第2話 ヱイマの時間
「これを再生装置に入れると、記録された映魔が再生されます」
「ディスクを再生装置に……?? なんだかさっきから急激に異世界っぽさがなくなってきてません?」
シュライフさんが僕に見せてくれた再生装置、形は完全にDVDとか再生するやつだ。木でできてる。木製なのこれ!?
急にそこだけアナログでファンタジー風味出されてもこれ、マジックアイテムとかそういう言い訳が無理なぐらい、家電量販店でよく見る形式のやつだから。うちにもあるよ。木製ではないけど。
「これが映魔です」とシュライフさん、再生装置にディスクを入れる。すると装置から放たれた光が立体映像のように、僕とシュライフさんの間に投射された。
喋って動く立体映像投影技術。VRよりVRっぽい!
というか、なんか魔法っぽい!
「見慣れた形のディスクと再生装置から、逆転して異世界っぽくなった……!! え? このホログラムは見た感じ、すっごく魔法っぽいじゃないですか!」
「映像の魔法。映魔なんですよ~~」
「映魔って……なんなんですか……」
「それを今からこの映魔自体が解説してくれます」
立体映像に浮かび上がる文字。『映魔レンタルショップの歴史』。
説明がわかりやすいようにアニメーションが展開されつつ、ナレーションで解説が入る。ビデオ教材とか歴史ドキュメンタリーとか、そういう系のやつかなこれ。
淡々とナレーションが続く中、僕とシュライフさんは椅子に腰掛けて感想をはさみながら、その歴史解説映魔を見る。
【はるか昔、魔王軍との戦いが続いていたこの世界では現代世界からの転生者を集め、転生者が望むチートスキルを神様が与えて、勇者として戦ってもらう時代がありました】
「へー……。異世界転生でチートスキルって、本当にあるんですね」
「転生者の突飛な発想で魔王を倒そうと、神様が躍起になっていたそうですよ。意外なスキルが効果を発揮することもあるので、採用枠は広かったとか」
【そうした転生者のひとりが、こう願いました。「異世界でレンタルビデオ屋を営むチートスキルがほしい」と】
「シュライフさん? 今ナレーション、変なこと言いませんでした?」
「これからが大事なところなんですよタツヤくん」
【転生者の望みのままの、ありえない力を発揮する。それがチートスキルです。こうしてこの世界には現実世界を模したレンタルショップが誕生し、レンタルするべき作品も『映魔』として同時に、この世界に何万タイトルと発生したのです】
「……なんでレンタルビデオのチートスキルを欲しがったのかも謎だし、その願いのせいでこの世界に映魔っていうのが突然生まれたんですか……? 何万タイトルも??」
「タツヤくんの世界における映画文化と似たようなものが、この世界に映魔として、一気に拡散されたわけですね。始祖のチート様々です」
「始祖……? レンタルビデオチートを願ったっていう、昔の勇者のことですか?」
「ええ。始祖・大塊壊しと呼ばれています」
【始祖のチートは驚くべき効果をこの世界にもたらしました。映魔は瞬く間に一帯に広まり、再生装置が普及、魔王に怯えていた人々は娯楽で笑顔になり、魔王の力も縮小していきました】
「……? なんで魔王の力が弱まったんですか?」
「人の負の感情が魔王の力の源なんですよ。映魔のおかげで民は心に余裕を取り戻し、悪に抗う力を得ました! 映魔に影響を受けて一致団結、拳を上げてUSA! USA! って」
「USAが何を指してるのかこの世界の人達わかってるのかな」
【始祖の力が色濃く残るこの地域においては、映魔は娯楽の一大ジャンルとして定着し、レンタルショップに足繁く人が通います。高価な映魔をリーズナブルに貸し借りできるのは、チートスキルの恩恵を受けたこの映魔レンタルショップだけなのです。この店を末永く存続させていくことが、始祖の後を継いだ我々の義務でもあります】
「特別なお店なんですね、映魔レンタルショップって」
「この世界に一件しかありませんからね! なお、わたしシュライフは、当店の副店長をつとめさせていただいております」
【そして始祖はこの店を去る際に、予言の一片を残していきました。『次は
「は? ……え? 今ナレーションで僕の名前呼ばれませんでした?」
「ええ、そうです」
「予言に……名前が書かれてたって……? え? 僕ですよ?? その辺の普通の元アルバイトですよ?」
「だからね、タツヤくん。最初に聞かれた質問に今ようやくお答えいたしますとね」
ちびちび飲んでいた杯をシュライフさんはあおり、中身を空にしてから、一息に言った。
「映魔レンタルショップを作った始祖が、この地を去る際に予言で君を指名しておりました。わたしたちはあなたの名前を、始祖の言葉で既に知っていたんですよ。その予言に従って、
「あ……あ……?」
予想外の急展開に僕は驚く。異世界転生からの映魔レンタルショップで充分に急展開だったけれど。かつての勇者に指名されての召喚となると、焦る。
迷いながらも僕は、「あ……」の続きを口にした。
「あ……アルバイトで良ければ……。はい……」
シュライフさんはニコリと笑って、口元に皺を浮かべる。僕らが話していた小部屋のドアを開けて、こう言った。
「ではようこそ、映魔レンタルショップ地下迷宮一号店へ」
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