第2話
まずは転生前、つまりこれは俺が高校三年生だった時の話だ。
二年前、俺を壮大に迎えてくれた桜の木は今年また、新たな高い志を持つ入学生を迎えた。
そんな俺は学年が一つ上がってから初めてのテストを受けている。
まぁ、感触は可もなく不可もなくと言った所だろう。ちなみに今は数学のテスト中だ。俺の好きな教科は数学なので気が楽だ。
「回答辞め。では、後ろから解答用紙を回収してください。」
「終わったぜ〜!!」「これからどこ行く!?」「今から部活か〜!……帰りたいな〜。」
今日のこの時間でテストは終わりなので、挨拶をした後帰る準備をする者も居れば、部活の準備をする者、と多様な光景が広がっている。
「おーい、正悟!今回のテストはどうだったよ?」
蓮が俺に話しかけてくる。
「いやー、まぁ可もなく不可もなくって感じかなぁ〜。お前こそどうなんだよ?」
「は〜?それ聞くか?俺が良いわけないだろう?いつも通りノー勉。」
当たり前のような顔をして答えてくる。
聞いた俺が馬鹿だったようだ。蓮が勉強をするわけがなかった。
「またかよ!いい加減勉強した方がいいよ?」
「まぁそれは分かってるんだけどさー。めんどくさくて。赤点取らなきゃいいかなーって。」
「お前さー」
呆れたおれが蓮を叱ろうとする。
「おーい!蓮!ちょっとこっち来てくれ〜!」
と、そこで蓮が部活の顧問に呼ばれた。
俺とこいつとは高校生になって初めて出会ったのだが、まるで幼馴染だったかのような感じがしているから不思議だ。
「わりぃ!なんか呼ばれたから行ってくるわ!」
「いってらー。」
そう会話した後、蓮は顧問の所に、俺は部活に向かう。
廊下を歩いていると、後ろから話しかけられる。
「あ、正悟〜!どこ行くのー!」
信じられないぐらい大きい声だ。
「おわっ!?びっくりした〜。なんだ美桜か。いきなり大声出さない出くれよー。」
あまりに大きすぎる声のため、肩が跳ね上がる程びっくりしてしまった。
「あは、ごめんごめん。で、どこに行くの?」
そんな事は気にもせず、無邪気な笑顔で聞いてくる。
「どこにって、今から部活に行く所だけど……」
「じゃあ私も一緒に行く!」
「行ってらっしゃい。」
「え〜、酷い!」
「ごめんごめん。分かったよ。」
「むー………」
少し不機嫌になった美桜が頬を膨らませる。
ここまでが一連の流れだ。
しかし、本人に言った事はないけど正直美桜には迷惑している。美桜はとても可愛い。
だからか周りの男子から鋭い視線を感じるのだ。たまたま同じ部活だっただけだと言うのに。
どうしてこうも関わってくるのだろうか。今も殺気を孕んだ視線をひしひしと感じる。
だが、一緒に行こうと言われたのを断るともっと面倒くさいとこになるから結局いつも一緒に行くのだ。
「今回のテストどうだったん?」
「ん〜、さっぱり。勉強したんだけどね。全くよ。」
「マジか。」
美桜はこうやって言っているが、割と点数はいつも高い。典型的な私勉強してないんだよね〜、タイプだ。
「む〜テストの話しないで〜!考えたくない!」
ただ、彼女自身がテストという存在が嫌いなのだ。
「ごめん。」
「やだ!今度何か奢ってくれないと許さない!」
「……分かったよ。スイーツで許してくれ……。」
「ん〜………許す!」
こんなパターンを何度も繰り返している。そのせいで俺はだいたい金欠になる。
だが、可愛い。何故か中毒性がある。
やめられない♪とまらない♪
……………………っと、危ない危ない。色々な意味で。
美桜の可愛さに飲まれる所だった。
そんな会話をしていると、ちょうど部活場に到着する。
「じゃあまたね。」
「え〜……分かった。またね。」
またすぐに会うと言うのに何を悲しがっているのか。
俺は更衣室に向かう。空手部に所属しているので道着に着替える。
そこで蓮が遅れて到着した。
「え〜、集合!」
彼がそういうと皆が一斉に集まる。
「今日の部活は無くなったので帰って良いそうです!」
「よっしゃああ!!!」
「うぉおおお!!帰ってゲームだぁ!!」
皆が口々に喜びの声を上げ、ガッツポーズをしている。
「今日の部活無くなったんか。着替えた意味なかったわ。」
「すまんな。」
「いや、全然大丈夫だよ。それより、これからどっか行く?」
蓮が謝る必要などないのに。彼の性格の良さが現れている所だな。
「いやー、すまん。今日は早めに家に帰って来いって言われてて。」
「そっか。じゃあ俺も帰るわ。」
蓮が帰るなら俺も帰る。それが一番だろう。
「ねぇ!私といこうよ!」
「すまん。これから用事が。」
敢えて断ってみる。一縷の望みにかけた一世一代の反抗だ。
「絶対嘘じゃん!今蓮のこと誘ってたよね!?」
どうやら通じなかったか。まぁでも美桜とでも悪くは無い気はする。
「…………わかったよ。行くよ。」
「やった!じゃあエオン行こうよ!」
「おっけー。」
それから俺と美桜はエオンに向かった。道中でも男どもの視線が痛い。
「ちょっと御手洗に行ってくるね。」
「わかった。」
エオンに行く道の公園で美桜はそう言って御手洗に行ってしまった。
「暇だな〜。」
そんな呑気なことを考えていると、うちの制服を着た女の子が、いかにもと言った風貌のヤンキーと思われる輩に絡まれているのを発見した。
「おい、お前、騒ぐなよ?」
「は、はい。な、なんですか?」
「とりあえずこっちに来い。話はそれからしてやる。」
「な、なんでですか?い、嫌です。」
「あ?てめぇぶっ殺すぞ?いいからこっちに来いや。」
「ヒィっ………。わわ、分かりました。」
なんてことだろうか。まさか現実にこんなことが起きようとは。小説の中だけだと思っていた。
「これは………見に行くしかないよな?」
俺は彼らの後を付ける。しばらく歩くと、倉庫のような所に入って行くのが見えた。
「よし。ドアを閉めろ。」
先程の男が下っ端のような男に命令する。
「な、何をするんですか?」
これから何をするのか。ここに来た時点でお察しと言うべきか。
「そうだな〜。まぁとりあえずその服を脱いで貰おうか。」
分かりやすい程に単純な要求だ。
「……やっぱりそうですよね。そうなりますよね……。」
女の子は涙目になりながら服を脱ぐ準備をしている。
「そうそう。わかってるなら話は早い。早く脱げ。俺は今溜まってるんだ。」
だいぶ酷い状況である。
「これは……不味いな。」
俺はもちろん助けに行きたいがあまりにも人数が多すぎる。1、2、3、4……………………少なくとも10人はいるだろう。俺1人では無茶な話だ。
「けど、あの子を助けない訳にはいかないよな。」
俺は覚悟を決めわざとらしく大きな音を立てて内側から扉を開ける。そして大声を出す。
「なにをしようとしているんだ!」
そうすると奴らの気がこちらに向く。あたふたする者に、焦る者。この状況で直ぐに動ける判断力を有する者は居ないようだ。
俺はその一瞬出来た隙を突き彼女に最も近いリーダーらしき人物に急接近する。
割りと奴らどうしが離れているのは不幸中の幸いだった。
俺はリーダーらしき人物を跳ね飛ばす。
「君大丈夫!?一人で向こうまで走れる!?」
俺が話しかけると、思考停止していた女の子は我に帰ったかのように答える。
「は、はい!大丈夫です!ありがとうございます!」
思ったよりも大丈夫そうだ。
「よかった!俺が引きつけるから早く行って!」
「ありがとうございます!」
俺は彼女を押さえようとする奴を殴り飛ばす。これも立派な犯罪だが仕方ない。ここで彼女を救うにはこうするしかないのだ。
「お、お前ら!そいつを殺せー!」
さっきのリーダーらしき人物は気が動転しているのか、そう言うと懐からナイフを取り出した。
「その女も殺せ!逃げられては面倒だ!」
殺したらもっと面倒だろ!?と、突っ込みたくなるが、この状況は非常に不味い。
後ろに下がるとますます追い詰められると考えた俺は前に出る。
女の子の援護をしないといけないという考えものある。
「オラァ!!」
そう叫びながら突っ込み、ナイフを持っている手を押さえ、もう一人を殴り飛ばす。
「早く!逃げて!」
彼女は頷くと、倉庫の外に逃げ出し、脱出に成功する。
「てめぇ…………。やってくれたなぁ…………。生きて帰れると思うなよ?」
あぁ、神様仏様。
どうやら俺の人生はここまでのようです。どうか天国に連れて行ってください。
………だが、簡単に殺されてたまるものか。最後まで抗ってやる。
敢えて挑発するように俺は言う。
「やってみろ。」
「ふんっ……。お前ら!やれ!」
四方からナイフを持って飛び掛ってくる。俺はギリギリまで待ち、一人に向かってタックルを仕掛ける。
それが功を奏し、何とか躱すことに成功した。
そのまま膝を持ち、倒し、ナイフを奪って近くにいる奴に投げつける。
そうすると相手は慌てて回避行動を取る。その隙を狙って殴り飛ばす。
だが、如何せんこの人数差である。
そう何度も上手く行くはずもなく、後ろから迫って来ているのに気づかずに背中を刺されてしまう。
「ぐっ………。痛ってぇ………。」
そこで立ち止まってしまったのが運の尽きだった。
一斉に体中を刺されれてしまった。
もはや痛みを感じなくなり、世界がスローモーションのように遅くなる。
身体中が熱く感じ、力が抜ける。
そのまま崩れるように倒れ、意識は無くなった。
この日、高校生が一人の女の子を救うために亡くなったと報道される事になった。
しかし、この報道を蓮と美桜が見ることは無かった。
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