第7話 旅人
コッツウォートを出て、西に背を向けながら、斜め横断するように進む。
商人なら、行き慣れた道。
林や小さな丘をいくつか越える、比較的苦の無い道筋。
最後に、高い丘を登ると現れる。
エメラルという、太陽の輝きを浴びる海沿いの国。
観光、漁業、輸出入で栄える国。
活気溢れる街中を、ガタイの良い銀髪の男が進んで行く。
黒髪ばかりのコッツウォートでは、銀髪がいれば目立つがエメラルでは、多種多様な人種が行き来しているので違和感はない。
船乗りが多いから、ガタイの良さも目立たない。
ただ、片目の傷跡ばかりは 少々目立っていた。
大通りから、脇道の細い通りに入り、小さく海洋亭と書かれた看板の店に、銀髪の男は入って行く。
「おっ、アディの旦那!久しぶりじゃないか?」
小太りなおやじが寄ってくる。店の主人だ。
「景気はどうだい?」
アディの低い声で、店の少ない客の注目を集める。
「店の中見ろよ!良いわけねぇだろ~。西の話しを知ってるだろ。」
ここで、店主は、小声になり、
「イリヤが堕ちて、あんたの国はどうした?国王と第一、第三王子は死んだらしいじゃないか!第二王子が王になるんだろう?大変な事になってるな!」
さすがに、早いな。
情報はすでに、エメラルにも伝わっていた。
店主は、アディをコッツウォートの商人付きただの護衛だと思っていた。
第三王子の兵は、国の兵でありながら、商人の護衛の仕事を多く請け負わされていた。
「偶然、国を出ていて無事さ。その後、西の奴らはどうした?なんか聞いてねぇか?」
「うちの軍とリメルナの軍でとりあえず追っ払ったみたいだが、またいつ攻めてくるやら。今は、コッツウォートがどれぐらい兵を出せるのか知らねぇが、このままじゃアブねぇから、他国へ打診中だな。軟弱な兵でもいないよりマシだからな!」
男は、フレールを引き合いに出していた。
エメラルもリメルナも、フレール国を含め、周りの国のほとんどを軟弱者呼ばわりしていた。
リメルナが盗賊の国ならば、エメラルは、海賊の国と呼ばれ、口も腕も立ち、頭が切れ、エメラルの商人にかなうものはいないと言われていた。
「近くリメルナの第三王子が来るらしいぞ!」
「そうか。おっと、いけねぇ、まだ仕事があるんだった。また、寄るよ。」
「ああ、ちゃんと金を落として行ってくれよ!」
「分かってるよ。」
アディは、ゆっくりと店を出ていく。
街中は、いつも通りと見せながら、各所に私兵が彷徨いていた。
脇道に目をやると、ほとんどが店を閉めている。
宿に戻る途中、小さな酒屋が切り盛りする立ち飲み屋で、客の声に耳をすます。
「西の奴らと、連絡が取れなくなっているらしいぞ。船も乗り付けさせねぇらしい。」
「サティールへ行った商人の話しじゃぁ、途中、野犬に襲われるわ、天候はひどいわで、やっとの思いでたどり着いたってのに、商談は2日で終わらして、さっさと出て行けと役人に言われたらしくてよ。」
「なんだよ。商売にならねじゃねぇか!」
「役人だけじゃなくて、街のやつらもおかしいらしいぜ。なんか怯えて話しもろくに出来ないらしい。」
「昔から、西は、奴隷やら強制労働やらこえぇ国あったからな。最近は落ち着いたと思ってたのによ~。」
「フレールやリメルナは、どう動くかね。」
「こういう時は、盗賊のほうが、話しが通じるんだよな~。普段は、いけすかねぇがよ。」
男達は、最後は笑って、また酒を飲み始めた。
たしか、リメルナの第三王子は、リル王子と共に動いていたし、この分じゃあ、エメラルにも早々に来るだろう。
先に、エメラルを出て、フレールに行きたいところだ。
あのお嬢ちゃんを使って、なんとか居場所作らねぇと、旅人のままじゃ心身共に持たねぇ。
特に、動物になったり、人になったりじゃぁ。
冗談じゃねえ!
狼の姿なんかで死んでたまるか!
なんとか、うちの王子に考えてもらわねぇと。
アディは、足早に宿へ戻ることにした。
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