美月、僕と結婚したいの?

 いつも通り、妹の美月は僕の部屋に来た。

僕はベッドでうつ伏せになって、漫画を読んでいる。


「兄ちゃ~ん」


何故か美月はパソコンの電源を付けず、僕の背中にくっ付いてきた。

うつ伏せの時にくっ付かれると、亀の甲羅みたいだ。


美月は小3、僕は高1だ。体格の差があるので、美月が乗っても重くない。


「兄ちゃん、好き♡」

くっ付いたまま言う美月。


この好きは『Like』だ。『Love』じゃない。そんな事はわかっている。


「僕もだよ」

漫画を読みながら、適当に答える僕。


その後、何故か僕の背中に顔をうずめてきた美月。

息が当たるんだ。間違いない。


「美月、くっつき過ぎだぞ」

息が当たると、僕がくすぐったいんだ。


「え~」

不満そうな美月。



 美月が僕の背中にいても重くないけど、体勢を変えられない。

今後も同じことがあると面倒だ。


美月をちょっと脅してみるか。自分の意思で僕の背中にくっ付かないようにさせる。


「美月、このまま僕の背中にくっ付いてると、僕と結婚してもらうよ。いい?」


これなら「絶対嫌!!」とか言って離れるだろう。


「いいよ」

変わらずくっつき続ける美月。


あれ? 思った反応と違うな。小3だから、結婚の意味が分からないとか?

冗談だとバレた可能性がある。 それなら、さっきの反応も納得だ。


他の口実を考えている時、美月が予想外なことを言ってきた。


「あたし、前から兄ちゃんと結婚したかったの。このままくっ付いていると、兄ちゃんと結婚できるんだよね?」


冗談でも、僕と結婚したいなんて言うものじゃないぞ。


どう答えれば、美月を納得させられる?



「美月、結婚するには『18歳』になる必要があるんだ」

僕は強引に動いて、美月をベッドの上に誘導させてから言った。


「18歳?」


「そう。美月は小3だから、大体10年後だね」


10年もたてば、誰だって考えは変わる。

というのは、黒歴史になるだろう。


「じゃあ、10年たてば結婚してくれるんだね?」


「ああ」

ここで話の腰を折るのは面倒だ。適当に合わせる。


「やった~!」


大喜びする美月。観ている僕も頬が緩んでしまう。



 このやり取り以降、美月は僕に『好き』とか『結婚』のことを言わなくなった。

あの時はというか、何かの影響を受けていたんだろう。


そう思っていたのだが、10年後。この話は再び浮上するのだ…。

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