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Nora
01話.[安心できていた]
「やり返せたのか」
「ううんやめた、だっていいことには繋がらないから」
「そうか、大人なんだな」
「むかつくけどね、でも、これ以上これ関連のことで時間を使うことの方が無駄だからやめたんだよ」
家に着いたら疲れたのか「今日はご飯いいや」と言って目の前から消えた、自分のためだけに作るなんて馬鹿らしいから風呂を溜めてさっさと入ってこちらも休むことにする。
「お兄」
「なんだ」
「今日はこっちで寝てほしい」
「別にいいが」
そう広いわけではないが床に寝転がると「おやすみ」と言ってきたから頷いた。
寝るのは好きで割りとどこでも寝られるから次に目を開けたときには朝だった、が、普段は大人しい妹でも早めの時間に起こすと機嫌が悪くなるから気をつけて部屋を出る。
顔を洗って歯を磨いてから飯を作ろうとすると「おはよう」と普段ではありえない珍しいことが起きた。
「昨日食べないで寝たからお腹が空いちゃってね、へへ」
「俺的には起きてくれた方がありがたいからいいが」
延々に寝かせておくわけにはいかないから結局格闘しなければならないことには変わらない、そのため、いまも言ったように自力で起きてくれたら助かるわけだ。
「だから今日は私が作っちゃうよ」
「そうか、それなら頼む」
やることはそれなりにあるから朝から暇になるということもない、俺はどちらかと言えば動けていた方がいいからこの生活でいい。
まあ、妹もここで住んでいるというのはいいのかどうか分からないがな。
「お兄、美味しい?」
「ああ、問題ない」
この家に住んだときに困らないように母に何回も教えてもらったと初日に何度も言っていたし、実際に作ってくれた。
住ませてやるかわりに飯を作れなんて考えでいたわけではなかったため、別にここに住むためにそんな努力はいらなかった。
ただ、この先も無駄にはならないことではあるからとやかく言ったりはしていないというだけのことだ。
「それなら良かった、嫌いな味だったりしたら遠慮しないで言ってね」
「人が作ってくれたのにそんなことを言うわけがないだろ」
「でも、言ってくれれば直せてもっと良くなるんだよ?」
そうだとしても作ってくれた物だったり貰った物に対してだったら言ったりはしない、内側では表と同じようにとはできないが俺はそうやって生きてきた。
とりあえず会話なら動きながらでもできるから洗い物をしていたわけだが、それとは違って一つだけ文句を言いたくなることもある。
「化粧とかいらないだろ」
「す、少しだけならルール違反じゃないからいいでしょ?」
「そんなのしなくてもさきなは十分だ」
「そ、そう言ってもらえるのはありがたいけど……」
「いや、やっぱりいい、悪かった」
量もないから洗い物は終わった、だが、ゆっくりしておくのも違うから荷物を持って家をあとにする。
なんというか兄としてどこまで踏み込んでいいのかが分からないから疲れるのだ。
だから家以外のときは妹と一緒にいないようにしている、妹も積極的に近づいてきたりはしないから安心できていた。
「お、今日も身長だけ大きい子を朝から発見しちゃったよ」
大城みずき、彼女は妹経由で一緒にいるようになった人だ。
毎日飽きもせずに身長のことについて言及してくる、面倒くさいというわけではないがよく飽きもせずに続けられるなという感想を抱くことになる。
俺もその繰り返しだから人のことを言えないか。
「今日も派手ですね」
「そう? そんなことを言ったら君のクラスの女の子だって同じようなものでしょ」
「見ませんからね」
この人に比べれば妹のそれなんて全く問題がないレベルだが、それでももったいないことだから我慢できずに口にしてしまうのだ。
「お、じゃあ私はよく見られているということかー」
「そりゃ話し相手のことぐらい見ますよ、ただ無差別にじろじろ見ることはないということです」
「君ってむっつりスケベそう」
はぁ、いまからでもなかったことにならないだろうか、俺は別にこの人と一緒にいられなくなっても特に問題もないのだが。
それとなるべく妹ともいてほしくない、どうせあれだって「化粧をした方がいいよ」などと言われて真似をしているだけだ。
「砂森君さ、今日の放課後は予定を空けておいてね」
「は?」
「ちょいちょい、そんなに嫌そうな顔をされるとは思っていなかったんだけど?」
「ああ、さきなに言っておけってことですね、分かりました」
分かりづらいのは勘弁してほしい、いまのでそのまま鵜呑みにして受け入れてなんかいたら絶対に笑われていた。
もしそんなことになったら出てきた大量の感情をどうするかということで無駄な体力を使うことになっていたため、やはりそうとしか言いようがない。
「違うよ、さきなだったら直接誘うというか、私は誰かに頼んで誘ってもらおうとなんてしないよ」
「え、じゃあ俺の勘違いじゃないってことですか?」
「そそ、だから放課後はよろしくねっ」
まじかよ、どうしてこうなった。
いや、俺が露骨な反応を見せたから悪かったのか、だから相手もムキになって興味もないのに過ごそうとする。
学ばない馬鹿が、ほとんど自分に原因があるぞと内で自分を叱っておいた。
「最近は不安定だったから晴れのままで良かったね」
「雨が降ると歩くのも面倒くさくなりますからそうですね」
「でも、なんでさきながいるの?」
「さきなが自分から参加したいと言ってきたんです」
これは嘘ではない、自分のために嘘をついたりはしない、相手が身内となれば尚更そういうことになる。
「お兄は結構失敗するからね、だから私がいてあげないといけないと思ったんだよ」
「ま、いいか、友達の友達がいるという状況よりも遥かに楽だよ」
「「いえーい!」」
無理だ、少なくとも装うのは無理だ。
短時間だけ頑張るということはできても反動で酷いことになる、だったらいまのままを貫く方がマシな気がした。
よく文句を言われるがそれ関連のことで文句を言ってくるのは妹か先輩だけだ、つまりそんな少数の意見をいちいち気にしていても疲れてしまうだけだから無駄だ。
「まずはやっぱりカラオケだよねー」
「え、いきなり?」
「今日は休日と違って放課後に遊びに来ているわけだからね、色々と見て回れないなら一つでそれなりに楽しめるそんな場所がやっぱりいいわけですよ」
傍から見たら妹も先輩と同じような目で見られているのだろうか? もしそうならなんか一緒に歩きたくなくなるが。
相手が身内であってもなんでも許容できるわけではない、無駄だとか言ったりはしないから同じように盛り上がれるそんな連中とだけいてほしい。
化粧のことについては矛盾しているからもう言わないと約束をするので、是非ともこんな水を差しそうな人間は放っておいて楽しんでほしかった。
「確かにそっか、あれもそれもこれもといっぱい探そうとすると全部中途半端になっちゃうからそれがいいね」
「「問題はもう一人の参加メンバーであるこの子が歌ってくれるかどうかだけど」」
無駄に絡まれることの方が面倒くさいから寧ろ一番に歌ったよ、そうしたら何故か「どんどん歌ってっ」と言われて一曲どころの話ではなかったが。
疲れた、学校でも疲れて休めるはずの放課後でも疲れるなんて実にアホなことをしている。
「いやー、まさか砂森君が歌ってくれるとは思っていなかったよ」
「払っているのに歌わなかったら馬鹿じゃないですか」
「うんうん、理由がどうであれちゃんと一緒に盛り上がろうとしてくれただけお姉さんは嬉しいよ」
どこ目線からの発言だよ、こうやってすぐにふざけるから先輩とはあまりいたくないのだ。
これだったらまだ悪く言ってくれていた方がマシだ、でも、残念ながらよく呆れた顔をしたりしているくせに何度も来るのだ。
「たくさん歌った後はファミレスかなー」
「お兄、ご飯はどうする?」
「俺は帰って食べるからいい」
「うぅ、だけど私は我慢できそうにないから食べちゃう!」
「よっしゃっ、行こうぜさきな!」
……我慢だ我慢、あと三十分ぐらい付き合っていれば満足して解散の流れになることだろう。
もうそれだけ付き合ったら文句は言えないはずだから仮に解散の流れにならなくても帰らせてもらう。
妹と喧嘩になっても実家は結構近いところにあるから問題ない、そうなった場合はあの家は渡して戻ろうと決めた。
「お兄」
「先輩とジュースを注ぎに行ってこい」
「みずきちゃんのことなんだけどさ、お兄ってもしかしてみずきちゃんのことが苦手だったりする?」
全く聞いてくれていないな、俺達は本当に兄妹なのだろうか。
「前にもその話をしたと思うがな、苦手だ」
「もー、砂森君は酷いなー」
「先輩だって苦手な相手の一人や二人ぐらいいるでしょう? 人間なんだから仕方がないんですよ」
寧ろ聞かれているのであれば好都合だった、もうなにもかもを吐いてしまって離れた方が精神的にはいい。
無駄なことで無駄に疲れたくない、本当に必要なとき以外は一人でいいのだ。
そんな人間のところに人は集まらないぞ的なことを小中学生時代の教師に言われたことがあるが、ずっとそうだったからどうでもよかった。
「確かにいるけどその相手がいるところで吐いたりはしないよ」
「じゃあ俺と違って先輩は大人ということです、良かったですね」
「気持ちのこもっていないような顔で言われても……」
ただ、敵を作りたいわけではないからそれなりに難しくなる、敵がいたら一人の生活でも疲れるばかりだからそう極端には行動できたりはしないわけだ。
で、敵ができるのを恐れて情けない選択ばかりを重ねている自分が嫌いだった、まあ、嫌ったところで俺は俺だから一生付き合うことになるわけだが。
「料理が運ばれてきますよ、座ったらどうですか」
「そうだね」
だからいまは自由な先輩に彼氏的存在ができないかとずっと願っていた。
自分が動くと失敗をするから自分以外に頑張ってもらうしかなかったのだ。
「お前は可愛いな」
「え、ありがとう」
「みんながお前みたいな可愛さだったらこの世界はもっと平和なんだろうな」
「え、今日は滅茶苦茶褒めてくれるじゃん」
こういうことすらもどうでもよくなるぐらいには可愛さの塊だった、妹よりもこいつと過ごせる時間の方が安心できて好きだった。
ただ、野良猫ということだからあまりいい目では見られないのがこいつらの可哀想なところだと言える。
「先輩、すぐにじゃなくてもいいので彼氏を作ってくれませんか?」
「えぇ、いきなりがすぎるでしょ……」
「先輩は確かに派手ですけどそれだけじゃないですし、きっと男子の中には先輩のことを気にしている人もいると思います」
いるかも分からないそんな存在の出現を待つよりも先輩にその気になってもらった方が早いということで言わせてもらった、我慢ができないタイプということで今日このことに気づいていなくてもきっと同じ結果になっていたと思う。
「お、魅力があるってこと? 砂森君がそう言ってくれるのは嬉しいなあ」
「まあ、誰が相手でもにこにこ笑みを浮かべて接することができるのはそうなんじゃないですか」
あとは胸とかか? 男子ならそういうところにも惹かれるのではないだろうか。
容姿もそれぞれの好みが違うから絶対にとは言えないが、そこににこにこのそれが加わればいい反応を見せる人間がゼロという結果には終わらないだろう。
「誰が相手でも、か、さすがに私でもできないよ」
「いや、現に俺が相手でもできているじゃないですか」
「自己評価が低いね」
「自分が面白みの欠片もない人間だと自覚できているだけです、自己評価が低いわけではないですよ」
というわけでどうかと再度言ってみても「誰かに言われて行動をするような人間じゃないなあ、そういうことならなおさらね」と返されてしまった。
「あ、行っちゃった」
「あいつにも帰る場所があるんですよ、俺らも帰りましょう」
「そうだね」
可愛い存在が消えてしまったのであれば外にいる意味なんかなくなるから早く帰った方がいい。
だが、その途中で「ねえ、もしかして自分が意識してしまう前にという考えからさっきの発言はきているの?」と聞かれて足が止まった。
なんとも自信過剰というか自意識過剰というか、先輩が関わるとなんでもそういう風に捉えられてしまいそうだった。
「そうだと言ったらどうします?」
「それなら砂森君には悪いけど断らせてもらうよ、動くことも、君の気持ちを受け止めることもね」
「そうですか、教えてくれてありがとうございます」
まあいいか、自分が馬鹿なことを言ったわけだから受け入れるしかない。
今回に限って言えば先輩が悪いわけではないから仕方がないため、後で筋トレをすることでこのごちゃごちゃしたそれをなんとかしよう。
「砂森君」
「ちょっと忘れ物を思い出したので学校に戻ります、それでは」
このタイミングで課題のプリントの存在に気づけて良かった、だから今日は先輩のおかげということになる。
一方的で申し訳ないが礼を言ってから学校まで走って無事にプリントを手に入れることができた。
「どうせならここでやっていくか」
妹は友達と遊びに行くと言っていたから急いで帰る必要もない、そのため、今日は愛しのあいつを愛でていたということだ。
公園の隅の隅に現れるそんな天使的存在、無責任に餌やりなんかはしていないがあまねなんて名前をつけている。
「砂森君にしては残っているなんて珍しいわね」
「確か同じクラスの……あ、伊丹か、伊丹かつき」
「まさか知っているとは、もしかして私って人気者だったりして」
「人気者かどうかは知らないがクラスメイトの名字や名前ぐらいは覚えているぞ」
いまみたいに瞬間的に出てくることではないものの、しっかり相手の顔を見て喋ることができれば大丈夫だった。
もっとも、覚えていたところで相手から話しかけてくることが全くないから無駄なものになってしまっているが。
「課題のプリントをしていたのね」
「ああ、情けないことに思い出して取りに来たんだ」
「でも、偉いわね、いい子いい子」
「子どもじゃないぞ」
彼女は依然として続けながら「あら、子どもじゃなくたってこうして褒められてもいいでしょう?」とやめるつもりはないようだった。
別にそこまで汚れているわけではないだろうが奇麗とも言い切れなさそうだったから止めておいた。
「伊丹はなんでまだ残っているんだ」
「私はさっきまで図書室で本を読んでいたの、たくさん買う余裕はないから入り浸っているのよ」
「へえ、周りが騒がしくしていても全く気にせずに読んでいるところが想像できる」
「静かな方がいいけれどね、あなただってその点は同じじゃない?」
「俺はそこまでじゃないな、巻き込んでくれなければ自由にやってくれればいい」
ただし巻きこんできたらその瞬間に――なんて、どうせ黙ってどこかに行くことしかできないか。
所詮俺はそんな感じだ、情けない人間は妄想や想像上でだって上手くやることはできない。
まあでも、実際は動けないくせにそういうところでだけイキっているよりはマシだろうから絶望しているというわけではなかった。
「おいおいおーい、まさか女の子と会うために戻ったとはね。いやー、砂森君も男の子なんだねー」
「違いますよ、たまたまここで会ったというだけです」
おいおいはこちらが言いたいことだ、先輩もピンポイントで同じ物を忘れたというわけではないだろうからなんのために戻ってきたのだろうか。
それに異性と話しているだけでそんな言い方はやめてもらいたいところだ、自分は関われないから嫉妬で似たようなことを吐いていた小学生の頃の同級生を思い出して微妙な気分になる。
ちなみにそいつは最後までそういうのも関係して異性といられていなかったが、いまはどうなっているのだろうか。
「まあ別に誰と過ごそうが自由だけどねー、私だってなんにもないときは男の子とか女の子と過ごしているんだしー」
「砂森君この人は?」
「妹の友達なんだ」
「そうなのね、気にしているからてっきり彼女さんなのかと思ったけれど」
「はははっ、ないないっ、砂森君に魅力がないとかそんな風に言うつもりはないけどねっ」
俺は一日で何回振られればいいのか、今回のは自分が関わっていないだけに微妙さも段違いだった。
そういえばと思い出して学校をあとにしたわけだが、残念ながら一人で行動することはできていないままだ。
「え、今日が初めてなの?」
「はい、お互いに話しかけたりしませんからね」
「えぇ、私なんてクラスメイト全員とある程度は楽しく話せるのに? やばいよ最近の若い子は」
「そんなものではないでしょうか、皆が上手くできるわけではないんですよ」
そうだ、だから合わないのもあるということだ。
そのため、やはり先輩との時間はこのまま増えない方がいいと言えた。
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