第30ワン 勇者と洗脳

一市場


 肉、魚、青果、日用品から武具などなど、あらゆる商品を陳列した露店が並ぶ市場は、いつもと違うり有様であった。人々の活気と賑わいは、悲鳴を上げて逃げ惑う姿へと変わっている。その元凶が市場で刃物を振り回し、暴れる盗賊達。

 怒号とともになぎ倒される露店と商品。物を略奪するでもなく破壊を楽しむかのように暴れるのはおおよそ盗賊らしからぬ振る舞いではないか。


「貴様ら!何をしているか!!」


 槍を構えたシソーヌ王国憲兵隊が盗賊達の鎮圧に駆け付けた。憲兵達は治安維持を専らの任務とする都市防衛の専門家である。その鍛え抜かれた心技体は、王国軍の中でも指折りである。しかし、その憲兵達が5人の盗賊相手に苦戦を強いられているのだ。


「あいつら、昨日の奴ら!!」


 市場へと到着したしのぶは、盗賊達の顔を見て思わず叫んだ。


「……確かに昨日、ワシらを襲った奴らじゃな。……そいやが、様子がおかしい」


 ショースケの言うとおり、盗賊達は目つきから動作に至るまで昨日とはまるで異なっていた。

 盗賊というものは金品を盗むから盗賊であり、破壊や暴力は目的に伴う上で最小限に行われるものである。


 ふと、盗賊たちを取り押さえようとした憲兵─それも鎧兜を纏った偉丈夫が、前蹴り一発で吹っ飛ばされたではないか。


「腕力の劣る奪士 (バンディット) が重装の戦士 (ウォーリア) を一撃で……」


ショースケが訝しんだその時だった。


「シノブ様……ショースケ君…あの者達は…何者かに…操られています……」


 息を切らしながら遅れてやってきたナイーダが言う。走ってきたのだろう。


「何だって!?」


「彼らには……何らかの手段で精神を……操作されています……」


「異常な力があるのも、その影響か!」


「(これはいわゆる混乱とかの“状態異常”だな?そして洗脳状態で体に掛かっている制限(リミ ッター)が掛からなくなっていると……ゲームや漫画とかではよくある展開だ)」


 しのぶは状況を分析し、口を開く。


「ああいうのはたぶん、術だか呪いだかを掛けた奴を倒さなきゃ解けないやつだ!何とかして術者本人を叩こう」


 しのぶは、漫画やゲームで見てきた“お約束”の攻略法を提案する。


「なるほど……じゃが、どがぁして術者を探すんじゃ?」


「それも考えてあるよ。その為にはまず、洗脳されてる盗賊を取り押さえる!」


「簡単に言いよるのぉ!さっきの馬鹿力を見とらんのか!?」


 ショースケは憲兵相手に暴れ回る盗賊たちを指さす。


「そこはボクとジロー、そしてショースケさんで協力すれば何とかなる!」


「わんっ!」


 しのぶは聖剣の鞘を盾の如く構えた。


「ショースケさん、ボクに硬化の術を掛けて!」


「お?おう、……堅牢の 鎧は時に 牙となり 守りし者の 力とならん…………硬化インデュレティオ!!」


 しのぶの体を淡い光が包み込む。さながら実態を持たぬ「膜」に全身を包まれた感覚だ


「“スカラ”や“プロテス”って、こんな感じなのかな・・・・・・よし、行くぞジロー!ついて来い!!


一目散に駆け出すしのぶとジロー。


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