第9話

素敵…  

褒め言葉だとしても…言われ慣れていない言葉…


そんなことを言われるとは思ってもみなかった俺は、途端に無言になってしまう。


「あ…あのすみません…変なこと言いました…?だけど…坂下さんに、普通に彼女さんいないの信じられないっていうくらい、モテそうなのにって思ったものですから…」


「いや…とんでもないですよ、そんなこと、全然です…。」俺は即、否定する。


自分から話題を振るのもそんなに得意ではないし、面白いことだって言えない。

だから大抵付き合っても、女性の方がこんなはずじゃなかった、面白みに欠けるみたいなことをサクッと言い放って去っていく…

いつも、そんな感じだった。


「まあ、いいんです、俺は一人で別に。今、彼女欲しいなんて思ってもいませんし、その分仕事に打ち込んでますから、はははっ…」


真由が、微妙な顔をする…。


少し、自虐的だっただろうか…。

俺は話題を変えようと真由の方を向く。


「ああ、そうそう、…えっと栗原さんは、ご兄弟とかおられるのですか…?」


「え…  …っと、 兄弟、ですか…」


それまでにこやかに笑っていた真由の顔が、途端に曇ったような気がした。

何か、まずかったのだろうか… 

色々な形態の家族がいる…。うまくいっていない家族だってあるだろう…。

家族の話なんていきなりすべきではなかったかもしれない。

俺はさっきから、失敗だらけの言葉選びだ… 


ああ…ほんと、駄目だな…

俺はさらに話題を変えようと、口を開く。


「あ …えっと、」

「私には、兄が…一人…少し、年の離れた兄が一人、います。二人兄弟なんです…」

「あ… そう、ですか…」

「はい…」


これ以上はやめよう。

家族の話はもう、真由の前ではしない…

真由の様子を見て、俺は漠然とそう思った。


俺は、自分がそう感じた、その理由を、ずっと先に…  


    身をもって知ることになる…。





・・・・      ・・・  ・・



あの時、こうしていれば…

 あの時、ああしていれば…


俺は、こんなことには、ならなかったのかもしれない… なんて…

今後悔したって、本当に遅い…  遅いな…


   まゆ…   まゆ …   


            こ… … 


    俺はゆっくりと… 目を、


                   

        閉じた…。


             

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