収束の兆し
本日二話目になります
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ルクス帝城の一室。
この国に召喚された勇者。その中の女子生徒二人が、その部屋で顔を付き合わせていた。
「ごめんね!ムーちゃん!呼び出しちゃって!」
「……ううん、別に……でも、珍しいね。柊さんが私を、なんて……」
柊千尋と木ノ本睦月。
普段あまり接点のない二人の会話は、他の生徒達からの目を引くだろう。そう考えた柊は木ノ本を自分の部屋に呼び出していた。
「んー、なんか、最近ムーちゃんが元気無いって皆が言ってるからさ? 何かあったんかなって!」
「………別に……なにも」
それは恐らく、死んだ少年が原因だろう。
だが、そこに辿り着ける生徒はほぼいなかった。
木ノ本は話題を逸らすために、少し前にあった騒動の話を振る。
「……柊さんこそ、牧野くんと一緒に帝国を出ようとしたのはなんで?」
「いやー、出ようとした訳じゃなくて出ちゃったと言うか……まあ、それは良いじゃん! てかさ、てかさ! ちょっとムーちゃんの意見が聞きたくて!」
「意見………?」
学校一の秀才であった木ノ本は色々な質問をされることが多かったが、異世界に来てからはめっきり減っていた。勉強など必要ないから当然だ。
だが、ここに来て、自分に意見を求める柊に興味を引かれた。
柊は、木ノ本の前に座り込み、軽い雰囲気のまま話し続ける。
「そ!―――ミナセ。この名前聞いてさ、どう思う?」
「水瀬?」
それは、木ノ本の幼馴染みの一人、照宮司水瀬の名前だ。だが、何故そんなことを……?
木ノ本は柊の質問の意図を測りかねていた。
「ミナセって名前ってさ、なんとなーく、女の子っぽいなって思わない? まあ、実際は苗字にもいるし、男の子のミナセくんもいるとは思うんだけどさ?」
「まあ、確かに……私達はあの水瀬を知ってるから、なおそうかも………でも」
「やーっぱりそうだよね。日本人ならそう思う人多いんじゃないかな? まあでも、それでも女の人とは断言できないよね?」
それがなんだと言うのか。
いよいよ木ノ本は意味がわからなくなってきていた。
しかし、柊は言葉を止める気配を見せない。
「しかも……名前だけでさ、御学友だとは思わないよね~!――って、ことでさ、ムーちゃん!」
「―――!」
ずいっと距離を詰め、柊が木ノ本の目を覗き込む。
その目は知性に溢れ、いつもの軽薄な様子を微塵も感じさせない。
そして、木ノ本にとって、決定的な言葉を放つ。
「―――榊っちが生きてる。なーんていったら、どうする?」
木ノ本の目に、光が灯る。
柊は知っていた。図書室で行われていた二人の些細に過ぎるやり取りを、恋人はおろか、友達とも呼べるかわからないその関係を。
そして、この後木ノ本がなにを言うのかも。
「―――詳しく、教えて!」
■ ■ ■ ■
「空の大穴の攻略……ほっほ、ほほほ。良いですねぇ、想像以上です。『
とある神殿。廃れ、そして人々に捨てられ忘れ去られた神の祀られたそこに、老人が座り込んでいる。
始まった。
強者達が出会い初め、その存在を認知していく。
だが、まだ足りない。あの災厄にはまだ。
「次は、英雄国……ですか」
答えるものなどいない。老人はいつも一人、世界を見透かす。
「―――貴きバベルに、泥と死骸の彩りを。ほっほ、さあ、始まりますよ――祭典が」
英雄達、そして冒険者。種族を超えた人々の交わり、それが英雄祭典。
そして、アルカナ。
今、全ての中心に、彼がいる。
「リュート・サカキ……世界の希望と人の陰謀。さて、彼が打ち砕くのはどちらですかな?」
老人は嗤う。
世界は既定路線を離れ、そして、誰も知らない結末へと進み始めた。
■ ■ ■ ■
空の大穴の攻略から、三週間が経っていた。
いつもと、変わらない日々。
だが、前とは決定的に違うのは、しがらみの失くなった彼女達の関係と、少し賑やかになった顔ぶれだ。
「……っ、……はあああ!」
「……む、……少年、左に意識を割きすぎだ。すると―――」
「……くっ……うわっ!」
俺は右腹に訓練剣を叩き付けられた体勢を崩し、その場に倒れ込んだ。
今日は……負けか……。
「ありがとうございました、ドクさん。やっぱり強いですね」
「いや、年の功だろうな、すぐに追い付かれてしまいそうだ」
訓練を終えた俺とドクさんは互いを労い合う。
そこへ、見ていたゼラとシュヴァテ、そしてアダムさんが近づいてくる。
「あるじ……はい水、冷たいよ」
「ありがとう、シュヴァテ」
「ふむ、だがリュート。貴様、また腕が上がったな、恐ろしい速度だ」
「ゼラとドクさんのお陰だよ」
シュヴァテから冷えた水を貰いながら、ゼラからの評価にそう返す。
実際、二人の剣を見続けていると、わかることがたくさんある。
アダムさんがふわっと浮き、ドクさんの後ろから肩に凭れ掛かる。
「ドク、お疲れ。調子良さそう」
「少年や黒との鍛練で色々な気付きを得ているからな……」
「い、いい加減、私を黒と呼ぶのは止めろ!」
「……黒は黒だろう?」
「………もういい」
ドクさんは俺を少年、ルルノア様を赤、ゼラを黒、ネルさんを金と呼ぶ。他の人のことも、特徴で呼ぶことが多い。
まあ、ドクさんっぽいなとは思う。そう思えるほどに彼はすっかり魔王城に馴染んでいた。
と、そこへ。
「リュートッ!リュートッ!」
「ルルちゃん~!走ると危ないわよ~!」
こちらへ走ってくるルルノア様とそれを追って、何がとは言わないが、とんでもなく揺らしながらネルさんが続いてくる。そして、その後ろからアルト様が紙の束を持ちながら歩いてきた。
「皆さん、どうしたんですか……?」
「リュートッ!―――旅行よっ!」
「………旅行?」
要領を得ないルルノア様の言葉に首をかしげると、
「もう~、ルルちゃん。リューくんが困ってるわよ~」
「そ、そうね! ごめんね、リュート!」
「い、いえ、それで………」
「ルルが言いてえのはこれだよ」
ネルさんのまだ慣れない親しげな呼び名に動揺しながら、追い付いたアルト様に伺う。
すると、アルト様が手に持った紙を差し出した。そこにいる全員でそれを覗き込む。
それは、入国書だ。
場所は―――英雄共和国、ラスヴェン……?
「ここは……?」
俺が聞くと、アルト様がルルノア様そっくりなドヤ顔で話し出した。
「――三ヶ月後、ここで大陸一の祭が開かれる。それが―――」
「―――英雄祭典よっ!」
アルト様から奪うように、こちらもアルト様そっくりなドヤ顔で宣言した。
ドヤ顔親子……めちゃくちゃ良いなぁ……。
「英雄祭典……ですか?」
「ああ、各国の王族、皇族、華族。種族の長やそれに連なる者達。それに高位冒険者。そして―――なんと言っても英雄の子孫達。それが一堂に会する馬鹿騒ぎだ」
新たな騒動の幕開けを予感させるアルト様の言葉。
しかし、ルルノア様はただ楽しそうに、俺を見る。
「――リュート、行くわよ!英雄国!――行くわよ!英雄祭典っ!」
きっと、新しい出会いと騒乱が待ってるんだろうなぁ。
でも、この人達となら、なんだって楽しくなりそうだ。
「―――はい、仰せのままに」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
これにて、二章終了になります!
拙作にお付き合いくださりありがとうございました。
三章では、しがらみがなくなり賑やかになったルルノア様一行が魔王国外でわちゃわちゃします!
ここまで呼んでくださった方で、面白い!続き気になると思ってくださった方は、☆で評価やフォローなどいただけるととても嬉しいです!
それでは、長らくお付き合いくださり、ありがとうございました!
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