第8話

俺は真由の真っすぐな視線に耐え切れず、前を向いて口を開く。


「あ… えっと …さ… その…まあ、興味…っていうかさ…あの…」

本当はちょっと、人に聞かれてさ… なんて言ってしまえば、

普通に考えて、それって誰なんですか?と聞かれそうな気がした。


俺は咄嗟に興味だと、ごまかしの言葉を口にした。

でもそれも、本当はあまりよくなかったのかもしれない…。


「…興味…ですか… あの、私、 彼氏なんて、いません… でも…」


真由も俺の方を見ずに、真っすぐ前を向いたまま口を開く。


「でも…好きな人っていうか、…気になる人なら、います…」


そうか…  そうなのか…  


俺は少しだけ、胸にチクリと小さな棘のようなものが刺さった気がした。

なんだ…これ、…モヤモヤするこの気持ち…。


「へえ… そっか…でもごめん、なんだか変なこと聞いてしまって…セクハラだよね、反省してます。」

「…いえ、全然… むしろ… 」彼女が何かを言いかける…。

「… ん… ? …」 

「あ…いえ、なんでもないです…そういう坂下さんは、彼女さんとか…いないんですか…?」

「あ…っと、…うん、今は…いないね、この歳で、恥ずかしながら…はは」


俺は恋愛に向いていない…。

過去の失敗からそんな風に考えるようになり、もうかれこれ5年以上は。誰とも付き合っていない。


「そう…ですか…意外です、勿体ないですね、そんなに素敵なのに…」


真由のその言葉に、

俺は、思わず自分の耳を疑ってしまった。











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