第5話

「あの…思い切って聞いてもいいかな…?」

俺より少し上の先輩に珍しく昼に社員食堂に誘われ、食後の珈琲を飲んでいると、

突然、そんな風に前置きをされる。

 

「え… なんですか…?」


先輩が口を開く。

「坂下さんって、もしかして真由さん…栗原真由さんと、付き合ってたり…するの…?」


「…は… ??」

唐突に、なんだろう…。


「…あれ…違うの…?」

「え…俺と、栗原さんが…付き合う…って…?」

「… あれ…?本当に違うの…?社内で、みんなそんな風に噂してるけど…二人、すごく仲いいみたいだし」

「…はあ…? 違いますよ… とんでも、ないですよ…僕なんかが栗原さんと、付き合う…だなんて…」

「そう…なんだ…? じゃあ、栗原さんは今、フリーなのかな…、もしかして…」


先輩が珈琲カップをテーブルに置き、ホッとしたように微笑む。


栗原さんのことが好き、なんだな… 


それはすぐにわかったが、彼女がフリーかどうかなんて俺だって知らない。

本当は胸の奥が少しだけチクリとした気もしたが、俺は一応…普通に答える。


「… さあ… どうなんでしょう… でも、いてもおかしくはないでしょうね…」

「…だよな… あの、見た目、あの性格だからな…」

「はい…」

「そうだ…坂下さん…良かったらさ…、…」

「はい…」

「君、特に仲良さそうだからさ… それとなく聞いてくれないかな…?誰か特定の人とか、好きな人とかいないのかって…さ…」

「え…?…ちょっと、それはなかなか…僕には、ハードルが、高いですよ…」

「いいじゃないか…そんなに仲良いんだからさ…それくらい…な、頼むよ…このとおりだ…」

先輩が俺に頭を下げる…さすがに…もはや、俺には断れない…。


「はあ…まあ…折を見て、聞けたら聞いてみますが…。」


俺は押されて、ついそう返事をしてしまったが… 

結果的にこのことが、後々…

俺と真由を…妻を、結びつけるきっかけとなってしまったのだ…。







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