09話.[謝らなくていい]

「帰らなければよかったわ、そうすればあなたが勇気を出すところを直接この目で見られたのに」

「いや、勇気は出していないぞ」

「関係が変わったのに?」

「ああ、全部みずきが進めてくれただけだ」


 あ、滅茶苦茶「情けないわね」と言いたげな顔をしている、まあでもその通りだから仕方がないのかもしれない。


「みずき、ねえ、そうやって名前を呼び捨てにするようになったのも大城先輩のおかげだと?」

「ああ、名前呼びでいい、敬語じゃなくていい、本人がそう言ってきていなければいままで通りのままだったよ」

「まあもうそこはいいとして、関係が変わってからどういうことをしたの?」

「どういうことと言われても普通に会話をしたり課題をしているだけだよ」


 夏休みだからといって常に遊んでいるわけにはいかない、自分達が終わり間際に困ることのないように向き合わなければならない。

 いい点は先輩の方からやろうと言ってきてくれていることだ、遊びに行こうと誘われたらいつものあれで受け入れるしかなくなるからそういうことになる。


「あなたもしかしてこれからもずっと待つつもり?」

「あ、夏祭りに行こうとは誘ったぞ、前々から一緒に行っているからな」

「はぁ、そんなことは付き合っていなくてもできるわよね?」


 厳しい、終わったはずなのにまた同じところに戻ってくる。

 彼女はどうしてここまで気にするのか……ってみずきのためか、俺が情けないばかりにみずきばかりが頑張ることになるのだぞと言いたいわけだ。

 だが、なにもこれから全部みずきに任せようとしているわけではないのだから待っていてほしい、現時点では証明できないからこういう言い方しかできない。


「来たよー」

「どうしてさきなさんみたいにならなかったのかしら」

「んー、色々と違うところはあるけど情けないときばかりでもないんだからかつきちゃんは心配しすぎだよ」


 いま来たばかりなのにちゃんとついていけているということは隠れて聞いていたな、でも、彼女の味方が増えたというわけではないから堂々としれいればいい。


「うっ、……自分のことに集中しろという話よね」

「いや、別にそんなことを言うつもりはないけどね」


 自由に言われてむかつくなどという感情は出てきていないがとにかく困ることには変わらないため程々にしてもらいたかった。


「でも、これまでの過ごし方的に躊躇してしまうときなんかもあるかもしれないからかつきちゃんみたいな存在も必要だと思う」

「なんかごめんなさい……」

「謝らなくていい」


 彼女のためにと言うのはおかしいがいちいち指摘しなくて済むように頑張ろうと決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る