魔術師、異世界をソロで往くⅢ 第1部

迷子のハッチ

過去編 第1部

第1章 私はママで、ママは私?

第0話 (閑話)ある商人の話


魔術師、異世界をソロで往く 過去編の始まりです。

最初はあの逃亡した昔商人さんのお話から。

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 少し私の事を話しておこう。

 私は宇宙樹がまだ宇宙空間を次の目的地へと進んでいた、樹周紀(1周紀2万5千年)の2023周紀105世紀23年5月10日に生まれた。


 結婚したのは宇宙樹がそろそろ目的の太陽系に入る頃だった。

 子供も生まれ幸せな家庭も築けたと思っていた。

 子供の手が離れ、二人目を作ろうか迷って居る時に宇宙樹が惑星に着陸した。


 私は退屈していたのだろう、新しい世界に魅了された。

 見るもの、聞くもの全てが初めてのものだらけだった。

 宇宙樹の中しか知らない私にはこの惑星はとても魅力的だった。


 私達が根の一族と名付けた惑星の現地人達は、宇宙樹が着陸した島の対岸の大陸に住む原始的な生活を営む人族と分類される種族だった。


 現地人の男にレイプまがいの暴力的な行為を許したのは、私が退屈していたのかもしれないし、此の世界に魅了されて好奇心を刺激されたのかもしれない。


 それは夫には到底望めないような暴力的で激しい行為だった。

 でも苦痛の中で何か満足している私が居た。


 後で知った事だが、私と同周紀のエルフの女達は多かれ少なかれ似たような経験と感覚を覚えたようだった。

 私達エルフの女による現地人の男漁りは数十年続いた、そしてエルフの男の反乱が起こった。


 薄々は感じていたが、現実に起こると反発しかなかった。

 私達の感覚からすると満足させられない男共が情けないと言う思いが強かったからだ。


 去って行った夫やエルフの男共に未練は一切無かった。

 残ったエルフの男は聖樹を離れたく無いと思っている数人だけだった。


 もともとエルフ発生の惑星では、森に住む狩猟民族で母系社会を営む人種族だった。

 その社会では女は生んだ子を集団で育て、結婚と言う契約など無かった。

 一族や他族の男と子供を作る事は何ら問題にならなかったし、複数の男から誘われるのは女の魅力でもあった。

 生んだ子は全て一族に成る、女が生めば一族の血が繋がっているのは間違いが無いのだから。


 宇宙樹が着陸して、樹人が世界に進出して来た時も同じだった。

 角の在る樹人や狼の様な体つきで毛深い樹人も居たが、子供のような妖精族と言う樹人も居た。


 結婚と言う契約が持ち込まれたのは樹人達がそう望んだからだ。

 森を出て開けた土地で畑を開墾し獣を狩るのではなく飼う様に成った者達が結婚と言う契約を受け入れた。

 エルフと言う樹人が誕生したのは、そう言った結婚した一族の中から生まれた。


 夫が妖精族だったのか、妻が妖精族だったのかは分からない。

 寿命で夫婦は亡くなり、数世代が過ぎて初めて長寿のエルフの女が現れたのだと分かった。

 最初のエルフの女(マーヤニラエル)は夫と死に別れを繰り返す中でエルフを増やしていった、これがエルフの始まりだ。


 性に奔放な若いエルフも2周紀を経る頃になると性欲も落ち着いたものとなる。

 将来を見据えた考えも出て来るようになり、私たちはこの惑星の変化に心惹かれる様に成った。


 何時の頃からか発生した森ダンジョンと魔核生物達、その生態が研究されるようになってダンジョン固有の生態系が注目された。

 魔核生物には寿命が無い。

 永遠と言える生命は魅力的だった、その寿命は魔核を直接破壊され無い限り生き続ける。


 魔核生物がダンジョンコアと共鳴した時の情報がダンジョンコアに、さらには魔力が流れている魔脈にも保存されてる。

 世界のダンジョンは魔脈で繋がって、最終的に聖樹と共鳴していた。


 魔核生物が死んだ時、其の生命情報と肉体は魔力と成ってダンジョンコアへと回収される。

 そして、記録された生命情報に基づき再構成されて、復活する。

 共鳴した時のままの肉体と情報を持って。


 再生産される生命と言う魅力的な生態系は私達エルフの女には心に響く原初のエルフ的生活を思い起こさせた。

 もともと女が担っていた、一族の再生産と言う生命活動。

 それをダンジョンコアが担う事で子を産む事から解放され、自分の好きなように生きられる、何度でも。


 魅了された、その可能性に、実現した時の在り様に。

 研究所は参加するエルフの女で溢れた。


 魔核生物の研究から、疑似魔核が作られた。

 当初は魔核にある生命情報の実験の為に作られた。

 疑似魔核を使って生命情報を展開させた魔紋を描くことで分析しやすくする為に使用されていた。


 疑似魔核を作り出したエルフの女も、疑似魔核で魔紋を描く事を始めたエルフの女も皆天才的な研究者だった。

 やがて研究から様々な応用品が作られて行った。

 魔印章、医学、魔薬、魔物の生態や等級などの格付けなど多岐に渡った。

 私はもっぱら、応用した魔道具や魔薬の販売を行い、研究資金を生み出す事に尽力した。


 研究が進むと2つの流れに分かれて行った。

 一つはダンジョンその物の研究、もう1つは魔物化する為の疑似魔核の情報をダンジョンコアと共鳴させる方法の研究。


 ダンジョンの研究は後に神の恩寵型ダンジョンと呼ばれるダンジョンを作る事に成功する。

 その成功で更にその先に聖樹のダンジョン化を目指す事に成る。


 疑似魔核の情報をダンジョンコアと共鳴させる方法は研究が行き詰った。

 共鳴はしなかったし、魔物化もしなかった。


 成功体験に裏打ちされたダンジョンを研究する者達は聖樹をダンジョン化させてこの惑星全体をダンジョン化させる事を密かに計画し、実行を具体的に計画した。


 止める様な動きは無かった、それにこの計画に参加しない者も多かった。

 小数の者から引き留められたが、聖樹をダンジョン化させる事を考える者は実行した。


 聖樹は燃えて無くなった、そこに住む樹人と実行した全てのエルフの女達を道連れに。

 私達は事態の絶望的な急変に魔物化の研究を一時的に棚上げするしかなかった。

 世界中の魔力の総量が減少を始めたのだ。


 魔力を生み出す宇宙樹無くしてこの惑星の魔力は減少していくだけだ。

 やがて魔力の無い惑星に戻るだろう、と研究者は結論を出した。

 当然、魔物化などダンジョン自身が無くなるのでは考えられ無い事だった。


 魔力とは何だろう、この宇宙には多くの種類の力が溢れている、魔力もその一つだ。

 そして力とは相互作用を表す。

 この世を成すありとあらゆる物は、時間と言う最小のチップが0次元で0と1の情報をさ迷う相互作用から成り立つ。

 そして力として認識されるのは、何かに偏在する力が力として認識される。


 魔力もしかり、重力が質量に偏在するように、魔力は魅量に偏在する。

 しかし、魔力は流転する、偏在はしても留まりはしない。

 魔力にさらされた他の力は変質する、しかし魔力が無くなれば元に戻る。


 研究者の計算では急激に魔力はこの惑星から失われるはずだった。

 しかし、魔力の減少は計算と違いゆっくりとした物だった。


 どこかに魅量の大きな物が在る。

 計算では魔力を生み出す力は宇宙樹の1/3ほどと計算された。

 魔力は流転する為、所在を突き止めるのは困難で偶然に頼るしかなかった。


 そこで大陸での探索の協力者として、根の一族に魅量の大きな何かを探すことを依頼した。

 勿論対価は用意した、根の一族が先祖代々追い求めて来た樹人となる為の因子、妖精族の変異の秘密を与えた。


 しかし妖精族は聖樹の変で滅亡した。

 聖樹に住む妖精族は聖樹の火災から逃げ延びる事は不可能な事だった。


 しかし、ただ一人妖精族から結婚によりエルフへと変異した者が生き残っていた。

 その名は、イスラーファ・イスミナ・アリシエン・ジュヲウ・エルルゥフ・ダキエ。


 私はマルティーナ、エルフの商人にしてジュヘイモスの指導者。


 滅亡した妖精族の秘密など誰が知る事に成ったとしても問題にもならない。

 ただ一人イスラーファが被害者に成るとしても殺されるような事には為らないだろう。


 根の一族は彼女との子供を欲しがっているのだから。

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 ラーファもマーヤも追われる理由を知りません、「なぜ逃げる?」「追いかけて来るからよ!」

 親子の逃亡者が逃げたり、つかの間の平和を味わったり、色々するお話です。

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