ネタ切れしたときにフラッと書くかもしれない小説
時雨悟はち
気になるあの子は男の娘!?
開幕突然だが。俺は気になる奴がいる。
…ああ。気になる子ではない。奴だ。
そいつの名前は「神谷
たった一つの要素が逆転していたら、きっとマドンナなりアイドルなりいわれていただろう。
…そのたった一つが、かなりの曲者であって…。
「よっ。どうした、小野寺?また羅紀のことか?」
「ん?ああ。まあ、そんなとこだ」
「ははっ、お前も物好きだな~。まあ、見た目は、可愛いもんな」
「そうなんだよな…」
そう。見た目はめっちゃくちゃ可愛いし、付き合いたいと思う。
思うんだけど…。
「可愛いんだけど…男、なんだもんな…」
俺が羅紀のことを知ったのは中学生のころ。
違うクラスだった俺が移動教室で忘れ物をした時のこと。
「やっべぇ…プリントあっかな…」
「…えっと、美術のプリントかな?」
「うわっ!」
教室でぶつぶつ言いながら探している時に、急に外から俺に向けて声をかけてきた。びっくりしすぎた俺は情けなく叫びながら飛び跳ねてこけてしまった。
「わわっ!大丈夫?」
「ってて…おう、大丈夫…だ、よ」
目線を上げ、俺は固まってしまった。
そこには、出会ったこともないような美少女が立っていたのだ。
「…あ、えっと。そ、そうだよ。美術のプリント、持って行き忘れちゃって…」
「あ、なら、予備あるから、はい。じゃあね!邪魔してごめんね!」
「えちょ!」
舞い降りた天使は、それだけ言って、プリントを渡してくれてさっそうと行ってしまった。
鼻をくすぐる甘い匂いの余韻に浸っていたら、チャイムが鳴り、ダッシュで教室へと向かった。
「…ってわけで。その子の名前とか教えてほしい」
「いいのか?世の中には知らないほうがいいことも…」
「は・や・く。教えて、な?」
はぐらかそうとする友人の肩を思いっきり握りしめた。
「いででででででで!わかった!言う、言うから!」
あの後すぐに友人にその子のことについて聞いた。中々顔が広い友人だから、その子のことも何か知っているだろうと踏んでの聞き込みだった。
ただ、知っていないのならまだしも。知っているのにそうはぐらかすもんだから、つい俺は肩をつかんで吐かせようとしてしまった。
「いたた…言っときますけど!それ聞いて後悔しないって誓えますかぁ~!?」
「もちのろんだ!殺し屋だろうがスパイだろうが超能力者だろうがどんとこいだ!」
「…お前の最近のマイブームがわかったよ」
彼はそういうと、一つ大きくため息を吐き
「とりあえず、あいつのことを知ろうとするうえで。一つ重要なことがある」
と忠告した。
「おう、なんだ?」
「…あいつ…神谷 羅紀なんだけどな…」
羅紀ちゃんっていうのか。そう妄想を膨らませようとした瞬間。一個爆弾が放り込まれた。
「あいつ…いわゆる男の娘。つまり、あいつの性別、男、なんだよね…」
「…ふぁ?」
放り込まれた爆弾は、着弾と同時に大爆発を起こし、心をひびだらけにしてしまった。
「…い、いやいや…冗談きついぞ、なあ…」
「あのな。誰が好き好んでこんな嘘吐くってんだ」
「…そんなぁ…あ~んま~りだぁ~!!!!」
「うわっ!ちょ、すがりつくな!うわっ、鼻水ついたじゃねぇか!」
…これが、きっかけだ。全く、最悪の極みである。
あれから、「どうせ嘘だろ」と思い込んで近づいてみたけど、仕草は女そのものなんだけど、修学旅行では男子風呂に。日々連れションに誘われるなんていうほどしっかりと男子だった。
…ちなみに、ちゃんと竿がついていた。
「どこで間違ったかなぁ…」
「何が?」
そんなことを考えてるときに、羅紀に声をかけられた。
「あ〜、いや…別に?」
「なんだよ〜。気になるじゃんか〜」
「ほんとになんでもねぇよ」
本当に、何でもなけりゃどれだけ良かったことか。そんな文句考えながら、席についた。
あれから3年。中学以来の受験期の俺らはあの惨劇を体験しているため、4月ながらにしてすでに勉強詰めになっていた。
「ったく、何が楽しくってこんなに勉強せなあかんのだ!」
「仕方ないよ。
「んまあな」
ちなみにだが、俺が知るために近づいた頃から、羅紀とはかなり仲良くやっている。試験も近い俺らは、教室に残り勉強をしていた。
図書室にも自習スペースはあるのだが、キラッキラしたギャル共のたまり場になっているため、こうやって教室を使うほかなかったのだ。
「全く、騒ぐならカラオケなりなんなりに行ってくれりゃいいのに…」
「まあ、遠出はしたくないってのと、金を使いたくないんだろうね~」
「ならせめて静かにしてくれりゃいいのに…」
簡単な計算式を複数解きながら愚痴をこぼす。
「あ~あ!俺らもここでいっちょギャル共みてぇにバカやってやるか?」
「…」
はははっ!と笑いながら冗談を飛ばした。
数秒。返答は帰ってこなかった。
「…ん?どうした?羅紀」
「…あ、あのさっ!」
語尾が少し上ずった。そうしてうつむいた顔の頬は少し赤らんでいた。
…いや、まさかな。
「お、おう…」
「そ、それなら、さ…悪いコト、しちゃう?」
「…は?」
俺の頭はとっくに排熱が追い付かなくなっていた。
どういうことだ?なぜだろう。羅紀は、男だ。それはわかっている。なのに、どうして…。
どうして、俺は期待を胸にしてるんだ?
わからない。ただ胸で躍ってる感情は、期待と恋心だ。
「ゴクッ…」
「ははっ。そんなに緊張しないでいいよ」
そういう羅紀は、色っぽい目をしていた。
女を堕とすやつじゃない。完全に、男を、堕とす目だった。
「な、なんで…だって、おま…」
「…あの、さ。それで、どうなの?」
不安そうに聞いてきた。儚げな目だった。
いけない。こんなこと、許されない。わかっているのに。
「…お、俺は…」
踏み出すのが怖い。例えば、あの友達ぐらいなら気を許して祝福してくれるだろう。ただ、世間はどうだ?
いくら羅紀が可愛くったって。まだまだ同性愛はあまり好印象を持たれない。それに、もし相手側の両親が厳しかったら?考えるだけで、一歩はどんどん後ずさっていった。
しかし、そんな俺をあざ笑うように。羅紀は…
「…えい!」
「えっ?」
隣に来た羅紀に、俺は抱き着かれた。
勢いよく飛んできたため、椅子から落ちて俺は押し倒された様式になってしまった。
「え?ん?ちょっ、え?」
「…ダメ?」
俺は考えた。何度も足を踏ん張った。…だけど。
「…すまん、俺には、勇気がねぇ…。ごめんな…」
「……」
数瞬、寂しさが満ちた後。羅紀は笑って
「あはは!じょ、冗談に決まってるでしょ!全く。君はもしや、本気だと思ったのかい!?」
「…は?」
そういうと、彼ははははっと雰囲気を笑い飛ばした。
「っっっっっ!くそ!もう知らねぇ!」
「ああ!待ってよ~!」
ぷんすかと怒り、鞄を荒々しく取った俺を羅紀は慌ただしく追いかけてきた。
…正直、あれが嘘でほっとしてる自分がいた。
情けなく拒否したこともあるが、もしも俺が羅紀と関係を持ったら。俺らは多分、こうしていっしょに仲良く歩くこともできなかっただろう。
ただ、あの儚げな目が、まだまだ脳裏に焼き付いていた。
(…できればずっと、このままがいいな)
そんなことを考えながら、今日も羅紀と帰路をたどった。
馬乗りにされた制服は、甘い匂いが染みついていた。当分、取れないであろう。今のうちに、最後の余韻として楽しむのも悪くはないだろう。
気になるあの子は男の娘だったけど。それはそれで、刺激的な恋をしている今日この頃だった。
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