第2話 意外な反応
ようやく本来の姿となり、人々に敬われる存在と聞いていた神人として村人たちの前に立ち上がったミーヤ、ところが……
「うわあ、じゅ、獣人!?」
「神人様は獣人なのか!?」
幾人かの村人がざわついている。自分ではキュートで魅力的だと思っているが、村人から見ると口元の牙や指先の爪は畏怖の対象なのかもしれない。
それにしたって、獣人も普通に暮らしている世界じゃなかったのー!? と、今更女神に悪態をつきたくなるが、今は現実的な問題をどうするかを考えることに集中する。
それと同時に、村人に注目したおかげで自分が裸だということにも気が付いてしまった。
「キャー! ちょっと! 見ないでよー!」
こちらも負けずに大きな声で叫び返す。体毛で覆われているからそれほど隠さなくても良さそうだが、そこは一応乙女の恥じらいと言う感覚はあるので、両手両足を使い、体をくねらせてなるべく多くの面積を隠そうとした。
するとそこへ駆け寄ってくる一人の少女が! 手には大きなシーツのような布を抱えている。
「神人様、すぐに気付かず失礼いたしました。
こちらをお纏い下さい」
そう言いながら、麻か何かでできたごわっとした厚手の布を体へ巻いてくれた。その娘は更に言葉を続けた。
「申し訳ございません、神人様
この村には人間族しかいないため、他種族を見かけることがほとんどございません。
そのため少々驚きすぎたものがいたようです。
謹んでお詫び申し上げます」
「いえいえ、これはご丁寧に。
私も大きな声を出してしまって申し訳ありません。
以後注意しますので、どうぞお許しください」
その少女の謝罪があまりに丁寧な言葉だったので、なぜかつられておかしな言葉遣いをしてしまう。続いて村長が立ち膝になって話しはじめた。
「村のみなよ!
こちらのお方は、豊穣の女神さまより遣わされれこの村へ降臨くださった神人様だ。
失礼のないよう敬意と誠意を持ってお世話させていただこうではないか!」
さすが村長、説得力があるのか、神殿の外に集まっている村人たちが歓声を上げた。
「神人様、先ほどは村人が失礼なふるまいをしましたこと、お詫び申し上げます。
悪気はございませんのでどうぞお許しください。
こちらは娘のマールと申します。
世話係としてお付けしますので、なんなりとお申し付けくださいませ」
村長の言葉を聞いて、さっきの少女が裾をつまみながらぺこりと挨拶をしてくれる。黒い髪を短くそろえたショートボブの少女マール、日焼けで浅黒くなった肌はいかにも田舎娘と言った感じだが、それがまたチャーミングに見える。
村長の娘と言うことだけどまだかなり若そうだ。そういえば子供はアイテムから産まれるって女神が言っていた。つまり親の年齢は当てにならず、適齢期のようなものはないということかもしれない。
そう言えば自分のこと何も話していなかったことを思いだす。いくらなんでも名前くらい知っておいてもらわないと、いつまでも神人様って呼ばれることになってしまう。
「皆さま、歓迎ありがとう。
私の名はミーヤ・ハーベス、見ての通りみなさんとは姿の違う獣人です。
でもあまり怖がらないで気軽に話しかけてくださいね。
だって、ついさっき生まれたばかりで知らないことだらけなんですから」
ミーヤが自己紹介すると村人たちは歓迎してくれたのか、拳を突き上げたり拍手をしたりしながら歓声を上げてくれた。恥ずかしかったけどこれはこれで嬉しいものだ。
続いて村長が音頭を取り、歓迎の宴を開いてくれると言ってくれた。神殿の向かい側が村長の家らしく、そこから大きなござのような敷物が運ばれてくる。その後、神殿と村長宅の間に敷かれたござの上には次から次へと料理が運ばれてきた。
肉や野菜を焼いたものが中心で、どちらかというと単純で素朴な料理に見える。そして一番に目を惹いたのは…… 大き目の水差しに入っている赤い液体である。
『きっとアレはお酒だ!
ワインっぽく見えるけどどんな味がするんだろう』
生まれ変わっても酒がやめられないなんて何の因果なのかと思わなくもないが、それでも見かけたなら飲んでみたいと考えてしまうのが酒飲みのサガか。
マールがそばにやってきて料理を盛り付けた皿と、待望の! ワインらしきものが入った木のコップを持ってきてくれた。良く知る赤ワインよりももっと赤い、まるで鮮血のような鮮やかさを見て、まさか動物の生血とかじゃないよね? と心配になり匂いを嗅いでみる。ほんのりと甘みと酸味を感じるので果実が材料であることは間違いなさそうだ。
「ミーヤ様?
これは何種類かの果実を絞り、数週間寝かせて作ったお酒です。
甘くてとてもおいしいですから、ぜひ召し上がってみて下さい」
村長の娘であり、ミーヤの世話係に任命されたマールの言葉だ。きっと嘘は無いと信じ一口飲んでみる。すると口の中に強い甘み、ほのかな酸味、最後にわずかな苦みを感じた。アルコール分はほんの僅からしくそれほど強い酒とは思えないが、泥酔するのが目的でもないし、食中酒と考えたら上出来だ。
「ありがとう、とてもおいしいわ。
でもすごく甘くて口の中から甘さが消えないわね」
「この村では料理に使う砂糖が貴重品なんです。
なので甘いものは果物くらいしか口にできません。
粗末なものですがご辛抱いただけますか?」
「そんなことないよ!
おいしいけど甘いねってだけ。
気に障ったなら謝るわ、ごめんなさい」
「そんな、滅相もございません。
ただ、お口に合わないものばかりだったら申し訳ないと思いまして……
食べるには困らない村ですが、食材の種類が豊富ではないものですから……」
「でもこんな立派なお肉だってあるし、野菜もおいしいわよ?
きちんと食べて、ぐっすり寝ることができれば、生きていくには十分だわ」
そう返すと、マールはにこやかにほほ笑んでおかわりを注いでくれた。
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