職員採用
それからほどなくして、セルクトさんが戻ってきた。
その後ろには、キリっとした印象の女性がいた。
切れ長の目に、眼鏡をかけていて、なんかカッコいい印象を受ける女性だ。
ちなみに、髪はポニーテール。
体系的には、瑠璃が近いか?
女性はかなりピシッとした佇まいで、バリバリのキャリアウーマンに見える。
「こっちが、俺の秘書の、アルテ・カードルだ。アルテ、こっちが職員希望のアリシア・ローナイトだ」
「初めまして、アルテ・カードルと申します。ローナイトさん、とお呼びしても?」
「はい、構いません。では、こちらはカードルさんと呼ばせていただきますね」
「了解です。ギルド長から先に話は聞いてます。制服の採寸ですね?」
「そうです。何やら、服があるかわからない、とのことでしたので……」
自分の体に視線を落としながら、そう告げる。
カードルさんは俺の体をある程度見た後、なるほどと頷く。
「……たしかに、これは一度採寸してみないことには何とも言えないですね。では、早速採寸をしましょう」
「よろしくお願いします」
「……っ」
俺が軽く微笑みながら頭を下げると、何やら顔が赤いような……?
「カードルさん?」
「あ、い、いえ、なんでもありません。少し、ぼーっとしただけです」
「そう、ですか?」
なんちゃってクールビューティーじゃない(外見的にそう見える)であろう、カードルさんがさすがに俺の恩恵でやられてるわけないよな!
……そうだよな?
さて、採寸だが……この部分はカットで。
実際、本当に純粋に採寸をしただけだからな。
ただ……なんか、カードルさんの様子が少し変だったような……?
瑠璃に近い何かを感じたが、まあ、うん。気のせいだろ。
そんなことがあったが、採寸は普通に終了。
幸いと言うべきか、少し前にギルドで働いていた女性の予備服がピッタリだとわかった。
一瞬、一度でも着ていたのでは? と心配になったが、どうやらうっかりやな性格だったらしく、予備服の存在を忘れていたみたいで、一度も着ることがなかったそうだ。
じゃあ、他の職員が着た可能性も、と思ったが、
『そもそも、ローナイトくらいのスタイルは案外見つからない』
とのことだった。
つまり……異世界においても、俺のこのスタイルはマジで抜群という事らしい。
……なんか嫌だな、元男的に。
「……なるほど」
受け取った制服を身に着け、姿見の前で変なところがないかチェックを済ませる。
デザイン的には……そうだな、レディーススーツっぽいな。
ワイシャツにベストに、たしかAラインスカート、だったか?
そんな感じのスカートだな。
……転生した時点でスカートは穿いていたが……やっぱり慣れないな、これは。
妙にスースーするし。
しかし、見た感じはあれだな。
普通に銀行とかで働いてそう。
「ローナイトさん、着替えは終わりましたか?」
「はい。なんとか」
「では、早速業務と参りましょう」
「わかりました」
さてさて、ギルド職員の仕事はどんな感じなんかね?
俺がセルクトさんや、カードルさんと話している間に、どうやらギルドのピークは過ぎていたらしく、ギルド内にはほとんど人がいなくなっていた。
冒険者もいるにはいるが、見たところセルクトさんが言ったような警備役の冒険者だろう。
さっきまでかなり並んでいたカウンター前は人がいない。
カウンター内では、職員が事務作業をしたり、少しのんびりしたりしていた。
ん? あれは、鑑定の仕事か?
なるほど。
前日にこなした依頼のアイテムを、次の日の朝に持ってきて鑑定してもらい、その間に別の依頼をする、ってわけか。
たしかに、その方が効率良さそうだもんな。
「みんな、聞いてちょうだい!」
ぱんぱん、とカードルさんが柏手をして注目を集めると、ギルド内にいる職員たちにそう言う。
すると、作業していた人たちも一旦手を止めて、こちらに注目した。
やっぱ、注目されるのは少し苦手だな……。
「今日からこのギルドで新しく働く人を紹介します。自己紹介、いい?」
「はい。……みなさま、初めまして。本日から、このギルドで働かせていただくことになりました、アリシア・ローナイトと申します。よろしくお願い致します」
恩恵と加護の効果かはわからないが、こういう時自然に綺麗なお辞儀ができるってのはありがたいかもしれん。
……まあ、女らしいお辞儀の仕方、なんだがな。
「聞いての通りです。彼女は三ヶ月ほど、ここで働くことになります。それから、彼女は色々と未経験なので、質問をしてきたら丁寧に教えるようにしてください」
『『『はい!』』』
おぉ、普通にいい返事だ。
「す、すみません、質問良いでしょうか?」
お。俺がさっき話した受付の人だ。
ふむふむ……こうして改めてみると、結構可愛い人だな。
愛嬌がある、っていうのかね?
肩辺りまで伸ばしたブラウンの髪に、ダークブラウンの大きな瞳。
可愛い系の人、ってところか?
背は……今の俺より高いな。大体百六十手前ってところか。
「はい、リリナさん」
「え、えっと、さっき確認したんですけど、その……ほ、本当に貴族や王族の方ではない、んですよね……?」
「はい。今世で……こほん。過去に貴族だったことはありません。ですので、変にかしこまられても困惑しますので、できる限りフランクに接してもらえるととても嬉しいです」
前世の俺がそうだったしな。
やっぱ、持つべきものはフランクに接してくれる友人よ。
変にかしこまる奴は正直気疲れが半端じゃない。
しかもあれ、敬語で話す方が疲れるんじゃなくて、話される方が疲れるんだよなぁ。
今回はバイトと言う形ではなく、正社員、もしくは契約社員的な立場として働くのは初めてだから、結構疲れそうだ。
「じゃ、じゃあ、処罰されたりとか……」
「ありませんよ。だから安心してください」
にこっと微笑みながらそう言うと、職員さんたちはほっと安堵していた。
どうやら、リリナさん以外にも同じことを考えていた人が多かったみたいだ。
まあ、今の俺のビジュアルだと、貴族か何かだと思われても不思議じゃないもんなぁ……。
俺だって、こんなビジュアルの人と知り合ったら、間違いなく、そっちの方面だと思うだろうし。
「他、質問ある人はいますか?」
「あ、じゃあ俺」
「ディルガさん」
「あー、アリシアさん、ちゃん?」
「どちらでも構いませんよ。私のことはどうぞお好きにお呼びください」
「お、じゃあアリシアちゃんで。で、アリシアちゃんは見た感じ若そうだが、いくつなんだ?」
おっと、歳の質問が来た。
俺は元男だし、あんまり気にしないが、初対面の女性に普通年齢を訊くか?
……いや、訊くんだろう、多分。
案外こっちの世界では普通のことなのかもしれない。
「ディルガさん、女性に年齢を尋ねるのはマナー違反ですよ」
あ、そんなことなかったわ。
やっぱマナー違反になるんだ。
「っと、すまん。つい気になったもんでよ」
「いえ、お気になさらず。減るものじゃありませんから。私は十七歳ですよ」
『なんだ、もう成人してたのか』
『その割には大人びて見える』
ん? この世界だと、十七歳はとっくに成人年齢なのか?
やっぱ、よくある設定で、十五歳がこの世界の成人年齢なのだろうか?
「他に質問は? ……特になさそうですね。それじゃあ、早速今日からの勤務ですので、皆さんフォローしてあげてください」
『『『はい!』』』
「とりあえず、教育係は……リリナさんが年齢的に近いからちょうどいいかも。リリナさん、頼める?」
「わかりました!」
おー、さっきのおっかなびっくりな態度とはガラッと変わって元気いっぱいだ。
「というわけだから、リリナさんに教えてもらって。彼女、ああ見えて結構優秀だから」
「わかりました」
「それじゃあ、私は仕事があるので、これで失礼します。リリナさん、あとはお願いね」
「はーい!」
「ローナイトさん、頑張ってね」
「はい。精一杯、頑張らせていただきます」
俺の返答に満足したような表情を見せると、カードルさんは奥に引っ込んでいった。
カードルさんがいなくなると同時に、他の職員さんは再び仕事に戻った。
よかった……よくある異世界ものの展開だと、こう、質問攻めに遭うのでは? と身構えていただけに、安心だな。
そんなことを考えていると、パタパタと足音を立てながらリリナさんがこちらに来た。
「改めまして、リリナ・ウェルパーだよ! よろしくね、アリシアちゃん」
「はい、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「いいよいいよ。それにしても、随分と丁寧な言葉遣いだね。ご両親に教えてもらったとか?」
「あー……そ、そんなところ、でしょうか」
実際は、どっかのクソ女神のせいなわけだが……ここで加護持ちのことを話せば、間違いなく情報が出回るだろうから、絶対に言わないようにしよう。
あとは、恩恵の方もだな。
「そっか。可愛いし、貴族に嫁がせようとしてたのかな? なんて」
「ふふ、さすがにありませんよ。私の家族は、この世界にいませんので」
ピシッ――!
「「「……」」」
あ、あれ? なんか、場が凍った気が……。
俺、今何か変なことを言った、か?
「え、えーっと……アリシアちゃん、今の発言はその……」
「発言?」
……あ、そういうことか!
俺がこの世界に家族はいない、とか言ったのが原因かこれ!
しまったー……!
そういうのは、どこの世界でも場を凍らせる悪魔の言葉だよ畜生め。
「あ、え、えーっと、この世界にいないとは言いましたけれど、それはかなり昔のことで……あまり父と母の記憶はないのです。ですので、あまりその……変に意識されると困ると言いますか……」
うわー……結構勢い任せで言ってるけど、すんげぇ同情気味な視線が……。
これ、両親の記憶がない、って言ったのもまずかったかー……。
ってかこれ、さっきのご両親に教えてもらった、というくだりの所と矛盾してるだろ。
やっべー、絶対怪しまれるよ、これ。
「あ、あの――」
「つ、辛かったんだねアリシアちゃん!」
「……ふぇ?」
「大丈夫、大丈夫だよ! 辛いときはいつでも私が相談に乗るから!」
と、なぜか俺に抱き着きながら、やや涙声で言ってくるリリナさん。
周りを見れば、他の職員たちも、うんうんと頷いてるし……。
これは、あれか?
俺の恩恵、まーた悪さしたか……?
考えられるのは、カリスマ辺りだが……いや、カリスマ関係ない、な。
うん。多分、ここにいるギルド職員の性格がよかっただけ、そう思うことにしよう。
「あ、ありがとうございます。何かあれば、リリナさんに相談しますね」
「うんっ! もう、何でも聞いて! 仕事のことからプライベート、果ては恋愛事情にも相談乗るから!」
「あ、ありがとうございます」
押しが強いなー、この人……。
これがきっかけだったのか、俺は職員全員から普通に受け入れられた。
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