第3話 そして兵士は行く


 ユーリスが再び意識を取り戻して、ゆっくりと目蓋まぶたを広げる。レンガ造りの天井と、傍に旧友トーマスの顔が視界に入る。

「お、起きたか。ったくー、いつまで経っても起きねぇから寝たままあの世へおさらばしたかと思ったぜ」

「それは笑えねぇ冗談だ。ここは……?」

「軍の医務室だ。衛生兵が見つけた時には酷い有様で、医者もあらゆる手を尽くしても変わらずでさじを投げていたそうだ。だが、ある日、急に息を吹き返したときたもんだ。まるで奇跡が起きたみたいって医者もびっくりしたみたいだぜ」


 部屋の周りを見渡そうとユーリスは身体を起こそうとするが、全身に痛みが走る。

「おい、まだ起き上がるのはよせ。長い間ベッドで寝たきりだったんだ。しばらくはろくに身体も動かせないだろうよ」

「……どうやらそのようだな」

 償いを受け続けた日々を思い出した。不思議な感覚だった。昨日のようにも思えたし、何十年も昔のようにも思えた。

「なぁ、トーマス」

「あ? なんだ?」

「俺は……助かったんだよな?」

「ああ、何言ってやがる? じゃなきゃこうして話できるわけねぇだろ!」

「そうか……。なぁ、トーマス」

「今度はなんだ?」

「酒が飲みたい。以前お前と一緒に行ったあの酒屋で」

「なら、とっととその身体をどうにかしやがれ。そしたら溺れ死ぬくらい一緒に飲んでやるよ」


 数か月のリハビリを受け、ユーリスは病院を後にした。

 それからは順境といって差し支えないくらい、多くの出来事が起きた。


 故郷の地を踏み、両親と再会した。暖かい涙と笑顔に出迎えられ、その日の御馳走を美味しく堪能した。


 婚約者のマリアンヌと愛を紡いだ。二人は夫婦になり、子宝にも恵まれた。


 不死の体を活かし、その後の戦でも数多くの武勲を得た。


 片手間で始めた事業が大成功し、巨万の富を得た。


 戦争の功績と日頃の情の深い行いにより、議員に選出された。


 こうして、愛も、名声も、富も、地位も、考え得る限りの全てを手に入れたユーリスはいつまでも幸せに暮らしました。


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