中学校進学
奏汰が亡くなってから、半年が経った。僕は中学一年生になったけれど、中学校生活は決して明るいものではなかった。
ユメ池のほとりで、僕は三人の男子に囲まれている。夕陽が池の水面を赤く染めていて、背後ではちゃぽんっと魚の跳ねる音がした。夕釣りに来ている人もいなくて、周りに僕ら以外の姿はない。
「……おい、持ってきたかよ」
「……これ」
僕はポケットから千円札を出して、目の前の大柄な男子に手渡した。こいつは佐藤といって、いつも僕にお金を要求してくる。断ると、殴ったり蹴ったり、地面を引きずり回したりといった暴力を振るってくる。
佐藤は乱暴に、僕の手から千円札をひったくった。佐藤の左右では、取り巻きの大垣と黒川が楽しそうにニヤニヤと笑っている。
「ぜんぜん足りねーよ。こんなんじゃ三人で分けらんねーし、十連ガチャ一回も回せねぇじゃん」
「でもこれしか……」
「親からもらうとかできねぇのかよ。アタマ悪いなー」
佐藤は腕を組んで、しばらく考えごとをする仕草を見せた。
「そうだな、足りない金の分は、面白いことでもしてもらおっかな。お前、こっから飛び込めよ」
「……え」
佐藤はユメ池にかかった桟橋を指さした。
「あそこから、池に飛び込んでみろって言ってんの。耳聞こえねぇのかよ」
そんなの無理だ。この池は結構深さもあるし、泳げない僕がこんなところに飛び込んだら溺れてしまう。
「埋め合わせだよ埋め合わせ。レストランでもちゃんと金払えなかったやつが皿洗いさせられるとかあるだろ? それと同じだよ。おう早くしろよ」
佐藤は明らかにいら立っている。これ以上僕がもじもじしてたら、引きずってでも池に投げ落としてくると思う。
……もう、飛び込むしかない。僕は桟橋の先っちょに立った。
そのときだった。僕の背中が、思いっきり蹴られた。そのはずみで、僕の体は水面に叩きつけられた。真夏の熱気が、水によって一気に冷やされた。
鼻と口から、水が入ってくる。喉に水が引っかかって苦しい。体が上手く動かなくて、岸に戻れない。ああ、苦しい、苦しい、死ぬ、死ぬ、こんなところで僕は……
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