名無しの権兵衛

燦々東里

第1話 首を吊る

 ベルトを吊るし、タオルをかけ、その上に首を乗せる。力を抜いて体重を乗せていく。息ができない。視界が明滅する。目のあたりがものすごく痛み、頭が殴られているかのような衝撃を受ける。思わず体を浮かせてしまった。

 仰向けになり、ベルトに下から首を通す。尻をずらして首を圧迫しようにも、なかなかうまくいかない。

 もう一度うつ伏せになる。首がうまく締まるように、締まるように――……

 ハッと目を開ける。苦しい。痛い。首を上げる。

(今一瞬、成功しかけた、のに……)

 心が落胆に包まれる。意識を取り戻さなければ、きっとうまくいった。それほどスムーズな落ち方だった。

 もう一度うつ伏せになる。目が痛い。苦しい。今自分の顔はどうなっているのだろう。無様な顔を見て笑ってやろうか。半ば自暴自棄で鏡を見る。薄暗い室内で、顔中に赤い発疹を拡げた少女の姿があった。酷かった。醜かった。

 鏡を床に捨て、もう一度体を動かす。仰向けになって、首にベルトをかけ、試行錯誤を繰り返した。失敗ばかりが続いた。本当は失敗する理由もなんとなく、わかっていた。それでもやめることなんてできなかった。何度もベルトに体重をかけた。

 苦しくて、痛くて、息が詰まった。

 何度も、何度も。

 そうしていつの間にか眠りに落ちていた。

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