第6ワン 魔王と四天王
─ミオヤクラーン辺境州 魔王殿
北方の最果て、人々から棄てられ忘れ去られた地ミオヤクラーン、かつて先代勇者が邪神を討ち果たしたその地に、 邪悪なる魔族─悪魔の残党は結集し国を築いていた。そして、その長たる悪魔は魔王を名乗り、その下に四天王と呼ばれる4名の強大な魔族達が名を連ねていた。
魔王殿の広間。そこに痩躯の男が一人。
「私が一番乗りですかねぇ?」
男の名は魔獣遣い (エビルハンドラー)のタモン。 モンスター達を束ね使役する事に長けた四天王の一人だ。
「クフフ……残念じゃったな」
煙とともに現れたのは、褐色の肌に長い耳を持つ女。 ダークエルフの彼女は闇冥師(ダークネスメイジ)のガリマーナ。魔王軍きっての魔法の使い手である。
「ガリマーナさん、いたのですか?手の込んだ真似を……」
魔法で姿を隠していたガリマーナに対し、タモンは悪態をつく。
「でもな、タモンよ。妾より先に来ておる者が既におったから、どのみちお主は三番手じゃ」
ガリマーナが指さした方向には全身甲冑姿の男が独り、佇んでいた。
「ライハチさん!」
「いつもながら、見事な気配の断ち方じゃのう」
頭から爪先までを漆黒の甲冑に包んだ暗黒騎士ライハチは生気すら感じさせない幽鬼の様であった。
「という事は……」
「最後はあやつで決まりじゃから、実質お主はビリっけつも同然じゃ」
その時だった。ガリマーナの言う『あやつ』が豪快に扉を開け、 広間に姿を現した。
「グハハハハ!!!豪魔将サパンカムイ、参上!!」
筋骨隆々の巨体をしたオーガ族の戦士、豪魔将サパンカムイは足音を響かせながら他の3人に近づく。
「人間どもの国を攻めていたら、遅くなっちまったぜぇ!!」
彼は片手に掴んでいた王冠をくしゃりと握り潰した。 サパンカムイの軍勢により陥落した城の王が持っていた王家の証である。
『……揃ったか、悪魔四天王よ』
薄いカーテンで仕切られた向こう側で、玉座に鎮座する男─魔王が口を開くや悪魔四天王は片膝を着く。
『皆の衆、人間どもが遂に『勇者』をアラパイムの地に召喚したようだ』
魔王の言葉に四天王達は各々異なる反応を見せる。
「ゆ、 勇者ですって?」
驚くタモン。
「ほお。此度の勇者とやらは、どんな童っぱなのかのぅ?」
興味を示すガリマーナ。
「かつて邪神を封じたとされる存在、勇者!相手にとって不足無しだぜぇ!!」
興奮するサバンカムイ。
「……………」
沈黙を貫くライハチ。
『この魔王城……かつて邪神の神殿であった場所の地下深くに封印されし邪神が呼応した。かつて己を封じし勇者の再来に震えておるのだ……憤怒と憎悪によりな!!』
魔王は続ける。
『聖剣の勇者……必ず奴は邪神復活を阻止する為、 我らの元へ現れるだろう。だが恐るべきは勇者そのものではない。勇者が聖剣ヴァーバノワーナを手にし、力を得た時だ。勇者が聖剣の力に目覚める前に探し出すのだ!!』
魔王の言葉が終わるや、立ち上がったのはサパンカムイ。
「魔王様、俺にやらせてくだせえ!!勇者だろうが聖剣だろうが、俺様の力には敵いますまい!、」
『ならん』
「何ですと!?」
『サパンカムイ、余は其方へは人間どもの国を堕とす事を命じた。これは余の勅命であり、其方にしか出来ぬ事……従って、比度の勇者捜索はタモンに命じる』
カーテン越しとはいえ、魔王に顔を指さされタモンは一瞬硬直する。
「わ、私ですかぁ!??」
『左様。貴様と配下のモンスターどもに任す。勇者と聖剣を探し出すには陸海空あらゆる魔物を使役する貴様が適任である』
タモンの面を見やる残りの四天王、そしてカーテンの向こうにする。
「はっ……ははーっ!この魔獣遣いタモン、謹んで魔王様の御命令を遂行して参ります!!」
タモンは恭しく頭を垂れた後、腰から提げていた角笛を吹く。 すると、入り口から獅子と山羊の頭を持ち尾のあたりから蛇を生やした四足歩行の巨大な獣が現れた。上位モンスター『鬼舞羅(キマイラ)』である。
「とうっ!」
タモンは跳躍し、 キマイラの背に跨がる。
「では皆様、お先に手柄を立てさせていただきますよ?」
そう言い残し、タモンを乗せたキマイラは駆けてゆく。
「クソッ!何であんなザコに魔王様は大役を!!」
憤るサパンカムイ。
「落ち着くがいいカムイよ」
それまで沈黙を保っていたライハチが口を開く。
「魔王様がタモンに命じたのは、あくまで捜索であり、討伐ではない」
「「!!」」
ライハチの言葉にハッと息を漏らすサパンカムイとガリマーナ。
「左様だ。 勇者を討つのは奴を見付けてから……故に探索に長けたタモンに命じただけの事よ。そして、見付かった勇者をタモン如きが討てるものなら勇者などその程度。タモンが返り討ちに遭ったとなれば、その時こそそなたら 『本命』の出番だ…… 『悪魔三傑』よ!!』
魔王の、曲がりなりにも幹部であるタモンを捨て駒扱いする物言いは人間の感覚で言うなれば最悪の上司だが、弱肉強食を信条とする魔族の感覚ではカリスマさえ感じさせる。
「さすがは魔王様!始めから我々を信頼しての采配であったとは!」
魔王の話術に一番心酔しているのはサパンカムイである。
「そうだ。特に其方には期待しておるぞ、サパンカムイ」
「有り難き御言葉!このサパンカムイ、益々以て魔王様の為に己が使命に驀進致します!!」
サパンカムイは上機嫌で退室した。
「(やれやれ、カムイの小僧はすっかり魔王殿の虜じゃな……)」
「イノシシ武者め……タモンの次に切り捨てられるのは貴様だというのに)」
ガリマーナとライハチは、言葉には出さず同僚への呆れた視線をサパンカムイの背に向けた。
「それでは魔王様。 妾達も持ち場に戻ります故」
「失礼致す」
魔法と気配遮断により姿を消すガリマーナとライハチ。
『……あの二人はやはり食えぬ奴らよ。だが、聖剣の勇者を相手取るには必要不可欠な人材だ。……異界より招かれし勇者よ、このアラパイムの地が貴様の墓場となろう!』
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