第62話
燃えてる。
今が夕方で、夕陽が当たってそんな風に見えてるのかと思ったけど、違う。
だって、外、青空だもん。
いやいやいやいや待って待って待って、なんで燃えてるの。
窓枠燃えるって何があったらそうなるの。
ガラスが
誰かに魔法使われたとか? え、そんなのオーギュストさんのスペックなら気付きそうなもんだけど、書類に集中し過ぎて気付かなかったんだろうか。
ていうかこんなんなってるのに執事さん達どこ行ったの?
外に現れたこんな事した奴の対応でもしてたとか?
とりあえず、こんな事する奴絶対面倒な奴だから、皆無傷で生還するようにそういう魔法掛けたい。
でもどうしたらいいか分かんないから祈っておこう、皆無事であれ!!
頭の中はパニックで、何が何だか分からないけど、でも今はそんな事をつらつらと考えてる場合じゃない事だけは分かった。
急いで席を立って、部屋を出る。
やっぱり窓の向こうは燃えていて、余計に焦った。
慌てて外への扉の内側の鍵を開けてから、そのまま外へ足を踏み出す。
絶対外になんか出ないって思ってたけど、これは仕方ないと思う。
とりあえず消火活動だ。
馬車から降りた足でそのまま振り返って、馬車全体をざっと観察。
...見事に火達磨である。
オーギュストさんスペック高過ぎて熱気なんてひとつも感じないけど、木が燃える独特の香りが漂ってるので絶対燃えてる。
こんだけ燃えてたらドアノブとかめっちゃ熱かった筈なのに、全く熱くなかった。
オーギュストさんのスペックが凄いだけですよね、分かりたくないです。
だけど、オーギュストさんの、この超スーパーな感覚的には、馬車は表面だけ燃えてる気がした。
どうやら、馬車に掛けられていた魔法のお陰でか、最小限で済んでいるようである。
だけど、それも時間の問題だろう。
……この炎、やっぱり魔法のようだから。
放っておけば、この超絶高性能な馬車さえも、いずれ消し炭になるだろう。
という訳で、オーギュストさんの知識から、一番安全な方法で消火活動開始である。
どうやら、魔法の炎という物は、魔法の水などで相殺させるのが常識らしい。
が、オーギュストさんのスペックでそんな事したら馬車が木っ端微塵になるので、別の方法。
……これが魔法って事は、酸素の代わりに燃えてるものがある筈だ。
どういう原理か全く不明だけど、多分、あの魔素って不思議物質を使ってるんだろう。
という事は、燃やす元になってる魔素とやらを霧散させれば、この炎は消える筈。
どうやればそう出来るのか、説明なんて一切出来ないけど、感覚的には出来る気がした。
何度でも言うけど、オーギュストさんのスペック凄いよね。
まぁとりあえず、やるだけやってみよう!
瞬時にそこまで考えて、何か動きっていうか、行動するモーションが必要だろうと判断して片手を上げる。
消す事自体は、前に、お屋敷の運動場っぽい所で出した武器やら魔法やらを消した時みたいな、あんな感じで行ける、筈。
いや、でもちょっと待って、こういう時って基本的にどういう動きしとけば良いの。
えーと、あかん、もうコレしか浮かばない。
マジシャンが良くやるやつ。
なんだっけこれ、指をこう、カスタネットみたいに鳴らすやつ、なんて言うのこれ?
やった事ないけど鳴るかな? 鳴るよね? オーギュストさんの身体だし、出来るよね?
いや、今はそんな事考えてる場合じゃない、やるならとっととやろう。
よし、行くぞ!
グッと、親指に中指をくっつけるように力を込める。
ここからどうしたらいいのかよく分からないんだけど、どうしよう。
とりあえず力を込め続けていたら、ふと、親指が外側へと、力で押し負けるみたいに外れて、思っていたよりも甲高い、パチン! という音が響き渡った。
これ、こんな音するんだね。
ていうか、鳴ったよ、鳴ったね。
鳴るもんなんだね、めっちゃ見様見真似の適当にやったのに。
オーギュストさんマジパネェっす。
そんな事を考えながらも、この音が鳴ったら燃えてる魔素が消える、とイメージしてたお陰でか、目の前で燃え盛っていた炎が一瞬で消えてしまって、なんていうか、うん、何度も思ってしまうけど、オーギュストさんは凄いなあと思いました。
ついでにさ、もっかい鳴らしたら、この黒焦げの馬車が元に戻ったりしないかな、しないよね、したら良いなあ。
だって、こんな状態でオーギュストさんの実家帰るとか無理じゃん。
ていうか、一応家宝だからこれ、勿体なさすぎるんだよ、直ってくれないかなマジで。
なんて、ただの願望を考えながら、もう一度指を鳴らしてみる為に中指に力を込めた。
すると一度でコツを掴んだのか、さっきよりもスムーズに音が鳴ってくれた。
辺りにまた、パチン! という小気味の良い音が響く。
馬車が直った。
………………馬車、直った。
いや、うん、マジで直ったよ、なんでもアリだな、魔法って。
なんか、時間が戻されるみたいな感じで、しゅわーって直ってったよ。
凄いね。
まあ、絵本の魔法使いも、ドレスを綺麗にしたり、カボチャを馬車にしたりしてるんだから、オーギュストさんもそのくらい出来て当たり前なんだろう。
さっきからオーギュストさんの知識から、通常有り得ないとか出てるけど気にしない!!
気にしてたら身が持たない!!
ていうか、そんな事よりも誰だよ! ウチの馬車燃やしたの!
家宝なんだから早々燃えないように出来てるのに、それが燃えるくらいの勢いで魔法ぶっぱなすとか、どんな馬鹿だよ!
こちとら公爵家当主だぞ!! 首と胴がサヨナラしたいヤツはどいつだ!
怖い現実から目を逸らす為、もとい頭を切り替える為にそんな事を考えながら振り返って、視界いっぱいに入ったソレに、私はつい、固まってしまった。
『人間、貴様一体何をした! 私の炎を消すなど、只者では無いな!?』
ぐがるるおおお、みたいな、なんとも言えない鳴き声なのに、なんかそんな事を喋ってる薄青い色の、2tトラックくらいの大きさの恐竜が居た。
プテラノドンと、ティラノサウルスを足して割ったみたいな、変な恐竜。
なんで恐竜がこんな所で喋ってんの。
呆然と眺める私の頭の中のオーギュストさんの知識が、これは恐竜じゃなくてドラゴンだと告げた事で、ようやく現実を理解した。
ドラゴンって、あれだよね、絵本に出て来る怪物だよね?
いやいやいや、だからなんでそんなのがこんな所に居るの。
『さては貴様だな!? 私達の大切な卵を盗んだのは!!』
「一体何の話だ」
『しらばっくれても無駄だ!! 卵を返せ!!』
聞き返したけど、話を聞いてくれませんでした。
いや、だからマジで何の話ですか。
え、何? 卵、盗まれたの?
考えてたら、目の前のドラゴン? の口から炎が噴射された。
ごおお、という凄い音がするんだけど、全く怖くない。
熱くもなければ痒くもないけど、視界が遮られて鬱陶しい。
とりあえず、片手でぺいぺいっと払ったら掻き消えてくれたので、オーギュストさんのスペックは物凄いんだなあと思いました。
何回目だコレ思うの。
遠い目をしてしまいそうになったのは仕方ないと思うんだ。
ていうかさ、初対面の人相手に失礼だよね、このドラゴン。
「こちらの話も聞かずに火を吹くんじゃない、全く、親の顔を見てみたいものだ」
『貴様、私を馬鹿にしているのか!!』
嫌味を発したら中身の無い反論が返ってきました。
でも、ぐがるおおお、とか喚かないで下さい、うるさいから。
ていうか、ついでとばかりに火を吹かないでよ鬱陶しい。
辺りに飛び火したらどうすんの、私が消火活動しなきゃいけなくなるでしょ、全く。
また片手でぺいぺいっと火を払いながら、溜息を吐く。
「現実的に、君は馬鹿だろう」
『何だと!?』
「四六時中、卵から目を離さなければ良いだけでは無いのか? 何故それが出来ない?」
『わた、私達だとて、それが一番な事は分かっている!! だが、産まれるまで一年中など、無理に決まってるだろう!!』
冷静にツッコミを入れたら、なんかぎゃおぎゃお反論されてしまった。
しかし、喚くたびに火が出るのはそういう仕様なんだろうか? 普段どうやって生活してるんだろう、このドラゴン。
でも、孵化まで一年か、それはちょっと長い、のかな?
でも人間も十月十日だからなあ、似たようなもんじゃね?
ていうかさ。
「夫婦で交代しつつ見守れば良かろう」
『飽きるじゃないか!!』
あ、駄目だコイツ。
ぐおおお! じゃないよ、そんな断言すんな。
大切なら大事に見守りなさいよ、途中で飽きんな。
親失格だろソレ。
『そんな事はどうでもいい!! 私達の卵を返せ!! 人間め!!』
だから文句言いながら火を吹くなっつーの。
また片手でぺいぺいっと火を払いながら、二度目の溜息を吐く。
幸せが逃げるからあんまり吐きたくないけど、なんかもうどうしようも無かった。
「……それで、何故私達が疑われているのだね?」
『私は卵の安全の為に、ワイバーンの巣に卵を隠した!!』
よっぽど説明したかったんだろうか。
なんだか、人間だったらドヤ顔してそうな感じである。
効果音を付けるなら、ドーン! とか、デーン! みたいな感じ。
そんなドラゴンは、犯人を前にした探偵が、自分の推理を説明する時みたいな自信たっぷり具合で、偉そうに堂々と語り始めた。
『そんな場所に入って卵を盗む事が出来るような生き物は、ドラゴン以外には人間しか居ない!! 証拠に、小さい足跡が散らばっていた!』
「……それで?」
『つまり人間!! 貴様だ!!』
堂々と、偉そうに、間違った推理をされた挙句、何故か犯人に仕立て上げられてしまった。
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