうことだ! 存分に手本を見せろ! ――それとなエルヴィン、「卿」付けはやめろ」
「いけね……いけないのでしょうか!」
「そのとってつけたような敬語もいらん。むずがゆくなるからな。ウチはそのへん緩くやってるから、あまり堅苦しくなるな。俺のこともさん付けか、もしか中隊長でいい。もちろん、仕事はちゃんとやってもらうがな」
「それでいいのかよ軍隊」
「いったろ、仕事さえちゃんとしてりゃあいいんだ。おまえらもな!」
『サー・イエスサー!!』
うん、元気がよろしくて大変結構である。俺はエルヴィン少年を下がらせ、代わりにずいと前に出た。全員の気が引き締まるのを空気で感じる。
「隊の連中との顔合わせについては、今晩の新歓でやることにしてだ。ピーター、いつもの店はおさえてあるか!」
「万事抜かりなく!」
副官がびしりと音のする敬礼を添えて言う。ほんと仕事はできるんだよな。俺は鷹揚にうなずいた。
「よろしい。エルヴィンの紹介についてはこれで終わりとして、本題だ。次の任務について伝達がある! 総員傾注! 耳かっぽじってよく聞け!!」
『サー・イエスサー!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます