ネクロマンサー

真榊明星

第1話 壱

 すべてはあの遺書から始まった。


 私は人類学および民俗学の研究をする傍ら、幼少期より興味があった超能力や心霊現象といった神秘学――いわゆるオカルトの研究を独自にしている。

 最近では――魂は実在し、肉体から離れたそれは誰もが普段から感じている光――好む好まざるに関わらずそれをミクロで観察したときの状態となって、あるものはこの世の一部となり、あるものは転生して新たな命となる――という仮説を立てた。しかし残念ながらこれが立証される頃には私はもうこの世にいないだろう。

 いや、それはさておき――

 ついこの間何となく実家に帰って納屋の片付けをしていたところ、十歳で事故死した妹の遺書と思しき手紙が出てきたことに驚愕した。そしてそれは妹が亡くなる直前、本人から手渡されていたもので、なぜかその事をすっかり忘れていた。まるで……何かがその記憶を隠蔽したかのように。

 当時、私は十三歳だった。歳が近い姉妹にしては珍しく私と妹はとても仲良しだった。ケンカなんて一度もしたことなかった。

 事故の二日前、妹は「大人になったらこれ読んで」と言って、私に手紙を渡してきた。今思えば……あの時すでに予知能力をもっていた妹には、自分の死が見えていたのだろう。

 けれどどうしても不思議なのが、予知能力だけでなく、サイコキネシス(幾度かそれに救われたことがある)の力をもっていた妹がそう易々と事故死するものだろうか? どんなに強力なチカラを持とうと、不意を突かれたら結局脆いものなのかもしれないが……。

 そんな特別な力をもった妹の遺書は、納屋の中で雑に置かれていたので状態はそう良くはなかった。扱い方を間違えれば最悪一語一句すべてを正しく読むことが出来なくなるかもしれない。だから私は細心の注意を払い、遺物を取り扱う考古学者のごとく、一手ごと丁寧に進めていった。

 そうして何事もなく、小さく折りたたまれた妹の手紙は無事開いた。

 中にはこう書かれていた。


『死の淵で待ってる』

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