第七界—3 『鎧ノ開界』


「アーマード……?」


 名乗りの、自己紹介の中のその聞き覚えがあり、場違いな単語を聞いて首を傾げる。


「そうアーマード、紛らわしいが君達の鎧、その総称であるアーマードとは特に関係がない、偶然の一致だ……もしナイトワールデスが私の真似をしたというのであれば必然の一致になるがな」

「あいつの”真似”ってそういう……」


 雪の界人、スノーワールデスがアーマードナイトの姿を見せた際に発したその意味深なセリフの意味を今、ようやく理解する事が出来た。


「まぁ、真似であろうとそうでなかろうと、アーマードだって守護者……更に君達の場合はワールデス由来、区別する事に大した意味は無い」


 アーマードワールデスは再び、饒舌になって……どこか楽しそうに何か意味ありげな事を語る。

 その言葉の意味は結局俺には理解出来ず、脳はまた混乱し……困惑を示した。


「っと悪い、また語りに集中してしまったな……つい癖でな」

「……別にいい、もっと……沢山、長く語ってもらっていいぞ」


 俺の困惑を察したアーマードワールデスは謝罪し、そして冗長な語りを停止させようとする。

 だが、その配慮は跳ね除けられ……俺はあえて、どこわざとらしく語りの続行を希望した。


「朝日 昇流、何を……企んでいる……? その怪しさを隠さない態度からしてもう既に企みは成功しているようだが」

「シーワールデスもそうだったけど……お前達はナイトにしか……アーマードナイトにしか興味が無いらしいな」

「……なるほど、そういう事か」


 答え合わせの言葉を聞いてアーマードワールデスは何かを察し……自身の状況を理解して、降伏を示す様に両手を上げる。


「この動作……君達、地球人類にとっては降伏を、戦意が無い事を……自虐的に言うのであれば命乞いを意味する行為で間違いなかったな?」

「そうね……間違いなく、戦いにおいて最も”屈辱的”な行為だよ……!」


 上げられた手と人間の形をした頭部、その隙間の先——アーマードワールデスの背後には黒姫が立つ。

 黒姫は語気を強めて、罵る様に言い放ち……そして、その手にはバトライルブラスターが握られ、アーマードワールデスに向けられていた。


「そうだろうな……だが、それでもいい、私が君達の前に現れたのは新たな守護者、世界が作り出した”絶対的不幸”への対抗手段であるアーマードであり、数々のワールデス——中古品の守護者を廃棄してきた君達と会って、会話をしてみたかったから——それだけだからな」

「私は貴方との会話に興味は無い……し、それとさ?」


 アーマードワールデスは表情に一切の歪みを浮かべず、黒姫の殺意を受け流そうとする。

 そんなアーマードワールデスの言葉を聞いた黒姫は降伏の動作を認識していながらもバトライルブラスターを下ろさず……それどころか——


「誰もが降伏した敵を見逃す訳じゃないんだよね……!」

「だろうな……だが……」


 引き金を引き、眩い光線をアーマードワールデスの脳天目掛けて放ったのだった。

 それでもアーマードワールデスは焦りを見せず……精神と肉体は共に不動のままで迫る閃光、銃撃を待つ。

 そして光線が後頭部に到達するその直前の事だった——


「ッあ!?」

「敵の行動、言葉が全て真実である訳ではない……という事は頭に入れておいた方が良い」

「今のッ……朝の訓練の時の奴と同じだ……!」


 光線は突然、何かに弾かれた様にして軌道を返え、天井に風穴を開ける。

 その光線の動作は朝の訓練の時、俺から遠ざかった瞬間の動きと同じであった。


「へぇ……透明な盾でも置いてるのかな……?」

「違うな……名前がアーマードワールデスだって事を忘れたのか?」

「……透明な鎧?」

「それも違う、正解ではなく不正解……鎧を透明にしてもデメリットは無いがメリットも無いだろう?」


 アーマードワールデスは振り返り、黒姫の方を向いて、俺に背を向けて語る。

 透明な盾も鎧も無いのだとすれば、一体何が、どんな能力が光線を弾いたというのだかろうか。

 そんな疑問はすぐに、アーマードワールデスのお喋り好きな性格のおかげで判明する事となる。


「スノーワールデスは惑星全体を雪で覆う、カタナワールデスは無尽蔵に刀を召喚出来る、フラワーワールデスは大量の花を咲かせ、シーワールデスは無限に海を広げた……そう、ワールデスの力、開界とは自身の名称、ワールデスの前に付く単語が意味する対象を呼び出す能力……となれば、私への銃撃を阻止した物——者の正体はただ1つだろう」


 その答えはアーマード一択である。

 そして、姿を見せず攻撃……今回の場合は防御をする事が出来るアーマードとなればその正体はもうは確定、判明していた。


「はッ……!?」


 黒姫とアーマードワールデスの狭間、互いの視線が交差する所──そこに『鎧』が現れ、その正体を、存在を明らかにする。

 その姿、形を見て最も動揺し、驚愕の色を示したのは黒姫であった。

 その反応の理由、原因である『鎧』のフォルムは──


「私の……鎧……」

「執事、又は戦闘人──の鎧……だ」


 アーマードバトラーと完全に一致していた。

 鎧の形状、体格に佇まいはどう見ても同質、同一のモノで間違いなかった。

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