1-6 ティエスちゃんはリハビリ中
「あががががががががががが」
「はーい大きく息をすってー……吐いてー……そぉい!」
「あげげげげげ」
術後2週目に突入し、院内の自由移動を許可されたティエスちゃんだ。車いすがあればどこへだっていける。自由って素晴らしい。ちなみに今は院内のリハビリセンターでリハビリちゅうごごごごごごご。
「ねぇこれ折れる、折れない? せっかくつながった骨折れない? ねぇ???」
「だいじょぶですよー。じゃあもう一回伸ばしますねー」
「いぎぎぎぎぎぎぎぎ」
こ、こいつ容赦がない。ニコニコと柔和な顔を崩さないまま俺の手首を捻り上げている女は、あの手術の際に助手をやっていた看護士だ。この世界には理学療法士という資格も制度もないので、こういうのも看護士の職分になる。相当な風魔法の使い手なので患者の痛みを緩和させることくらいお茶の子さいさいのはずなのだが、まるで容赦がない。こないだの一件で魔法封印されてるから自分でどうこうできないのが歯がゆいところだ。
「はーい、それじゃあちょっと休憩しましょうか」
「いぢぢ……もっとこう、手心とかないワケ?」
一時的に地獄から解放された俺はさっそく悪態をついた。まあでも腕は確かなんだよな……今朝まで指先に残ってた痺れが消えてる。血行とかリンパとかそういう奴なんだろうか。そういえばほのかに手がポカポカしてるし。
「そこになかったらないですねー」
「おい」
ダイソーの店員みてーなこと言いやがって。もちろんこの世界にダイソーはない。でも百円ショップ的な店はあるからこのネタは通じるんだよな……
「あはは。まあ今のは冗談ですけど、先生からもちょっと痛い目みしたれっていわれてますからねー」
「あのクソアマぁ……」
眼鏡をキラリと反射させる女医のしたり顔が目に浮かぶ。なんかうらみでもあんのか? あるんだろうな。俺、不良患者だし。
俺は自己完結した。
「先生、キツイ言い方はしますけど患者さんのことは真摯に考えてらっしゃいますから。ティエスさんが一日でも早く原隊復帰できるように考えられてのことだと思いますよー」
「ハ、どうだかな。俺の見立てじゃ、やっこさん相当俺が嫌いと見えるぜ?」
「ティエスさんってたまにすごく人を見る目が節穴ですよねー」
看護師はくすりと笑って暴言を吐いた。ンだとこら喧嘩売ってんのか? とはいえ今喧嘩したらボコボコにされるのは俺だ。俺はムッとするにとどめた。
「とはいっても無理のし過ぎは禁物ですし、本当に痛みがひどいときは言ってくださいね? あとで痛み止めも出しますから」
看護士はにこやかな表情を崩さないまま言うと、ちらりと時計を見る。
「そろそろ再開しましょっかー」
「えぇ、休憩短くない?」
「最近ここも忙しくて、スケジュールが詰め詰めなんですよー。痛いのも引いたみたいですし、もうひと頑張りしましょう?」
「ぐぬぬ」
熟達した風魔法使いはたやすく他人の思考を読む。魔法が封印されてる今の俺は外部からの魔法干渉に対してたいへん脆弱だ。ファイヤウォール? なにそれおいしいの? 頭にアルミホイル巻こうかな。
まぁないものねだりだ。現状俺の思考は筒抜けなわけで、ここで痛い痛いヤダヤダと駄々をこねてもにこやかにねじ伏せられるのがオチだろう。というかマジで痛くてもお構いなしな気もする。いや、さすがにそれはないか? こいつマジで腹の底が読めないんだよな。俺は観念した。
「や、優しくしてね……///」
「はーい、じゃあ痛かったら言ってくださいねー」
「あががががががががががが」
こ、こいつ……!
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