別天地ルポルタージュ

和扇

始まりのレポート

陽光がまばゆく世界を照らす。

遥かに空高く、白い雲が緩やかに流れゆく。

草原をふき抜ける風は微かながら花の香りを運ぶ。

ここは別天地イストレージャ―――


世界には魔法が満ち、強大なモンスターが蔓延はびこる。

そんな中でも人々は結束し、各地に国を作り繁栄を謳歌していた。

只人ただびとのみならず、長耳の種族や洞窟に住む種族、

地下に住んでいる種族もいれば、翼をもって空を飛び回る種族もいる。

各種族は、あるいは協力し、あるいは反目はんもくし合いながら生活している。


人の興味は尽きる事が無い。

隣の町の美味しいものは何だろう。

有名な景勝地けいしょうちはどんな風景なのだろうか。

現実的に無理だけど、あの国を旅行してみたい。

あの種族の事をもっと知りたい。

国の王と話をしてみたい。

この世界の果てを見てみたい。

神と会ってみたい。

だが、そんなことは現実的には不可能だ。


人は土地に、歴史に、文化風習に、そして何よりも人に縛られる。

全てを捨てて遠くへ行く事などできない。

ならば、代わりに行って伝えればいい。


私は「ルポライター」だ。

かつて潜った遺跡で魔法の本を見つけた。

それと同時に異世界の職業について知った。

各地で見聞きし、体験した事を文章にまとめ、多くの人に伝える仕事ルポライター。

実に私向きの仕事だと思った。

書いた文字を遠方へ転送できる魔法の本を片手に、世界各地へ旅をする。

旅で見て、聞いて、感じて、得たものを文章と絵に込めて、世界に伝える。

私にしかできない仕事だ。

私の手にある魔法の本は世界に2つと無い、先史時代の人工遺物アーティファクトだ。

私の本が発信側。受信側の本は現代技術でも作れるので世界中に複数存在する。

その受信側で私のルポを受け取り、書物に落とし込んで各地で販売している。

昔の伝手つてもあって、各地で知り合いが多く、ある程度どこにでも、

好きに行くことが出来るのは、この仕事にちょうどいい環境だろう。


女だてらに、とよく言われるが、私も知的好奇心で動く生き物なのだ。

まあ、私の事をよく知る人は、女がどうとか、とは絶対に言わないだろう。

そんなくくりにまとめられるような人間ではない、と自負じふしている。

必要以上に言う輩には実力行使あるのみ、である。


腰ほどまである長い狐色の髪を首の後ろで一纏ひとまとめに縛る。

薄い茶色の長袖シャツとくすんだ緑色の長ズボンを身に着ける。

ちょっと良いお値段がした長旅に向いた皮製ブーツを履く。

両手に皮の手袋を付けて、二度三度手を握って問題ない事を確認する。

護身用の短剣を左腰に差し、野営用の手斧を持ち手を右にして腰背部こしはいぶに装備する。

これだけは忘れられない、肩掛けひもくくられた魔法の本を袈裟懸けさがけにする。

魔法の本は紫色の表紙に金色の飾り枠。

飾り枠から少し内側に四角の文様が描かれて、

各頂点に三角形の赤色の魔石が埋め込まれている。

魔石は表紙に凹凸が出ないように平らに加工してある。

各頂点から対角に二重線が描かれ、交点には菱形ひしがたの白い魔石が埋め込まれている。

こちらは平らに加工はされておらず、四角錐しかくすいの形となっている。

最後に野営道具などを詰めたリュックを背負う。

さあ、出発しよう。


世界には、まだ見た事が無い「何か」が待っている―――

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