第七界—6 『鎧ノ開界』

「火花も太陽もッ……! 輝くモノなら全てが光ッ……だなァ!?」


 だが、ナイトの鎧と俺の肉体が火花の太陽により焼失させられる事はなく……焼失──ではなく消失させらたのはむしろ火花の方であった。


「爆ッ……」


 消えた火花からはランスのナイトサイザーが現れ、火花の鎧の頭部に向かい一直線で飛び、そして木っ端微塵にする。

 頭部の鎧の内側には何も存在せず、穴から火花を全て漏らし、空の鎧となると地面に膝を付き、そして電池の切れたロボットみたいに倒れ込む。

 だが、倒す事が出来たのは火花の鎧だけであり、無効化する事が出来たのも火花だけ──つまり、冷気の鎧はもちろん8つの矢は今も存在しているという事であった。


「ぜぐヴッ……!」


 太陽の光を反射し、青空色に輝く8つの軌道が夜空色の鎧を貫き、蜂の巣にする。

 矢がアーマードナイトを襲った時、アーマードナイトは防御の為かはたまた反撃の為か、既に空の鎧に背を向け、氷の矢の方を向いていた。

 だが時すでに遅く、前述の通り全ての矢は確実に鎧を射止めており、そのうちの1つは左胸を、他の1本は脳天を貫き、その2か所を貫かれる事は生物にとって致命傷であり、そして即死を意味する。


「あ……?」


 機械的な思考回路しか持たない冷気の鎧も何かがズレた様な感覚、違和感を覚えた。

 氷の矢は確かにアーマードナイトを貫いており、今も風穴からは青空が見えていて……


「ッ!?」


 それこそが違和感の原因であった。

 鎧と共に中身の、生身の人間も貫けているのであれば風穴から見えるのは青色の空ではなく、赤色の血肉のはずなのだ。

 一体どんな理屈なのか。

 どうすれば外側が貫通し、背景が映っているというのに内側のモノが無傷だなんて事が起こるのか——その答えは次の瞬間判明する事となる。


「居たッ……!」

「分離済みだ!」


 アーマードナイトはナイトと中身……俺に分離しており、身をかがめて矢を回避していたのだ。

 アーマードナイトのパーツの隙間から身を出し、生身のままで屋上に向かい降下する。


「ッ……戦況変わらずまだ優勢ッ!」

「ナイトサイザァ!」


 冷気の鎧は目の前に広がる状況への動揺により一瞬攻撃の手を止めながらもすぐに、再び8つの氷の矢を放つ。

 だが空の鎧の真横、屋上に突き刺さっていたナイトサイザーが俺の呼び掛けに応じ、天翔る龍の如く飛翔。

 俺の肉体に迫る8つの矢を砕き、粉微塵にする。


「ゼアァァッ!」

「ヅッ……アイサァァァア!」


 矢を破壊した後ナイトサイザーを掴み、そのまま空を舞う。

 凍てつく空気が背の傷に染み込み、また爛れた皮……その下の肉が前から後ろへ通り過ぎる風により捲れるめくれる

 その痛みは常に鋭利な物体に貫かれている様な、熱い痛みに襲われた。

 だが、冷気の鎧の攻撃から逃れる為、生きる為に飛行を続行する。


「当たらないとッ……貫けない殺せない……!」

「当然だよなァそんな事!」


 冷気の鎧は矢を放ち続けるがナイトサイザーの飛行速度には追い付けず、矢が狙った所に辿り着いた時にはもうそこに俺とナイトサイザーは存在していなかった。


「ゼアッと!」


 冷気の鎧に勘づかれない様に何の前ぶりも見せず、ナイトサイザーから手を離す。

 ナイトサイザーに意識を取られ、俺という標的が消えても、間違えて囮の鎌に矢を放つその一瞬の隙を狙い、背後に着地。

 拳を握り締め、突きの構えを取った。


「ッ……アイサァァァ!」


 冷気の鎧はすぐさま振り返り、それと共に跳躍、右拳を振り上げる。

 その拳を生身で受ければ確実に俺は死ぬ、死ななかったとしても致命傷にはなるだろう。

 だけれど問題は無い。

 何故なら今の俺は生身でも、呼び掛けさえすれば、戦闘開始の宣言……その言葉を叫びさえすれば——


「アーマード!!!」

「づぁ!?」


 すぐにナイトが空中から俺の元へ舞い降り、再度一体化しアーマードナイトとして拳を放つ。

 アーマードナイトの拳と冷気の鎧の拳が衝突した瞬間、冷気の鎧は地面に落ち、木っ端微塵に砕け散る氷のつららの様に粉砕された。

 その際、アーマードナイトの拳は一切押し返されず、また内部に大した衝撃も与えられていない。

 それはつまり、アーマードナイトの単純な……能力無しの素の力は冷気の鎧の力を圧倒しているという事であった。


「回しッ……蹴りィ!!」

「ズィッ……」


 拳を破壊してすぐに、そのまま流れる様に回し蹴りを冷気の鎧の頭部に叩き込み、粉微塵にする。

 冷気の鎧は損傷した自身の腕に気を取られ、あまりにも大きな隙を作り出していた為、攻撃を当てる事はいとも容易い事であった。

 冷気の鎧は倒れ……地面とその背を衝突させ、そして机から落ちたガラスコップの様に木っ端微塵に割れる。


「ふぅ……ナイト、次がいつ来るか分からないからさっさと破損箇所修復しといてくれ」

「もう既に開始している」

「ありがッぁぁあ!?」


 ナイトの言う通り、火花と氷の矢によりアーマードナイトの鎧に付けられた傷はゆっくりと、傷の縁と縁が流体の様に広がり、空白を埋めようとしていた。

 修復の際、背の剥き出しになった肉に鎧が当たり……思わず跳ね、叫んでしまう。


「せっかく敵倒したのに締まらないな……」


 と、そう文句を垂れるくらいには心の緊張が解けてきた時だった——


「まだ安心するのは早いのではないか? 君が倒したのは確かに敵、だが本体の方ではなく、使役される下僕——人形に過ぎない」

「来たか……」


 俺達の背後に青年……アーマードワールデスが姿を現す。

 アーマードワールデスは語る最中、俺達の足元の鎧の残骸に冷たい視線を送っていた。

 その視線は敗北した事による失望、というよりそもそもとして何も期待していない風な、ただの道具、無機物を見つめている様であった。


「まだ操り人形を差し向けるか? それとも今度は……」

「あぁ、今度こそは私が、私自身が、鎧の界人——最後の古物の世界守護者、アーマードワールデスが君と……君達と戦おう」


 と、そう語りながら、アーマードワールデス一切の甘さを捨てる様に目を細める。

 その際のアーマードワールデスの右手は左胸に当てられており……その姿は哀愁を感じさせた。


「さぁ……オリジンの名の、存在の由来となった鎧の姿! 刮目せよ……!」


 今度は左手を右肩に当て、自身の胸の前にXを作り……


「アーマード!!!」


 と、そう俺や黒姫と同じ様に戦闘開始の宣言を叫んだ。

 その瞬間アーマードワールデスの周りには金色の粒子が現れ、渦巻きながらその身を覆い……そして、その粒子が弾ける様に消失した時——


「今、この瞬間こそが守護者の使命……その継承の時、その始まりだ……!」


 薄紫のアンダースーツ、そしてその上に金色に輝く鎧を纏う者。

 その眩しく神々しい鎧がこの灰色の、壊れきった世界に降臨したのだった。

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