第18ワン 勇者と降伏

「シノブ様!ジロー様!私はどうなっても構いませんから、この者を討ってくださ…『誰が喋っていいといいました!』


 タモンの蛇首はナイーダの体を締め上げる。


「ああっ……」


 蛇の鱗が擦れ合う音と、ナイーダの骨が軋む音に混じり、彼女の悲鳴が聞こえる。


「(ナイーダさん、ちょっとえっちだな……なんて考えてる場合じゃない!どうする忍、何か策は……?)」


 しのぶは思った。漫画やゲームでのこういう局面では大抵、「かなり都合のよい奇跡」でも起きない限りピンチを突破出来ない。よって、今のしのぶは万策尽きたも同然であった。


「……解ったよ、言うとおりにするさ。どうすればいい?」


 しのぶは鞘を地面に突き立てる様に持ち、ジローは聖剣を口から放し、置いた。


『聞き分けがいいですね。では聖剣を鞘に収めなさい』


 しのぶとジローは言われた通りに聖剣を鞘へと収納する。


「シノブ様……」

「ナイーダさんはボク達がこの世界に来て初めて、そして一番優しくしてくれたんだ。そんな人を犠牲になんて出来ないよ」


 しのぶは笑って見せたが、その笑顔は策を弄する時の悪戯染みたものではなく、強がるための作り笑いであることがナイーダには解った。


『次に小僧はその剣を背負いなさい』


 タモンの言うがままに、しのぶは鞘に入った聖剣を背負う。


『ではモンスター達よ、小僧の手と犬の口を縛りなさい!……抵抗するんじゃありませんよ?こちらには人質がいるんですからね?』


 タモンはナイーダを拘束する蛇をわざとらしく揺すってみせる。


「……っ!!」


 しのぶは思いつく限りの雑言をタモンに浴びせたいところを堪え、生き残ったゴブリンやトロール達が手首にロープを巻き付けるのに従っていた。


「ヘヘヘ…勇者もこうなってはただのガキと犬だな」

「子供の肉は美味いからなぁ。 今すぐ頭から食らってやりたいぜ」


 モンスターたちの放つ悪臭と醜悪な言葉に耐えるしのぶ。


「この犬ッコロ!コイツのせいで俺達の仲間はっ……!」


 ゴブリンの一匹がジローの脇腹を蹴る。マズルを縛られ声を出せないジローは悶絶するのみ。 しのぶは今までにないほどの怒りがこみ上げてくるのを感じたが、ただ耐えるのだった。


『もうよいでしょう。 小僧の手と犬の口さえ封じれば聖剣は扱えまい』


 タモンがそう言うと、ナイーダの拘束は解かれ地面に投げ出された。そしてタモンの体は徐々に縮んでゆき、先ほど息絶えた影武者と同じく人型をした魔族の姿となり、しのぶ達の元へ歩いてゆく。


「……伝説の勇者と戦い、勝ったのだ。首の1本と命の一つは名誉の負傷という事にしておきましょう……」


 タモンはしのぶを見下ろすように睨む。


「だが」


 タモンの右拳がしのぶの顔面を打ち抜いた。


只人サピエントのガキとカニス如きが!魔族を!この私を嘗めたことは許せん!!」


 続いてジローのマズルを蹴り上げる。 タモンの攻撃に倒れたしのぶとジローは気を失っ てしまった。勇者が魔族に倒された─その事実が絶望となりシソーヌ王国軍に暗雲が広が る。

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