線香

水沢朱実

第1話

母が亡くなって、もう3年になるだろうか。

毎朝、毎夜、三本ずつの線香を捧げる、我が家の線香は消費が速い。

多分、他のうちからはありえないスピードで、我が家の線香はなくなっているはずだ。


時々は、いただきものの焼き菓子なんかを、お供えする。

「おいしい?」

返ってくる声はないけれど、何となく、深呼吸がしたくなる。

「ありがとね」

私は母に呼びかける。


仏間がある、リビングの部屋は、今の季節、ずっとエアコンが点けっぱなしだ。

部屋はきっと乾燥してるに違いないのだけど、

私は、仏間のお水の減りを、何となく、「母のせい」にしてしまう。

「お水、飲んでるね」

そう呼び掛けたい、これは私のワガママだ。

「また、お掃除しないとね」

アミのスプーンで、線香のツボの線香の燃え残りをかき出す。

ティッシュの上にできる、線香の山は、私の供えた線香の数に他ならない。


「できたてだよ」

いつものように、三本の線香に火をつけ、仏間に立つ。

「今日もありがとね。・・・お母さん」

窓の外には、今日も青空が広がっている。

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線香 水沢朱実 @akemi_mizusawa

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