救世主≪メシア≫~異世界を救った元勇者が魔物のあふれる現実世界を無双する~

平成オワリ

プロローグ

【いつかあるかもしれない未来】


 ビルの上から街を見下ろす少年がいた。


「……」


 瓦礫に足を挟まれて逃げられず、叫ぶ男性。家族を探し泣き叫ぶ子ども。そんな子どもを探す母親。

 少年の眼下にはまるで映画のようにモンスターたちが暴れ、人々が恐怖に怯えて逃げ惑う姿が広がっている。


 まるで阿鼻叫喚の地獄絵図。

 その中で戦う人々もいるが、その恰好も不思議なものだ。


 もしVRMMOを現代でやればこんな感じになるだろう、と言わんばかりのファンタジー装束。

 普通ならコスプレか、と思うところであるが、彼らは剣や槍で魔物に立ち向かい、遠くからは弓や『魔術』を放っていた。


 人ではあり得ない動きで魔物たちを狩っていく彼らだが、敵の数が多すぎる。

 溢れる魔物たちを前に戦士たちはどんどん前線を押し込まれ、中には攻撃を受ける者も増え始めた。


「お、おいあれ……」


 戦士の一人が恐れるような声を上げながら空を見上げる。


 そこには巨大な翼を広げたドラゴンが人々を見下していた。

 戦士たちは絶望の象徴に恐れを抱き、勝機がないと逃げ出し始めた。


「逃げろ、逃げろー!」

「これ以上は俺たちじゃもう無理だ! S級ハンターの応援要請を! これはもう『災厄』だ」

「お、おい! アンタたちハンターだろ⁉ 逃げたら俺たちはどうなるんだ⁉」

「助けて! まだ子どもがあそこに!」

「もう俺たちじゃ無理なんだ! もうすぐ強いハンターが来てくれるから!」

「ふざけんな! 何のために税金を払ってると思ってる!」

「そうよそうよ! ハンターなんだから魔物を倒すのが仕事でしょ⁉」

「俺たちだってなんとか出来るならしてるさ! だがこんな数のゲートブレイク、俺たちだけじゃ無理なんだよ! それにド、ドラゴンなんて……ひぃ!」


 極限状態による恐慌状態。

 最初は冷静だった戦士たちも、己の死が身近になったことで徐々に現場は混乱し始めていた。


 逃げ惑う人々を見ながら、少年は諦めた様に溜息を吐く。


「行くか……」


 少年はボロボロになったマントを羽織り、フードを被って顔が見えないようにする。

 腰に差した剣を抜くと白銀の光が煌めき、一気にビルの屋上から飛び出した。


 その行く先は、上空から地上を見下し、そして炎のブレスを放とうとしているドラゴン。


『グォォォォォ⁉』

 

 ドラゴンは空の王である自分に向かってくる存在に一瞬驚くが、それが小さく弱い人だと気付いて、馬鹿にしたように笑う。

 そしてブレスの目標を少年に変え、一気に炎を吐き出した。


「……」


 ドラゴンのブレスは人間など骨も残さず灰と化す。

 それが常識、だったはず。


 一筋の閃光が、空を翔る。


 少年が剣を振った瞬間、まるで最初からなにもなかったかのように炎は霧散し、妖精が舞っているかのような幻想的な風景がそこに残った。


 そして少年は止まらない。

 弱い存在だと思っていたそれが、自分に向かってくるなどあり得ないと、ドラゴンは信じられない思いで目を見開く。


「あまり目立ちたくないんだ……だから、さっさと死んでくれ」

『――ギャッ⁉』


 少年がドラゴンの横を通り過ぎた。

 瞬間――強靭なはずのその身体は真っ二つになり、そのまま地面へと落下していく。


 幸いドラゴンの襲来で落下地点には人々はおらず、魔物たちを巻き込むだけだった。

 そうして災厄とまで呼ばれた状況は、たった一人の少年の手で半壊する。

 少年が隣のビルに飛び移り見下ろすと、呆れた光景がそこにはあった。


「……人を救うのがハンターの役目なのに、なにやってるんだ?」


 まだ民間人は残っているが、ハンターは逃げてしまった後らしい。

 そのせいで残った魔物たちが人々を襲おうとしていた。


「……はぁ。仕方ないか」


 少年はビルから飛び降りる。

 そして地面に落ちた瞬間、誰の目にも映らないほどの速度で魔物たちを一掃し始めた。


 いったいなにが起きているのか分からず戸惑う魔物たち、そして襲われていた人々。


 とにかく逃げなければという本能が働いたのか、最終的にこの場には魔物と少年だけが残された。

 そしてそれも、わずかな時間だけ。


 ただ一人残った得物を殺そうと襲い掛かる魔物たちは、そのたった一人によって駆逐されていく。


「これで終わりだ」


 最後に残った巨人の魔物を切り裂き、少年は振り向いた。

 そこには数百の魔物の死体で出来た山があり、もう動く生き物はどこにもいない。


「あ……」


 不意に、風が吹き少年の顔が露わになる。

 それを成したのがまだ高校生程度の、子どものような顔。

 

「まあもう誰もいないし、いいか……ん?」

「あ、あの……」


 そこには瓦礫で足が挟まり、逃げ遅れた一人の少女。

 慌ててフードを被り直した少年は、そのまま少女に近づくとその瓦礫をどかす。


 そしてそっと手をかざし、淡い光が溢れたと思うと、少女の怪我はまるで最初からなんともなかったかのように治っていた。


「……あ、貴方は?」

「……通りすがりのハンターだ」


 顔は見せず、ただそう言って人さし指を口に当てて黙っていて欲しいことをアピールする。


 そうして少年は戸惑う少女と魔物の死山を背に歩き出した。


「救世主様?」

「……」


 その言葉に一瞬足を止めて、振り返る。


「この世に救世主なんて必要ない」


 それだけ言うと、再び歩き出す。

 

 かつて救世主メシアと呼ばれ、未来でも同じように呼ばれる少年は、今はただ静かな日常を過ごしたいと、そう思っていた。



―――――――――――――――――――――――

【あとがき】

こちらは『漫画版』を原作者である私が集英社様の許可を得て『ノベライズ』している作品です。

そのため漫画の更新に合わせて投稿しますので、隔週『火曜日』更新となります。


【となりのヤングジャンプ】または【異世界ヤンジャン様】にて更新されますので、良ければそちらも是非読んでみてください。

詳しくは下記近況ノートで!

https://kakuyomu.jp/users/heisei007/news/16817330647516105256


※注意

こちらのお話では、ノベル限定の内容も含んでおりますが、漫画原作になにか影響を与えることはございません。

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