真面目が裏目に!? 学校一の美少女の告白を断ったら急に周りの女子から告白されて修羅ばりました。
斜偲泳(ななしの えい)
第1話
「単刀直入に言おう。小森君。君が好きだ。付き合って欲しい」
いったいなんの冗談だろう?
切れ長の美しい目に見惚れながら、小太郎は心底不思議に思った。
ある日の放課後、帰宅しようと思って下駄箱を開けたら匿名の手紙が入っていた。
『放課後、視聴覚室に来てください』
ラブレターかもしれないが、悪戯の可能性もある。
どちらにせよ、無視するわけにもいかないのでドキドキしながらやってきた。
そしたら学校一の美少女である
千鳥は腰まで伸びた黒髪が美しいすらりとした長身の美人である。
成績優秀、運動神経抜群、品行方正、家柄もよくお金持でしかも巨乳の生徒会長。
男子は勿論女子からも羨望を集めるパーフェクトな存在だ。
当然モテモテで、週に一度はどこどこのだれだれが告白して玉砕したなんて話が聞こえてくる。
だから、男嫌いだとか女好きとか大学生の彼氏がいるとか海外に婚約者がいるなんて噂が好き勝手に囁かれている。
そんな人が、どうして僕なんかに?
真面目さだけが取り柄のパッとしない男の子だ。
背は小さいし、顔も子供っぽい。イジメられてはいないが、面倒事を押し付けられたりからかわれる事も多い。
これまでだってモテた事なんか一度もない、冴えない地味な男の子だった。
「…………えっと、なにかの罰ゲームですか?」
「心外だな。小森君は私がそんな卑劣な事をする女だと思うのかね?」
「いえ、思いませんけど……」
「納得していない顔だな」
「だって、鶴川さんみたいな凄い人が僕なんかを好きになるなんて信じられないというか……」
それに比べたら、まだ罰ゲームの方があり得そうだ。
「私だって人間だ。普通に人を好きになる事もある」
「そうでしょうけど……」
「なるほど。小森君の言いたい事は分かる。自分で言うのもなんだが、私は学校一の美少女などと呼ばれて崇められている。対する君は何の取り柄もない名無しのモブのような人間だ。私のような人間が好きになるはずがない。そう思っているわけだね?」
「……まぁ、そうですね」
「勘違いも甚だしい。小森君、君は魅力あふれる素敵な人間だよ」
宝石でも見るような目でうっとり見つめられ、小太郎はますます困惑した。
「……あの、誰かと勘違いしてませんか?」
「君も分からない男だね。だが、そういう奥ゆかしい所にも惚れたのかもしれない。確かに私は君とほとんど面識がない。一年の頃は同じクラスだったが、話した事も数えるほどだ。友達未満、知り合いとすら呼べない関係だろう」
「……じゃあ、どうして……」
「君の人柄に惚れたんだ。私の知る限り、小森君は一度だって人の悪口を言ったり嫌な噂話に加わる事はなかった」
「そういうの、好きじゃないので」
そのせいでクラスではつまらない奴と思われている。
だが嫌な気分になるよりはずっとマシだ。
「そういう所だ。私自身、目立つせいで陰口を言われたりある事ない事噂されてうんざりしている。君のような人間に惚れるのも当然だろう?」
「う~ん」
「まだ納得出来ないかい? なら、こういうのはどうだ。君は困っている人を見過ごさない。クラスで除け者になっている者がいれば話し相手になってやり、見知らぬ生徒が重い荷物を運んでいたら助けてやる。先生に頼まれて病欠の子にプリントを届けたりもしていたな?」
「自分の為ですよ。無視したり見て見ぬふりをすると嫌な気分になるので」
「立派な事じゃないか。誰の為でもなく、自分の為に善行を行う。そういう姿を私は幾度となく見てきた。それで君に惚れたんだ。小森君はそう思わないかもしれないが、私にとって君は白馬に乗った王子様と同じだよ」
「そうですか……」
熱い視線を向けられて、ようやく小太郎は千鳥が本気なのだと理解した。
「ごめんなさい。鶴川さんとは付き合えません」
「うむ、こちらこそよろしく頼む。それでは早速デートの予定を……」
満面の笑顔で言いかけて、千鳥の頬が強張った。
「……小森君? 今、なんと?」
「ごめんなさい。鶴川さんとは付き合えません」
繰り返して、小太郎はペコリと頭を下げた。
「なぜだ!? 私のどこが不満なんだ!?」
「不満なんかありません。鶴川さんは綺麗だし、頭も良いし、人格者で人気者で、凄い人だと思います」
「……まさか小森君、自分なんかには恐れ多いとか言うんじゃないだろうね?」
「それもありますけど――」
「そんな理由で振るなんて酷いじゃないか!? それじゃあ私には、好きな人と恋愛をする自由もないというのか!? タイプじゃないとか性格が悪いとか、問題があって振られるのなら納得も出来る! だが、恐れ多くて振られるなんて、あんまりじゃないか!?」
涙目になって叫ぶと、千鳥が小太郎の肩をガクガクと揺らす。
身長差があるので、危うく胸に顔を埋めそうになった。
「ま、待ってください! それだけが理由じゃありません!」
「じゃあ、どうしてダメなんだ! 納得できる理由を聞かせて貰おうじゃないか!」
「僕は鶴川さんの事を全然知りません。鶴川さんも僕の事をそんなに知らないですよね?」
「小森君が思っているよりは知っていると思うが……。それがどうした?」
「付き合ったら結婚するわけじゃないですか?」
「け、け、こけっこっ!?」
千鳥の喉がつまり、ニワトリになった。
「順調にいけばしますよね? 結婚。それとも鶴川さんは、遊びのつもりなんですか?」
「ち、違う!? わ、私だってそのつもりだ! 今すぐには無理だが、いずれは……。こ、高校卒業後……は流石に早いか。大学卒業後とか、その辺りで……こ、子供は二人欲しいかな。お、男の子と女の子で……」
たわわな胸元で指先をもじもじしながら、でへへと頬を緩ませて千鳥が妄想を膨らませる。
「いえ、時期は問題じゃなくてですね。付き合ったら結婚するかもしれないのに、僕は鶴川さんの事をなにも知らないんです。好きですらないし」
「す、好きじゃないの!?」
「あ、恋愛感情はないって意味ですよ? 綺麗な人だと思いますし、人としても尊敬してます。でもそれだけで、特別な感情は全くないというか、こんな事になるとは思ってなかったので」
「そ、そうか……」
ホッとしたような悲しいような、複雑な表情を千鳥は浮かべる。
「そんな状態で付き合うのは無責任だと思うんです。もしかしたら上手くいかないかもしれないし」
「問題ない! 私は小森君の事が大好きだ! 必ずや幸せにして見せるとも!」
「だったら余計にダメですよ。鶴川さんが本気なのに、僕だけ本気じゃないなんて。そんなの不真面目です」
「そ、そこは適当でいいんじゃないかな?」
「いえ。僕は鶴川さんを悲しませたくありません。付き合うなら、ちゃんとお互いに好きになってからにしましょう。まずはお友達からはじめませんか? そしたらお互いの事をもっと知れますし、僕の事をちゃんと知ったら、鶴川さんも勘違いだったってなるかもしれないじゃないですか?」
「……この気持ちは絶対に勘違いではないと思うが」
子供っぽく頬を膨らませると、千鳥は諦めたように溜息をついた。
「まぁ、そうだな。小森君にも恋人を選ぶ権利はある。私の事を真面目に考えてくれていると思って、今日の所は引き下がろう」
「すみません。僕みたいな冴えない奴の分際で、告白をお断りしちゃって」
「いや、むしろ余計に君が好きになった。その辺の有象無象なら、何も考えずに即答でオーケーしている所だからな。学校一の美少女ではなく、一人の人間として私を見てくれている証拠だろう」
思い直したように千鳥が笑顔を浮かべる。
「それじゃあ、友達になった記念に途中まで一緒に帰るというのはどうだね?」
「いいですよ」
「連絡先を交換するというのは?」
「いいですよ」
「下の名前で呼んで欲しいのだが」
「いいですよ」
「ついでだから手も繋いでおこうか」
「友達とは手を繋ぎませんよね?」
ちぇっと残念そうに呟くと、千鳥は言った。
「本当に君は真面目な男だね」
「よく言われます」
そういうわけで、途中まで二人で帰った。
†
『速報!!! 千鳥様が知らないチビ男と一緒に帰ってる件!!!』
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