魔法?魔術?俺たちのおかげだな。

梅本らく

第1話 なんでバカ高い霊峰に登らにゃならんのだ!


「なんでこんなバカ高い霊峰に登らにゃならんのだ!」


 俺は大声で叫ぶとその文言が一言一句こだまして「ならんのだ」「ならんのだ」と集団で嘆いて共感されている気分になる。


「メディシ先輩、あんまり崖に近づくと落っこちちゃいますよ。」


 とトキシカがたしなめてくる。


 一年前に入ったばかりの小娘になぜ俺が説教をされなきゃならん、という気持ちを押し殺し深いため息をつく。


「だってさぁ、この霊峰ポサって12,500mもあるんだろ?富士山のほとんど三倍じゃんか。」


「富士山って何ですか?」


「ああ、昔いたところで一番デカい山の話。普通は飛行竜とかを使ってスイーッと登れば楽じゃないか。」


「飛行竜の着陸ができないところで仕事をするから登山してるんじゃないですか。」


 ああいったらこういう、反抗心の塊め。


 トキシカは新人の癖に魔力が高いエルフの血が入っているということで直ぐに俺のバディになって、なんなら俺より魔法関係に詳しいから癪に障る。


 いや、多分今俺がイライラしているのはこの息が苦しくなるほど長く険しい登山を強いられている状況だからであって、後輩に当たったりするような嫌味な奴じゃ。


 俺は元々アウトドア派の人間ではないから登山なんて軽々しくできないし、それに30代で元気はつらつなタイプでもないから一歩一歩がとても重く辛い。


「メディシ先輩!あそこ、あそこに通信水晶がありますよ!がけ崩れか何かでマーカーの位置がずれちゃったんですね。」


 トキシカが指をさす先には2mほどの高さを持つ細身の水晶があった。


「じゃあ仕事を始めるぞ、トキシカ準備を。」


 そういうと俺は背負っていた重たいリュックから魔導書とエネルギー水晶と聖水を取り出した。この魔導書くらい電子化できればいいんだが。


 通信水晶に聖水を丁寧にかけてエネルギー水晶に手をかざしながら魔導書の通りに呪文を唱える。


「ブラウン・ラクバイ・ブリシト 水の精霊リュムピよ、我の言葉に答えたまえ。」


 唱えると通信水晶とエネルギー水晶が光を放ち始めた。


「その言葉の主は、契約者の代行メディシ・山田・良助だな。」


 そう水晶から声が聞こえると周囲が厳かな雰囲気になり空気がキンと張りつめていくのが分かる。


「先月に見た時よりだいぶ白髪がふえたんじゃないかメディシ、人間の老化は早いな

。」


「なっ!そんなどうでもいいことを!ちょっとまて!トキシカ!俺白髪増えた!?」


 トキシカに無言で頷かれ、落胆した後気を取り直して話を戻す。


「えーと、精霊リュムピ、契約に基づきこのエリアW-23-A12の30km圏内での召喚術に対する呼びかけに応じてもらえますか。」


「もらえるもなにも、自動で力を呼び出せるようになっとるんだから別に私の許可などいらんだろうに。」


「そう言ってもらえるのはありがたいんだけど、上司にいってくれないかな。契約は絶対だし。」


「ならメディシ、お前がここにおいで。新たな契約を結べばいい。」


「俺は泳げないし魔法も使えないから無理だよ!半魚人化したって無理だね。」


「そうか残念。次のポイントはどこだい?その近くだとラテ湖かな。」


「ラテ湖は別の班が行ってるよ。俺はこの仕事が終わったら事務作業をかたずけないといけない。」


「そうか、今度上司に『メディシをもっと現場によこせ』といっておいてやる。」


「それは勘弁してくれ。じゃあ、一言お願いします。」


「わかった。精霊リュムピの名においてこのエリアに魔法反呼の術をまじなう。」


 その声に応じたように通信水晶が薄く発光しはじめ、エネルギー水晶から色が消えた。


「ありがとうリュムピ!また今度!」


「ああ、またよんでくれ。」


 その挨拶を最後に厳かな雰囲気は元に戻ったようだ。


「先輩、いつリュムピに私を紹介してくれるんですか?」


「リュムピは気難しいからな、昔初めて会った時も俺の話は聞いてくれなかったからさ、タイミングを見計らってるんだよ。リュムピに変わる水の精霊から契約をとるのなんてべらぼうに大変らしいからさ。」


 そして俺たちは通信水晶に細かなヒビや欠けがないことを改めて目視点検して、トキシカに簡単な水の魔法をさせた。


「水の精霊リュムピの名のもとに発動する『ウォータースプラッシュ!』」


 すると水柱が三本ドーンと地殻を割って発生した。


「これでこのエリアは大丈夫だけど崖でウォータスプラッシュはまずかったな。」


 崖から落ちながらトキシカは赤面している。


 俺は崖に向かって飛び降りてトキシカを抱きかかえると竜笛を吹いた。


「この高さだったらドラくんは飛んでこれるよな。」


 そう思っているうちに2mくらいのドラゴンがやってきてちょうど背中のクッションに尻尾で叩きつけられた。


「いてて……ありがとうドラくん。労災おりるかな。」


「メディシ先輩、お姫様抱っこをし続けられるとセクハラで訴えていいのかわかりません。」


「あ、ごめん。」


 そういうと報告書に「崖崩れ発生のため、次回の登山は飛行竜もしくは飛行できる人材をつかうこと」と書かないといけないなぁと思いつつ、背中の痛みで俺は意識を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る