第6話
それから数日してからのこと。
「坂下さん、今日も残業ですか?」
夕方6時を回る頃、栗原真由が俺に尋ねてきた。
「あ…はい、そうですね、もうちょっとなのでやって帰ります。お疲れ様でした」
俺は真由にそう返し、再びパソコンの画面に視線を移す。
「あの…私も仕事、結構残ってるんです…あのもし良かったらですが、一緒に夕飯食べて帰りません?お酒でも、いいんですけど…」
「え…っ? …えっと…二人で、…ですか?」
「はい…二人じゃ、何かだめですか…?」
「いえ、だめってことじゃ…ないですけど…」
真由と二人で食事に行く…
それは、本当に初めてのことだった。
真由は何かと俺に声をかけてくれ、他の人よりは自分に懐いてくれているような気も、やはり少しはしていたが、まさか…食事だなんて…。
俺は動揺して、次の言葉をスムーズに出せないでいた。
「5・4・321… はーい、時間切れ。ふふ。じゃ、決まり!ですよ…。坂下さんの仕事、終わりそうになったら言ってください。私、お店探しておきます~」
「え…!?… あ…はい。」
返答するまでもなく、明るい真由のペースに飲み込まれてしまった。
二人きりとなるとかなりの緊張感があるが、この前同僚に頼まれたことを聞ける良いチャンスだとも思った。
頼まれてはいるものの、なかなか勤務中に唐突に彼女に、彼氏はいるのか、好きな人は?などと聞けるほど、俺の神経は図太くもない。
俺は仕事を早々に片付けるべく、指を走らせたが、仕事が終われば、真由と二人きりで食事に行く…
行こうと決めた動機はともかく、その事実が、
俺を極度に緊張させ、
高揚させたことは言うまでもない。
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