おやじパンクス、恋をする。#4
席について、やっぱりこの店がガキの頃行ってた店に間違いないらしいことを奴らに言った。予想はしていたが、ボンもタカも「へえ」と興味なさそうに答えただけだった。涼介に関しては、返事すらしねえ。昼間のライブの物販で買ったっていう変なポップスバンドのCDを開けて、忌々しげな表情で歌詞を読んでいる。そんな顔するなら、何で買ったんだよバカが。タカはテーブルに置かれていたメニューを熱心に見て、何を食おうか考えているようだ。てめえそうやって悩んだ挙句いつもハンバーグじゃねえか。いい加減学習しろ。
俺は呆れて――いや、安心したんだな、多分、こいつらがいつも通りだってことに、俺の単なる思いつきに、こうしてつきあってくれたことに。俺はソファの背もたれに身体を預けて、リラックスした。さて、あとは飯食って帰るだけだ。
俺たちが座っていたのは店の一番奥のボックス席で、二人掛けのソファが二脚、テーブルを挟んで置かれている。俺は涼介の隣、店のエントランスを背中にして座っていた。向かい側にボンとタカが座っていて、その向こうには窓がある。何年も掃除されたことがないような、白く濁った汚ねえ窓だ。
ターニングポイントってのはいきなりやってくる。
何気なくその外の風景を見てた俺は、前触れもなく突然、強烈なデジャヴに襲われた。
外の風景ったって、別に特別なもんが見えるわけでもねえ。上半分は空で、下半分は向かい側に建つ古いマンションだ。だが、俺はその何の変哲もない風景に、なんていうか、見覚えなんて言葉じゃ足りない「焦り」みたいなもんを覚えたんだ。いきなりハッとしてさ、視界とか意識とかがスローモーションになるときあるだろ。ああいう感じで、俺はその瞬間、その「焦り」がコマ送りみてえなスピードで俺をぶん殴ろうとしてるのを感じた。
ああ、そうか。
これだったんだ。
よく考えてみれば最初から何かおかしかった。
普通なら、店に入った瞬間に、いや、ロゴを見た時に、あるいはビルの外観を見た時に「うわあ、ここだ」って感動っつうかさ、そういう驚きがあってもよかったはずだろ。だが、俺はそうはならなかった。何となくこんな感じだったけど、でも違ったような気もする、そんな曖昧な感じだった。なぜか。
これだったんだ。
俺がこのレストランを覚えていた理由は、これだったんだ。
そう、これこそ俺がずっと感じてた違和感の正体だ。
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