式鬼がいました
あれから、体を動かせるようになるまで、丸1日かかった。
その間
そして、これが最も重要なことだが、自分が
「なんだって!記憶がない?」
「お、おれのことも覚えてないっていうのか?」
月影は無言でもう一度頷く。
月影が寝かされていた部屋には、今、
そして、どうやら日本に似通った生活様式らしく、月影が寝間着に着ているものは薄青色の浴衣だし、木目調の寝台とその脇に小さな机、少し離れたところに箪笥があるのみという質素なこの部屋も、何となく親しみやすい。
月影は、3人をそっと観察した。
緑青は袴に紫の羽織で、左肩になにやら手触りのよさそうな、もこもこのショールのようなものをひっかけている。秘色も同じような袴姿だが、振袖のようにあでやかな長い袖の着物を羽織っている。
浅緋は15歳くらいだが、生まれつきだろうか、髪は真っ白で瞳は紫というとても印象的な少年だ。そして、着ているものも裏地こそ黒だが、全身真っ白のかなり大きめの着物を着崩している。3人とも、とても病人の寝室にいるような恰好ではないが、これがこの世界の普通なんだろうか。ここまで観察したところで、月影はやっと口を開いた。
「ここはどこなんですか?あなたたちは、私の知り合いですか?」
「近衛隊長の家だよ。お前は、ここの養子で名前は月影。おれたちは、まあ、なんというか」
緑青が言いよどみ、秘色が引き取る。
「あんたにこき使われてる、あわれな霊だよ」
「え?霊?な、なんの冗だ…。ごほっごほっ」
つい甲高い声で叫んだので、月影は勢いよくむせた。
「ああ、急に大声を出すな」
緑青が背中をさすってくれる。月影は酸欠で顔を真っ赤にしながら声を上げた。
「あなたたちがからかうから!」
「からかってなんかないわよ。あたしたちは、正真正銘の霊魂よ」
「だって、足があるじゃない!それにほら、触れるし」
せき込みすぎてあふれ出た涙を、緑青が、かいがいしくぬぐってくれる。
「は?足があるからなんだっていうのよ。霊に足があっちゃいけないっていうわけ?それに、あたしたちが見えるのはあんただけだし、触れるのもあんただけ。あたしたちはあんたの式鬼なんだから」
「式鬼?」
「だから、かわいそうなあたしたちみたいな霊のことよ」
しつこく質問をし続けて、ようやく理解したところによると、緑青たちは、もともと私の母に従っていた式鬼、つまり守護霊のようなもので、母の命により私に従うようになった。
今現在、私に従っている式鬼は3体で、それぞれ緑青、秘色、浅緋というのが名前らしい。
月影は、5歳の時に両親を亡くしており、父の親友だったという、近衛隊長の家で養子として引き取られ暮らしているのだそうだ。月影が考え込んでいると、秘色が、月影にのしかかるように寝台に片足を上げて意味深な笑みを浮かべた。
「ふふ。あたしたちが怖い?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます