義姉に出会いました

 声の主は、深紫しんしだった。


 深紫は、整った顔立ちをしていた。

 ゆるく弧を描いた唇は、まるで作り物のように整っている。

 黒に近い紫の髪は艶やかに、肩口で揺れる。

 衣は鮮やかな紫。

 仕立ては贅沢にみえるが、飾り立ててはいない。

 彼女が笑えば、従う者は一緒に笑い、彼女が眉をひそめれば、空気が沈む。

 きっとそんな生活を送っているのだろう。


 月影は微かに会釈をした。


「……ありがとうございます」


 深紫は唇の端を上げて答える。


「礼なんて要らないわ。義妹の頼みだもの、姉として応えてあげないと」


 そう言って、深紫が踵を返すと、女官たちは叩頭をして道を開けた。


 深紫はこちらを振り返らずに言う。



「浴堂の場所ぐらい知っていると思っていたわ」

「……」



 知るわけないでしょ。私は昨日ここに来たばかりなんだから。

 月影は心のなかでそうつぶやきながら、深紫と女官たちの後をよろよろとついていった。


 やがて、廊下の突き当たりに重厚そうな扉が現れた。


 深紫が女官に合図すると、ぎい、と音を立てて開かれる。


 薄暗い浴堂の奥から、暖かな湯気の匂いが漂ってきた。


 深紫はようやく月影を振り返り、艶やかな笑みを浮かべた。



「さあ、どうぞ」



 また女官たちの抑えた笑い声が広がったが、月影は気にせず浴堂に足を踏み入れた。


 石造りの浴堂は広く、灯火の影が水面にゆらめいている。


 想像以上に立派な造りだ。


(おお!

 ちゃんとしたお風呂じゃん。

 造りは温泉っぽいし。

 入り方は……多分、日本と同じでいいよね)


 わくわくしながら帯に手をかけると、また背後からくすくすと笑い声がした。


 女官たちの視線を感じる。

 

(見張り付き入浴とか、どんな羞恥プレイ!

 それに、人のこと見てずっと笑ってるって失礼にもほどがある)


 心の中で毒づいていると、耳元で別の声がした。


「気にするな。あいつら、あんたを羨んでるだけなんだからさ」


 緑青ろくしょうだ。

 その言葉に、ふーん、と思わずうなずきそうになり、はたと気づいた。


「……っていうか、あんたはなんで当然のように女風呂に居座ってるのよ?」


 緑青は、ばれたか、と舌を出しながら壁をすり抜けて出て行った。

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