鉄道の恐怖(清春編)

もえ

第1話 出会い

「初めまして…石塚茉優子と申します。英会話に通うのは初めてです…色々慣れませんが、よろしくお願いします…」


彼女はホワイトボードの前で、はにかむように挨拶をし、静かにお辞儀をして、自分の席に着いた。


控え目で、見るからに大人しそうな人だ。

それが、俺が石塚茉優子に抱いた第一印象だった。


俺は仕事帰りに、週に二回の頻度で駅前の英会話教室に通っている。

通い始めたきっかけは、仕事上においてのスキルアップのため。


取引先の外国人との会話がうまく成り立たない、早口の発言が正確に聞き取れない。 

そんな、仕事においては望ましくない場面が何度もあり、いつしか英語を読み解く能力を、特に会話能力をもう少し堪能にしたいと考えるようになった。

自分の成長のために、そして一種の気分転換のために通い始めたのがきっかけだったが、日に日にスキルはアップしていき、お陰で職場でも仕事の幅が広がり、段々と評価されていくようになった。


教室は大体7~8人編成で、月に二~三人位のペースで、教室を見学したり、新しく入会してくる人がいた。

レベルに応じてクラスや曜日を選べる柔軟な教室で俺もまあまあ気にいっていた。


石塚茉優子という女は華奢な身体つきの、黒、グレー系の地味な服装に反して、白い顔が際立つ美しい女だった。


初日にたまたま俺の隣の席に座った彼女からは、香水だろうか…花のような、良い香りがした。


「初めまして、初心者ですが、よろしくお願いします。」

女は俺の方に向き直り、ペコリと礼をしながら挨拶をしてきた。


「どうも、坂下といいます、私は半年ほど前に入会しました、まだ全然上達はしていませんけど、こちらこそよろしくお願いします。」


女は頷きながら、柔らかな雰囲気をまといながら、ふわりと微笑んだ。


名前は、まゆこ…か…。

呼び名は妻と同じだ…

だが、妻とはタイプが、全然違うな。


俺が茉優子に抱いた初対面の時の印象は、せいぜいそんなもの、だったのに…


いつしか俺は、 

左手の薬指にきらりと光る指輪をした彼女を、目で追うようになった…。

























 

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