『これが神々による異世界創造ゲーム!?:第一章』 ~狐耳メイドの女神さまに導かれた、ケモミミ獣人少女の異世界転生スローライフ~

釈 余白

第一章 異世界転生とカナイ村での生活編

第1話 降臨!

『ミーヤ、新しい名前、そしてこれが私の新しい肉体』


 豊穣の女神に導かれて、新しい身体と新しい世界での生活権を手に入れた七海は、フェネックと人間の合いの子のような獣人へ生まれ変わった。つま先で立っているのは不安定かと思ったがそうでもなく、取り越し苦労のようだ。


「それじゃそろそろ送っていくね。

 いってらっしゃいミーヤ、第二の人生をどうか楽しんで!」


 豊穣の女神がミーヤへ声をかけると視界が白く輝き始めた。なんだかんだ言っても世話になった女神へはちゃんとお礼を言っておこう。


「豊穣の女神さま、ありがとうございました!

 私、この世界でたくさん楽しみたい!

 本当にありがとうございましたー!!」


 叫んでは見たものの、声が届いたかどうかはわからない。すべての言葉を言い終わらないうちに女神は見えなくなっていたからだ。


 段々と意識が遠くなる。視界が白くなっているのか、それとも自分自身が白くなって消えていっているのか、それすらもわからないうちに意識は遠くなっていった。



◇◇◇



「村長! あれはなんだ!?」

「お父さん! 神殿に光が落ちて来てる!」

「神様に何か失礼をしてしまったんじゃないのか!?」


 丸太作りでそう大きくない建物の前に村人たちが次々に集まってくる。薄汚れた作業着を着た者たちばかりで、生活はあまり豊かではなさそうである。


 ここはトコスト王国ジスコ領にあるカナイ村、王都から馬で十日以上かかる辺境の村である。村の中心には簡素な丸太作りの建物があり、その中には豊穣の神柱が祭られている。決して豪華ではないが、村人たちにとっては神の恩恵に与れる大切な場所であるため、小さくとも敬意をこめて神殿と呼んでいる。


 その大切な神殿内に、突然天から光が降り注いで来たのだから村人たちの混乱は想像に優しい。今まで見たことの無い光景に、村人たちは恐れおののき、敬い、そして祈った。


 村長が意を決して神殿内に入ると、天からの光は天井を突き抜け、供物を捧げるための石台へと降り注いでいる。よく見ると光は無数の細い糸のようになっており、石台の上で跳ね返ったり渦を巻いたりしながら何かを形作ろうとしているように見える。


 光が創造する形は徐々に明瞭になっていき、やがて人型となった。光は輝きを弱めたが、その人型はまだぼんやりと光っている。しかし人としての輪郭がはっきりとわかるようになるまでに、そう長い時間はかからなかった。


 村長は人型の前に傅き、両手を合わせ祈りをささげていると、頭上から女性の声が聞こえた。


『村人たちよ、今宵、私の子を地上へ送り届けました。

 皆の家族だと思って愛し、大切にしてあげてください』


 その声はどこから聞こえてくるのかわからないが、少なくとも目の前の光の人からではない。


「おお、まさか! このお声は豊穣の女神さまでしょうか。

 この何もない村へ神の子を遣わして頂きありがとうございます。

 出来る限りのことをさせていただきますので、これからも村をお守りください」


 村長は、豊穣の女神による啓示を受けたことで歓喜に震えている。


 その村長を横目で見ているひとりの女性が目覚めつつあった。いや、まだぼんやりと光っている人の形をした物体か何かかもしれない。なんだか寝起きで頭が冴えていないような感覚だが、それはすぐに解消され思考力が戻ってくるのがわかった。


『この人は誰だろう。

 私はどこにいるんだろう』


 うっすらと聞こえる声、片方には聞き覚えがあった。あれはきっと豊穣の女神に違いない。もう片方は村人らしいから、無事にどこかの村へ送り届けてくれたようだ。それはともかく、きちんと威厳をもって話すことだって出来るんじゃないか、と心の中で悪態をつく。


 目が覚めてからわずかな時間だが、徐々に五感がはっきりしていくのがわかる。まずは耳、そして視界も開けてきた。手や足の感覚も感じられる。どうやらどこか固いところに寝かされているようだ。せっかく転生したと言うのに、初めての目覚めは、まるで酔いつぶれて床で寝てしまった後のようである。


 ミーヤはゆっくりと石台から足をおろし台の上に腰かけた。手でポンポンと軽く叩いてみると、座っている場所が石でできたベッドのようなものだと分かった。その手を見てみるとなんだかぼんやりと光っていて自分の手では無いように見える。


『これ大丈夫なのかな?

 まさか転生失敗で体が無くなっちゃったとかないよね!?』


 心配しても始まらない。手足の指先にまで感覚はきちんとあるのだから、おそらく、たぶん、あの女神を信じるのであれば…… 大丈夫なはず!


 未だ光りつづけている体を起こし、床へ足をついてみるとしっかりと固い感覚がある。これならこのまま立ち上がれそうだ。そう考えたミーヤは思い切って立ち上がってみる。


 目の前には膝をついたままで呆然とする村長がいたが、ミーヤが立ちあがるところをみると突然大きな声を上げた。


「おおお、神人様が!

 この村に神人様が降臨されたぞ!

 ぜひ皆のものへお言葉を!」


 ちょっと、いや大分大げさにかしこまられてしまうのは困る。そう言うの慣れてないし、敬うべきは七海を救いミーヤにしてくれた女神のほうだろう。


 いくらそう考えたとしても、村人たちは村長の言うことに従い全員がひれ伏していく。この建物は入り口に戸がないので表でひれ伏している人たちが良く見える。みな地面へ頭をこすり付けるくらいに平伏していて、なんだか気恥ずかしいやら申し訳ないやら複雑な気分である。


「まあまあ、みなさん顔を上げて楽にしてください。

 神人と言っても私なんて産まれたての赤ん坊のようなものですから。

 知らないことだらけですし、色々力を貸してくださいね」


 ミーヤは思い切って声をかけたつもりだったのに、村人たちの反応が薄い。顔は上げてくれたけど、首を傾げたり腕を組んだり、隣と見合って小声で話している人までいる。


 これはアレだ、この人何言ってんだ? 的な反応だ。何度もプレゼン大失敗している私はこういうのに詳しいんだ…… なんとかしないと…… どうしよう……


 焦れば焦るほど言葉が出てこない。呆然と立ち尽くすミーヤだったが、そうぼんやりしていられない事態が起きる。


 今まで体中がぼんやりと光っていて体がはっきり見えなかったのだが、急に光が収まりその全容が明らかになった。ようやく頭上の大きな耳やふさふさの太い尻尾、真っ白できれいな毛並みがハッキリと見えてくる。豊穣の女神に勝るとも劣らないこのルックスなら、村人たちに持たれた変なこと言う人だという悪い印象を払拭できるだろう。


 ミーヤは自信満々で村人たちの前に仁王立ちした。

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