さらば転生の光~某お笑いコンビ風異世界小説~

八木耳木兎(やぎ みみずく)

第1話-チートスキル-



 それは、あまりにも突然の出来事だった。


 その時俺――冒険者・フォレスト率いるパーティーは、ドラゴン討伐の為のクエストを受けていた。


 討伐対象となるドラゴンは、依頼によれば俺たちパーティーの力を結集すれば倒せるレベルのはずだった。


 しかし、クエストは予想通りにはならなかった。


 偶然、通常の何倍ものパワーを持つ突然変異種のドラゴンに出くわしてしまったのだ。


 対通常種用の装備・アイテムしか持ち合わせていなかった俺たちのパーティーは、突然変異種の猛攻になすすべなく蹴散らされてしまった。

 俺以外のパーティーは起き上がることすらできない気絶状態となって横たわっている。


 しかし、本当の突然の出来事は別にあった。

 ドラゴンの口から熱気が生まれ、火炎放射によって俺の命も危うくなりかけたその瞬間。


 ドラゴンの身体は、一瞬のうちに爆散した。


 一瞬で灰燼と化したドラゴン。

 風で砂塵のように舞う灰の中から現れたのは、一人の男だった。

 その余裕の表情から言って、あの超強力なドラゴンを倒したのが彼なのは明らかだった。


「数年ぶりだな」


 その一言で、俺はその男の正体に気付いた。


 帰ってきたのだ、俺の元に。


 完全にパーティーのお荷物だったために、ボロ雑巾のように追放したはずの、元パーティーメンバーの冒険者―――イーストが。


「お前、なぜ……あいつを倒せたんだ?」


「質問する前に、ステータス画面を見てみたらどうだ? 敵の能力の把握は冒険者にとって基本中の基本だろ」



 俺はステータス画面を見て、目の前にいる奴のレベルを確かめた。

 レベルの項目に記された、彼のレベル数値を確かめる。



「えぇ!? ……ええぇぇ!?」

 思わず、驚きの声をあげてしまった。




 まず、気付いたことがある。




 ステータスウインドウが、半端なく大きかった。

 通常、レベルを表示するウィンドウは、手帳ほどのサイズしかない。

 しかし、彼のレベルを表示するウィンドウは、本当の窓くらいのサイズがあった。

 そのウインドウには、数がびっしりと表記されていたのだ。

 桁が一目で把握しきれないほどに。

 

 俺はとりあえず、右下の一の位から数字を確認した。






「1……10……100……1000……1万……10万……100万……1000万……1億……10億……100億……1000億……1兆……10兆……100兆……1000兆……1京……10京……100京……1000京……、……?」


「垓」


「……1垓……10垓……100垓……1000垓……、……?」


「穣」


「……1穣……10穣……100穣……1000穣……、……?」


「溝」


「……1こ



【中略】



「極」


「……1極……10極……100極……1000極……、……?」


「恒河沙」


「ご う が し ゃ !? ……1恒河沙……10恒河沙……100恒河沙……1000恒河沙……、……?」


「阿僧祇」


「あ  そ  う  ぎ  !? ……1阿僧祇……10阿僧祇……100阿僧祇……1000阿僧祇……、……?」


「那由多」


「な   ゆ   た   !? ……1那由多……10那由多……100那由多……」


「わかったか? 今の俺は、レベル200那由多とんで3万の冒険者なのさ」


「レベル200那由多とんで3万!?


 …………


 ……


 …



 … チ  ー  ト  ス  キ  ル  や  な  い  か  ー  い  !!!!!」



 というわけで、役立たずだったが故に追放した冒険者は、今やチートの覚醒によって二百那由多三万のレベルを持つ冒険者と化していた。



「さぁて、 やっとお前に復讐できるぜ覚悟しろ!!」

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってくれ!!!」


 何がどうなってそんなレベルになったのかはまったくわからない。

 ただ一つ言えるのは、今の俺の状況がドラゴン相手の100倍――いや、文字通り1那由多倍ヤバいということだった。


「よくもあの時は散々コケにしてくれたよなぁ?!!!」

「いやちょっと待ってちょっと待ってくれ!! そもそもチートスキルの相場越えてるだろ!! 何がどうなってこんなレベルになったんだよ!!」


 今の俺たちのレベルが平均で120。

 かつて世界の平和を脅かしたと言われる魔王や、かつてチートスキル持ちだったとされる勇者のレベルが1500。

 いくらチートスキルだったとしても、どう考えてもイーストのレベルは度を越えていた。


「何がどうなって……か。 偶然助けた少女が精霊でな、信頼された結果200那由多までレベルをあげてもらったんだ」

「え……じゃあ残りの3万は?」

「それは俺個人の鍛錬だ」

「鍛錬しょぼっ!!! ……いやしょぼいじゃねぇ!!!」


 気が付かないうちに、俺の感覚もおかしくなっていた。


「たのむ見逃してくれ!! せめて手加減してくれ!!」

「手加減……か。まあ、まがりなりにも昔チームを組んだ仲だしな」


 頼みが通じたらしく、俺はほっと胸をなでおろした。

 と、イーストは、胸ポケットから腕輪をとり出した。


「わかった、じゃあ力を制御してやる。これは鍛錬の時自分にハンデを課すために使ってた腕輪でな、この腕輪で、レベル1億分力が制御される」

「1億!? …………………………もっと制御してくれ」

「お前なぁ……どこの冒険者がレベル1億分ハンデを負ってくれると思ってんだ!!」

「…………どこの冒険者がレベル200那由多で攻撃してくんだよ!!!!」


 やっぱり、イーストはまったく手加減する気はないらしかった。


「だったら、臨時メンバーを雇ったらどうだ? パーティーではよく臨時でソロの冒険者を雇ってたよな、誰かさんが弱すぎて使えないとか言って」

「あっ……そうか!!」


 そういわれた俺は、大慌てで通信石の内蔵された手持ち型遠距離通話用魔導具をとり出して、ギルド集会所内のパーティーメンバー斡旋所受付に連絡した。


「もしもし!? レベル200那由多の冒険者を探してるんですけどいないですか!? 200那由多!! なゆた!!! なーゆーた!!!!!」


 通話を切られた。

 多分頭のおかしい冒険者と思われている。

 多分俺が受付でも切ったと思うので、文句は言えない。


 恐る恐るイーストの方を見返すと、余裕の表情でドラゴンの死骸に腰を下ろしていた。

 殴り掛かるのはいつでもできるから、俺の慌てる様を楽しんでやろうとでも言わんばかりだった。


「俺は少し待ってやるから、その間になんとかしたらどうだ? ちなみに俺のレベルを上げた精霊もここに来次第加勢してくれるらしいが、レベルは7000不可思議だぜ」

「不可思議……?」



 もう数値で測れる強さじゃなくないそれ?



 いや、深く考えるのはよそう。

 こうなったらもう国の騎士団に頼るしかない!!

 そう思って、俺は騎士団の受付へと連絡をとった。


「すいません、レベル200那由多とレベル7000不可思議の奴に襲われそうなんです!! なんとかしてください!!! いえふざけてるわけじゃないんですお願いします!!!!!」


 ◆   ◆   ◆


 気が付いたら、イーストの前で土下座していた。

 結局、騎士団にも取り合ってもらえず、通話を切られた。

 べらぼうな力を前に、プライドを捨てて命乞いするしか、俺にできることはなかったのだ。


「……仕方ない、今ここで制裁を与えるのは勘弁してやる」

「えっ!? あぁよかった!!! ありがとうありがとう!!!」

「その代わり、お前に禁呪を施してやる。この呪いを受けたお前は、生涯不幸な人生を歩むことになる」

「えぇ……!?」


「……いや、お前の息子の代まで、かな」

「むすこ……!?」


「いや、孫の代、かな」

「まご!?」


「ひ孫……」

「ひまご!?」


玄孫「やしゃご!?」、来孫「きしゃご!?」、昆孫「こんそん!?」、仍孫「ぎょうそん!?」、雲孫うんそん……」


「もうやめてくれえぇ!!!」

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