第69話「始まりの予兆」

【同日 16時40分 渚輪ニュータウン 垓三陸橋上】



礼音 「ん……あれは、なんだ?」

 

ちょうど垓三陸橋を半分まで渡りきった時だ。

僕ら『ソレ』に遭遇した。


栗子 「……な、んだよ……あれ?」


全長3mを超える──女性を模した巨大なゾンビ。

橋の出口に居座り、和気藹々と談笑していた僕らの進行方向を塞いでいた。


ソレ 『とぅるぅるるるるるる』


巨大なゾンビは、奇妙な鳴き声を上げた

ぞわり、と。 得体のしれない悪寒が背筋を撫でる


   「……変異種、だと」

礼音 「変異……種とは……?」

百喰 「貴方……『アレ』がなんだか……分かるのですか?」

  「ああ……分かる……」


なぜ……僕は分かるんだ?

なぜゾンビに関する知識が……あるんだ?


   「『変異種』……ウイルスが感染者の体内で突然変異し、感染者のDNAを破壊、いや破損させてしまった個体だ……設計図をなくし、肉体が際限ない構築を初めてしまっている」


百喰 「貴方は……また情報を隠して」

礼音 「やめよう百喰くん、今は……アレを何とかするのが先決だろう……でないと」


私たちはデパートには帰れない、 そう礼音さんが言い切ったのが先か──


ひさぎ 「これくらい、私が殺る」


──来栖崎が一歩前へ出た


アド 「ちょ?! ダメだってヒサ……ギ……ン?」


そして、僕らは驚愕した。


ひさぎ 「よっ、と」

来栖崎の足元、コンクリートでできた地面が木っ端微塵に吹き飛んだ──違う、ただ彼女が踏みこんだだけだ。

30m近くあった『変異種』との距離は一瞬にして縮まり、

少女は赤き刀を振りかぶる。


   「嘘……だろ」


人間を──人類を遥かに超越した動きの少女は、3mを超える巨大な化け物と互角以上に渡り合う。


アド 「ちょ……ちょみんな! 兎に角疑問は全部あとあと!」

アド 「仲間が戦ってるんだから! あたしらもヒサギンを援護するよ!」



■■─────────バトル────────■■



変異種 『とぅるるるるぅ……ぅ……。……』

奇妙な断末魔を挙げ、遂に変異種はその巨躯を橋に沈めた。


ひさぎ 「はぁ……はぁ……あは……超……余裕じゃない。余裕ね、ホント」


MVPである来栖崎は、狂気的な笑みを浮かべながら刀の露を払う。


ひさぎ 「ふふ、なによ私ばっか戦って。皆だめだめね。片栗粉も役に立たなかったし。鍛錬サボり過ぎなんじゃない……の。……、…………」


しかし、MVPを褒め称える者はいない。

ただ無言に、奇異の瞳を向けるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る