第2話 「誰が為に骸は起きる」オーディション

【メッセージが一件あります】


【ウィルスの起動を確認した、鍵は受け取ってくれたようだね。君たちには声優プロダクション同士で金とコネによって既に優勝者が定められたオーディションに参加してもらう。

 ワタシが見定めた【追い詰められた者】と【持たざる者】なら、本来のこの世界のルールである、勝利者が役柄にあう人材として、ジャッジメントAIからの正当な判断を受け、作品の役柄を勝ち取ると期待している。ワタシのプログラムは不正も気付かれることはない、全力で励みたまえ。

 望むのは平等な世界。

 ワタシはアベンジャー。勝利後、二人が望む報酬を約束しよう】



『さあ、今回はあの超ヒットメーカー咲良監督が作り出す新作、クロスメディアも約束されている「誰が為に骸は起きる」の登場人物オーディションです!』


 津波のような歓声が森林や街を内包する広大なフィールドに響き渡る。

 これから始まるオーディションはインターネットを経由して、全世界に放送される。


『今回も栄光の主役は超弩級の新人声優・小日向紬が勝ち取るのか、はたまた無名の新人が勝ち取るのか、ジャッジメントAIの運命は誰に微笑むのでしょうか!』


 プラグラムで構築されているセイレーンのコックピット内は役者の特技披露も兼ねている為、レッスンスタジオとなっている。そこで特技を披露したり、肉体の動きに連動してセイレーンを操作するのだ。


 そんな中、俺は柔軟をしながらカメラに映し出された幼馴染の紬を見つめていた。

 優しそうなたれ目にセミロングの髪は子供の頃と変わらない。


「見つめすぎ」


 根古からの通信にハッとして顔を上げる。


「ルールを聞いてたんだよ」

「ふーん」


 苦し紛れな言い訳に根古はセイレーンのカメラ越しにジト目で俺を見る。


「てか怪しすぎなんだけど。誰だよアベンジャーって」

「退所した瞬間にあたしにもメッセージが届いてたのよ。勝利すれば望むものを提供するってね。だから乗ったの、上凪を待ってて正解だったわ」

「俺が顔出すの知ってたのかよ」

「だっていつもあたしの顔見に来るじゃん」


 次からは暴言を聞いてもスルーする必要があると俺は心に誓った。


「怪しくないか、物凄く。だってシステムに介入して無所属の俺たちをオーディション戦に紛れ込ませたんだぜ?」

「思い当たる節が実はあるのよ。その介入システムを作るほどの腕にね」

 誰だよと聞こうとしたとき、空にカウントダウンの表示が映し出される。

「まあ、わたしは小日向紬さえ墜とせればなんでもいい」

「俺は役を勝ち取ればそれでいい。つまり、コネじゃないものが勝利する目的のアベンジャー含めて、利害は一致してるってわけだ」


 カウントダウンがゼロになり、全てのセイレーンが淡い光に包まれて戦闘フィールドへと移送される。


「量産型ヴォイス壱式、いくぜ!」

「ハピネス=フリル、踊るよ!」


 飛ばされたフィールドは人影がないビル街、自身の耳を頼りに俺は周囲を伺う。


「いや、いる!」


 俺は腰に装備してあるグレネードを咄嗟に草蔭へ三つ投げた。

 すると俺の画面に『6 Exit !!』と表示される。

 撃墜対象を確認すると根古が溜息を吐く。


「あら、早速こいつらもいたのね」


 肩には『セブンブルー』所属者のシンボルマークが印刷されていた。


「けど到着早々、見ないで倒すって上凪、耳が良いどころじゃなくて、ちょっと引くんだけど」

「セイレーンに乗ると声優の『特技』が強化されるだろ、現実じゃこうはならんよ、行くぞ」

「はーい」


 バーニアで上昇する俺に根古はご機嫌で追随する。


「あたしを虐め、嫉妬に狂った感情で襲い掛かった末路ね。身内争いしてるうちは同じ穴のムジナで足を引っ張り合ってなさい」


 そこからはまさに絵に描いたような快進撃だった。

 投げ銭要因で培った根古の陽動により、俺が隠れてターゲットを撃墜する作戦が功をそうした。


「そんなに強いのになんで今まで役が取れなかったのよ」

「必ず俺を墜とす奴がいるんだよ、ほら来たぜ」


 残り人数が百名を切ったころ、空中にいる俺たちの眼前に現れたのは、女性的でスタイリッシュな人型機体である。両腕にマイクスタンドを一つずつ持ち、空中を漂う十二基のビットはスピーカーの役割を果たすために存在する。

 ちなみにパートナーの機体はロックな感じでギターを背負っていた。


「紬が乗る、歌唱特化型セイレーン『シンガー』だ」


 話しかける気はない。

 俺が彼女に自分の存在を伝えるのは、録音スタジオで同じ空間に立った時と決めている。


「上凪、この一帯に秘匿通信。あいつらに墜とされなさいって運営から」

「くそくらえって返しとけ」

「了解、と。で作戦は? わたしは小日向紬を徹底的につぶす気だけど」

「無茶言うな、紬の機体は最新鋭中の最新鋭だぞ、策がないとスクラップになるのはこっちだ」


 俺と根古が言い合っているとき、シンガーとギタリストが楽器を構えようとし、それは起こった。


 ——優勝候補のギタリストとシンガーが、胴から真っ二つに切れて爆発四散したのだ。

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