誓いの果て

第56話 会戦 フレール

　クラウスは、強力な圧を感じていた。

　東側と戦った経験もある。

　この戦いも、圧倒的に押しているというのに、敵が倒れない。

　クラウスは、目の前の敵の首を切った。

　だが、次の瞬間、胴体だけが動き、クラウスに斬りかかってきた。

　首を切り、胴体を切って、倒れた後、しばらく手足をばたつかせてやっと動かなくなった。

　クラウスや他の兵士達も同様に、一撃で倒せない敵に消耗させられていた。

　クラウス率いるフレールの後方に、リメルナの魔術師ジギーがいた。

　敵を魔術で硬直させると護衛達が斬り倒していく。

　ジギーは、探していた。

　自分と同じ魔術師を。

　魔術師は、必ず大打撃を与えるために、敵陣深く入り込み、大掛かりな攻撃をしてくるとグレアムは踏んでいた。

　グレアムは、魔術師達に、いち早く敵の魔術師を見つけ対処するよう命じていた。

「いた。」

　ジギーは、ゆっくりと進んで行く。

　敵の魔術師は、光りの槍を振り回して、機を狙っていた。

　光りの槍は、槍の届く範囲の者を敵味方関係無く切り裂いた。

　槍と言うより、光りの槍全体が刃だった。

　光りの槍が、伸縮した。

「光りの槍を最大限に伸ばして、ぐるっと一回りか。全員、体が真っ二つだな。」

　魔術師が、フレールの中心まで、入り込もうとしていた。

　魔術師の見つめる先をジギーが見た。

　派手な甲冑の男が、戦っていた。

「クラウス王子か。まぁ、頭を討ち取れば士気は下がる。」

　ジギーは敵の魔術師に向かった。

　光りの槍を振り回しながら、魔術師はクラウス王子を見ていた。

　位の高い者を倒すことは、名誉なことなはずなのに、何の感情もわかなかった。

　馬上にいては、体を真っ二つには出来ない。

　魔術師は、クラウス王子は落馬後、首を跳ねることにした。

　そのため、魔術師は、クラウスに近づき始めた。

　魔術師は、大声で馬上から鼓舞しながら戦うクラウス王子を見た。

　若いが良い主君のようだ。

　味方の危機を救っている。

　ふと、魔術師は、自分は何をしているのかと思った。

　戦っている。いつの間に戦いに出たのだろう。

　自分は、誰と戦っているんだろう。

　魔術師は、辺りを見回した。

　知らない。味方も敵も知らない者ばかり。

　頭痛がした。

　誰かの声が頭の中で、囁く。

　倒さねば、殺られる。自分も、家族も、友人も。

　愛する人が殺される。

　囁く声に聞き覚えはない。

　だが、急に身体の自由が効かない。

　戦いたくない！死にたくない！

　魔術師は、ふらついた。

　顔を上げた魔術師の目は赤く、虚ろげになっており、また、クラウス王子に向かい始めた。

「おい。」

　敵の魔術師が、振り向く。

　敵の魔術師が、無表情なまま話し出す。

「お前も魔術師。魔術師は、皆殺しと言われている。」

　光りの槍が、ジギーに向けられる。

　ジギーは、剣で槍をはじいた。

「いいだろ。この剣。俺が魔術でコーティングしたスペシャルな剣。」

　ジギーは、自慢気に剣を見せた。

　魔術師は、何の感情もなく、光りの槍をおもいっきり横に振った。

　刃となった光りの槍が、激しくジギーの剣にあたり高音をたて、両者は剣と槍を真ん中にして激しく睨みあった。

　ジギーは、魔術師の赤い目を覗き込んだが、何も見出だせなかった。

　余計な感情は捨てろ。時間をかけるな。

　グレアムの言葉が頭をよぎる。

　護衛の一人が、敵兵に切られ倒れた。

　ジギーは、魔術師を強く押し退け、腹を殴り、膝立ちにする。

　魔術師は、体が硬直して動けなくなった。

　ジギーは、魔術師を見下げた。

　俺の使った魔術は、人を操る魔術と似ているな。禁術と。

「悪いな。お前を助ける方法はこれしかねぇ。」

　ジギーは、剣を振り上げた。

「…ありがとう。」

　魔術師の目が、赤から黒に変わっていた。

　ジギーは、魔術師の首を跳ね、胴体も切った。

　ジギーは、自分に舌打ちをした。