天災幼馴染によってTSした男子高校生の動画配信者的日常
九十九一
プロローグ1 ――いつもの日常――
ドォォォォォォォォォン!
『おい大変だ! また
『マジかよ!? また天災少女と愉快犯がやらかしたのか!?』
『おい、顧問呼んでこい顧問! あ、違う! ブレーキ呼べ、ブレーキ!』
新学期が始まってから、そう時間が経っていないある日のお昼時。
僕が通う学園――纏神学園の四階の一角にて、ものすごい音を立てて爆発する教室がありました。
同時に、その騒ぎを聞いていた周囲の生徒たちも、その状況に驚く……というより、騒ぎつつも冷静に周囲に指示だし? をしていました。
ちなみに、ここで言う天災少女と愉快犯は僕の知り合いです……。
そして、ブレーキというのが、
『おい、
僕、
……学園にある教室を爆破させるような人がいる場所へ、止めに行ってくれと言うのはこの学園の先生。
教師じゃなくて、生徒に任せるのって……先生としてどうなんでしょうか、先生。
「はぁ……わかりました。ちょっと行ってきます」
『あぁ、頼んだぞ! もし、爆発に巻き込まれて事故っても、財部の家がどうにかするって言ってたからな! 安心してくれ!』
「いや安心できませんよ!?」
やっぱり先生が言うことじゃないですよね、それ!?
むしろ、爆発が発生するような危険地帯へと送り出すのもどうかと思うのですが。
……とはいえ、もとよりそのつもりで来たわけだから、もちろん行くけど。
僕は意を決して、問題の教室へ。
「陽菜ー、京也ー。今度は何をしていたの――」
呆れ混じりの声で、件の二人を呼びながら入ると、教室内は煙で充満していました。
問題の二人は、揃って教室の中心でうつぶせになって倒れていました。
……制服が破けていたけど。ほとんど、半裸だけど!
「って、何があったらこうなるの!? ちょっと二人とも、大丈夫!?」
ボロボロの二人に慌てて駆け寄る。
「し、失敗したわ……ま、まさか、あそこで爆発するなんて……」
「……だから言ったんだ。あそこで、ニトログリセリンを使うのはダメだと……」
「ちょっ、なんかとんでもない薬品の名前が出てこなかった!? ニトログリセリン? ニトログリセリンって言ったよね!? なんでそんな危険物があるの!?」
「そ、そりゃ要お前、ここは特殊科学研究室だぞ……? むしろ、ニトログリセリンはダース単位で常備してるぜ……」
「普通はないからね!?」
うつ伏せで倒れたまま、男女の内男子生徒の方が、よろよろと片手を上げてサムズアップをしてきた。
どこの世界に、ニトログリセリンをダース単位で常備している学校があるんだろう。
ここにあるけど!
「まったくもう……それで、二人は何を作ってたの?」
呆れつつも、ことの発端を二人に尋ねる。
「ちょ、ちょいとばかし、面白そうな物を、な……。今後の計画に必要で……」
「計画? ……もしかして、二人ともま~た何か企んでるの?」
「あ、あははは、あたしたちが要に内緒で、何かを企てるとでも……?」
「うん、すると思う。実際、今までに何度か謀られたことあるもん」
「「……てへ?」」
「誤魔化せないよ?」
あと、未だにうつ伏せなのに、可愛らしくされても……。
「あと、二人ともいつまで倒れてるの? そろそろ起きないと」
「……お恥ずかしながら、爆発の影響で体が痺れて痙攣して麻痺して床に吸い寄せられて動けないのよ……」
「同じく」
「……僕、もう帰っていい?」
あと、痺れと麻痺はほとんど同じじゃない?
「待って! あたしたち幼馴染でしょ? だから、助けてほしいんだけど!」
「俺も助けてくれ!」
「いやでも、これ自業自得だよね?」
「そうだけど! でも、次の発明は画期的なの! 下手したら第三次世界大戦起こせるくらいに!」
「とんでもないのを作ろうとしてない!?」
第三次世界大戦なんて起こったら、それこそ世界一の犯罪者と言うか、戦犯になっちゃうよね!?
……僕の幼馴染、怖い。
「と、とりあえず、助けてくんない……?」
倒れている女の子の方がそう言ってくる。
……まあ、いつものことだし。
「はいはい。それで、何をすればいいの?」
「とりあえず、黒板向かって右側の棚の、上から三番目の棚にある、左から二番目の薬品を持って来てくれ」
「や、ややこしいね」
苦笑いしつつも、京也に指示された場所の薬品を取りに行く。
…………とりあえず、髑髏マークがある薬品があったことは、見なかったことにしよう。
なんだか怖いし。
「はい、持ってきたよ。これ、どうすればいいの?」
「とりあえず、あたしたちに振りかけて。あ、できれば頭がいいわ」
「頭ね。じゃあかけるよー」
僕は手に持った薬品入りの瓶を開けて、二人の頭に振りかける。
すると、二人はようやく体がいうことを利くようになったのか、体についた埃とか煤を払いながら立つ。
……まあ、ちょっと問題はあるけど。
「ふぅー……あー、今回はマジでヤバかったわ」
「だな。ってか、マジでニトログリセリン必要なのかよ?」
「当然じゃない! あれがないと、作れないのよ!」
「……ま、陽菜がそう言うんなら仕方ないか。俺は門外漢だしなー。っと、ありがとな、要。助かったぜ」
「あたしからも。まあ、あんなに派手な爆発だったんだもの。要なら来てくれると思ってたわ!」
「あー、うん。お礼を言うのは良いんだけど……二人とも、結構制服がボロボロだよ……?」
京也はともかく、陽菜はちょっとまずいかも……。
だから僕は、言い難そうにしつつも、視線を逸らしながら指と言葉で指摘。
「……おっと、こりゃいかん。おい陽菜。お前もささっと着替えた方がいいぜ。ってか、胸が見えかけてんぞ」
京也の指摘通り、陽菜の今の状態と言えば、胸の辺りが破けていて、その……見えちゃいけない場所が見えそうになってます……。
「うっわ、ほんとだ。……まぁ、白衣着てるし、ギリギリセーフねっ!」
……陽菜は、羞恥心が薄い。
これは、昔からの僕の悩みです。
「でもまぁ、要が顔を赤くしてることだし、あたしもささっと着替えてくるわ」
いたずらっぽく笑って、陽菜は奥の部屋へ入って行った。
「あいつの羞恥心結構低いからなー。要も過去は苦労したんだろ?」
「……過去は、じゃなくて、今も、だけどね」
「そりゃそうだ」
はっはっは! と、わざとらしく笑う京也に、僕は何とも言えない気持ちを抱いた。
だって、苦労している原因の内片方は、京也だし……。
あと、
「京也、京也も上半身裸なんだから着替えてよ?」
さっきの爆発の影響で、京也の上半身は裸だから。
「もちろんだぜ。この後は授業もあるしなー」
「授業があるのに発明するって……」
「いやほら、そこは陽菜だし? それに、これはあいつにとっても貴重な収入源だぞ?」
「……まあ、そうだけど」
危ない薬品や謎の機械が多く置かれている部屋で、上裸の男子とごく普通の男子が並んでそんなことを話す。
危ない光景にしか見えない……。
それから数分程で陽菜は出て来て、京也もささっと着替えて出て来た。
「あー、今回ばかりは危なかったわー」
「ほんとだよ……。できれば、危ないことはしないでほしいんだけど……」
「それは無理」
即答された。
「発明とは! 常に危険が隣り合わせじゃなれば、素晴らしい物は生み出されない! つまり、自分が死ぬかもしれないようなことをしてこそ、研究と言えるのっ!」
「それについては、俺も賛成だな。やっぱ、人間バカなことをした奴が、後世に名を遺すしな」
「それで死んじゃったら元も子もないでしょ……」
「「あっはっは!」」
「笑い事じゃないよ」
まったく反省の色を見せない二人に、僕は呆れる。
あ、僕とやりとりをする二人を紹介しないとですね。
えーっと、まず女の子の方。
名前は、
お母さんが日本人で、お父さんがイギリス人のハーフ。
腰元まで伸ばした綺麗な金髪に、パッチリとした碧色の瞳。
顔立ちはちょっとだけ幼くて、背は150センチ後半くらいかな?
背は低いけど、本人曰く『着痩せするタイプなの!』だそう。
あと、いつも白衣を着ています。
これが容姿的な話で、ここからは性格とかですね。
まず、性格は……破天荒。これで大体表現できます。
昔から陽菜は変なところで頭が良くて、よくわからない発明をしては周囲を驚かせていたり阿鼻叫喚に叩き落したりしていました。
幼稚園の頃からやっていたことで、最初はただ単純に強い発光(どういう理屈かはわからないけど、目には優しい)をするだけの箱を作っていたんだけど、歳を重ねるごとにそれが徐々に狂暴化。
最近では、痴漢撃退用道具として、相手を一時間地獄の腹痛に追い込むと言う道具を作成したり、強制的に小指をタンスの角にぶつけさせる謎の機械を作ったりと、本当に酷い方面に行くようになってしまった。
……と言っても、これでもまだ可愛い部類(本人曰く)らしいけど。
表に出したらかなりアウトな道具も多く作成しているけど、陽菜本人にはそれを悪用するつもりはなく、それらで楽しく過ごしたいと常々言っています。
……それの実験台にさせられている僕からすれば、しんどいだけなんだけど。
さて、ここまで話すと、どこから資金源が出てきているのか、ということになると思います。
率直に言ってしまうと、陽菜の隣にいる男子が原因です。
こっちは、
容姿としては、やや青みがかった少し癖のある黒髪に、少し吊り上がった吊り目。
実際、顔立ちは整っていて、周囲からもイケメンと評されるほどにはカッコいいです。
背も高いし、運動神経も抜群。
勉強は……ちょっとサボっていたりする節もあるけど、やればかなりできる人なので、ある種の天才タイプ、かな?
実家はかなり大きな会社らしく、京也のお爺さんが設立して、お父さんが大きくした会社だそう。
国内どころか、世界でも有数の企業らしく、相当なお金持ち。
その会社の中に、研究所関連の部署があるらしくて、そこに陽菜の技術を売ることで、陽菜は京也の家の援助を受けて、色んな発明ができている、というわけです。
……もっとも、京也はそれらをお金儲けとかに考えているんじゃなくて、それらをどうやって面白おかしく過ごすか、という部分を考えているみたいだけど。
つまり、この二人は、『混ぜるな危険』を体現したかのような二人というわけです。
そんな二人と仲がいい僕って一体……。
あ、一応改めて自己紹介を。
先ほども話した通り、僕の名前は杠葉要と言います。
家は本当にどこにでもある一般家庭で、容姿も普通……だと思います。
ちょっと長めの黒髪に黒目で、顔はよく女顔とは言われます。
背も男にしては少し低めで、160センチ後半|(ギリギリ)くらいです。
あ、でも、普通に男と判別されますからね?
いきなり女の子と間違われることはないですからね?
……まあ、以前女装させられた時は、女の子だと思われたけど。
昔から華奢、って言われていたからね、僕。
うーん、筋肉が欲しい。
「それで、さっきも聞いたけど、今作っている物については教えてくれないの?」
「んー、今は無理ね。完成したら教えるわ!」
「今度のはすんごいぞー? さっきも言ったが、第三次世界大戦が起こせるかもしれないレベルの発明品と言ってもいい」
「……そんな発明品に、どうしてニトログリセリンなんかを使うのか、すごく気になるところだけど」
「ほら、あれ一応医療薬にも使われてるじゃん? だから、あたしもそれを用いていろいろできないかと思ったわけよ」
「それはそれで何かが違うような……」
たしかに、医療薬にも使われている、って言うのは聞いたことがあるけど、だとしても使い道が謎すぎるんですが……。
「んで、陽菜よ。いつ頃完成予定だ?」
「ん~……今日の実験で欲しかったおおよそのデータは取れたし、あとは微調整とか基盤の組み方と、薬品を混ぜたりすることくらいかしらね。そうすると……まあ三日くらい?」
「ってことは、今週の日曜か。……おし! んじゃ、その日に決行すっか!」
「内容が内容だから、マウスで実験する必要があるけど……ま、いいわよね! あたしってば天才だし!」
「陽菜の場合、天才というより、天災な気が……」
「あ? 何か言った? 要」
「い、いえ、なんでもないです!」
「わかればいいのよ。……それじゃ、あたしは一刻も早く、この発明品を完成させたいし、次の授業はサボるわ」
何一つ悪びれる様子もなく、堂々とサボり宣言をした。
いつものパターン。
「だーめ。ただでさえサボる回数が多いんだから、ちゃんと出ること」
「えぇ~。めんどくさーい」
授業に出るように言うと、陽菜は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「めんどくさいじゃないの。まったくもう、ただでさえ二人はサボり気味で、日数もギリギリなんだよ? 少しは真面目に……」
「あぁあぁ、聞きたくない! 聞きたくなーい! 要のお説教は聞きたくなーい!」
「子供ですか……」
まるで子供の様に、両手に耳を当てて聞こえないふりをする陽菜。
う、うーん、子供。
「子供心を忘れたら、マッドサイエンティストとしてダメじゃない」
「子供心を持ったマッドサイエンティストほど、厄介な人もいないと思うんだけど」
「まぁ、陽菜はその典型だしなー。ま、おかげでうちの会社は大助かりだがな」
「陽菜の危険な発明品を利用しようとするのも、京也の家くらいだよね、ほんとに」
「うちはほら、グループ企業なんで。そう言う部署もあるのさ」
グループ企業だからと言って、危険物を研究して、それらを何らかの日常面で使用できないかを考えることをするわけじゃないと思うんだけど。
「ともかく、早く行くよ」
「えぇぇ~?」
「えぇぇ、じゃありません。行かないと、今日の夜ご飯は陽菜の嫌いなピーマン多めの青椒肉絲にするからね」
「うぐっ……! そ、それはキツイ……! というか、それは嫌がらせじゃないの!」
「違います。真面目にしない陽菜が悪いんです」
「こりゃ、要の方が正論だな、陽菜?」
ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる京也。
「ちなみに、京也の方も執事のお爺さんに言うからね?」
「ちょっ、それはマジでやめて!?」
「それが嫌なら、二人とも出席すること。……そもそも、去年だってあんなにサボったのに、進級できたのは誰のおかげだと思ってるの?」
「「……要さんですハイ」」
「でしょ? ……と言っても、僕がしたのはあくまで先生に頼んだだけで、一番頑張ってくれたのは先生の方だけど」
「要はかなり信用されてるからなぁ……。実際、この学園内じゃ慈母神とか言われてるらしいぜ?」
「いや僕男」
慈母はおかしいと思うんだけど、それは。
……ちなみに、今言った話は事実です。
去年、京也がこの部屋を作ってからと言う物、陽菜はずっと発明に没頭するようになっちゃって、進級が危ぶまれるような事態になったことがあります。
その際は、僕が先生に直接頼み込んで、なんとか足りない部分を課題とテストでどうにかしてもらったんです。
もちろん、僕はあくまで頼み込んだだけで、学園長に掛け合ってくれたのは先生なので、ほとんどは先生のおかげだけどね。
でも、無駄ではなかったと思いたいです。
キーンコーンカーンコーン……
「あ、予鈴。二人とも、教室に戻るよ」
「「……はーい」」
嫌そうにする二人を連れて、僕は自分の教室へと戻りました。
この日は先生に感謝された以外には特に問題はなく一日が終わり、気が付けば日曜日に。
日曜日は、洗濯物を干したり、家の掃除を軽くしたりして穏やかに過ごしていました。
……陽菜と京也に呼び出されるまでは。
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